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つれづれなるまま

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昔のこと、今のこと。
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2016年2月の記事一覧

溺れる

昔、海で溺れかけたことがある。

子どもの頃に流行った女性歌手の歌に「ジーンズを濡らして、泳ぐあなた、あきれて見てる」というのがあり、真似してみたかった。

別にその場に女性がいたわけではない。男の友人と二人だった。二人でズボンのまま海に飛び込んだ。房総半島の先端の方にある海岸だった。

半円形のきれいな入り江で、海はエメラルド色に透き通っていた。溺れるなんて考えもしかなった。

ただ、しばらく泳

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神保町の喫茶店のこと

 もう20年ほど昔になりますが、東京の神保町に「きゃんどる」という喫茶店がありました。新聞で川端康成が通った店として紹介されているのを見て、興味を持って行ったのが最初でした。

 店は古本屋街の奥の、時代から取り残されたような下町にひっそりとありました。そこは、千代田区という東京の真ん中なのに、近所では普通の八百屋が営業しているような不思議な場所で、喫茶店は、いつも奥に座っていてあまり動かないおじ

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桜の木の思い出

大学生の時、小学校時代の友人と3人で、バイクに乗って東北を旅をしたことがある。

季節は5月の連休だった。私の実家があった東京に集まり、そこから目的地も決めず、なんとなく北に向かった。あの頃はよくそういう旅をした。

国道6号線を北に進み、夜になると泊まれそうな場所を探した。初日は、茨城と福島の県境付近にある小さな漁港の無人駅舎に泊まることにした。

飲酒は出来る年齢だったがお金がないので、しらふ

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”しみわたり”のこと

雪国で暮らしはじめて、もう随分たちますが、よそ者の私にとって、雪はいまだに珍しい自然現象です。

雪で苦労する人も多いので申し訳ないのですが、降り始めた雪を見るとわくわくした気持ちになり、もっと降れと心に願ってしまいます。

特に風がない深夜の、雪が降る風景の中では、すべての音が雪に吸い込まれていくようで、不思議な静けさにつつまれます。

眺めていると、雪が音と一緒に煩わしい事々も吸いとってくれる

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黄金色の輝き

人の記憶は、どれくらい長く物事を覚えていることが出来るのだろうか。

どれくらい時間が経てば、今の気持ちを忘れてしまうのだろう。きっといつかは忘れる。

でも、たとえ忘れたつもりでも、突然ずっと昔の記憶がよみがえる時がある。

私の高校は、東京の荒川という川幅が1キロほどある巨大な人造河川の近くにあった。

荒川は私の家とは逆の方向にあるのだが、川を渡って帰る時があった。

親しくしていた友人の家

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イカのはなし

数年前、アオリイカが大量に釣れた年がありました。

アオリイカはスーパーでも、確か1匹1000円くらいする、高級魚(イカ)です。

その年、職場の釣り好きなおじさんに声をかけていただき、何度か釣りに行きました。

このイカはルアーを使って釣ります。

エギとかいうルアーは羽をとじた鳥のような形をしていて、イカは何と間違えてこれに飛びつくのか見当もつきませんが、たぶんネコが理性にかかわらずヒモに飛び

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pity's

高校生のころ、夏目漱石の小説にはまった。

当時、文学好きな気になる女性がいて、話題作りのために読みはじめたのが正直なきっかけだった。

初期の作品は漢文調が強すぎて、面白味が感じられなかったが、『三四郎』以降の作品は大抵読んだ。

特に『三四郎』は面白くて繰り返し読んだが、作品中の「Pity’s akin to love」のフレーズが心に残った。

意味は「憐れみと愛情は似ている(あるいは、同じ

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