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"自然体"って何だろう

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第6シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング


という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。



今回は、メインキャラ4人のコーナーの3つ目、
「さばみそ博士の『Best Hit DHA』」をお送りします。
<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。




~さばみそ博士の「Best Hit DHA」~



沖縄の民家で「ゆんたく」に参加しているもんじゃ姫。


本場で食べるゴーヤーチャンプルーも、海ぶどうも、ジーマーミ―豆腐も、


もう何から何まで旨い。人も優しい、海も美しい、言うこと無し。


お酒が入ったからか、すっかりご機嫌に踊っている人達もいて、


三線を弾く女性は、小気味良く「あいや、あいや」と合いの手を入れる。





沖縄で三線を弾いて「あいや、あいや」と言っている女性を、


TVなどでよく目にしたが、どんな気持ちで「あいや」と言っているのか。


かねてからどうしても気になっていたもんじゃ姫は、


ここぞとばかりに三線の女性に近付き、声をかけてみることにした。





もん「すいません。


   …今それ弾いてる時、どんな気持ちなんですか」


女性「はぁ?」





次の瞬間、目の前に現れたのは、ハバネロ姉さんの顔だった。


もん「あ、あれっ…!?」





机の鉄板には、マザー牧場のジンギスカンがジュージューと焼かれている。


同じ机の座席に、ブルーハワイ兄貴とさばみそ博士も座っていた。


夢から目覚めてものの5秒で、今の状況をしっかりと理解したもんじゃ姫。





もん「わぁ、ジンギスカンとっても美味しそうだねぇ~」


姉さん「ごまかせるか、この寝坊助」


即座に突っ込まれ、みるみる耳が赤くなるもんじゃ姫。





兄貴「沖縄のゆんたくは楽しめたか?」


博士「三線の女性への質問は、空振り"三振"だったようですな」


もん「ちょ…ちょっと、何言ってるのか分からないけど、


   わ、私はこの、美味しそうなジンギスカンを、食べようかしら…」


自分で寝言を話し続けていたにも関わらず、


見ていた夢を人にほじくり返されると、死ぬほど恥ずかしいもんじゃ姫。


焼きたてのジンギスカンをタレも付けず口に運び、


「あちぇちぇちぇちぇ」と、口の中を軽く火傷しているご様子。





兄貴「しかし、マザー牧場は今日も凄い人だな」


博士「やはり皆さん、動物に癒されに来られてるのでしょう」


牧場内のレストランから見渡せるどのエリアも、


動物見たさに訪れた家族連れやカップルで溢れ返っている。





姉さん「今のご時世、動物というかペットブーム凄いよな」


もん「TVにも可愛い動物が、しょっちゅう出てるよねぇ」


兄貴「"イナバ チャオチュール"のCMなんか、親の顔より見たぜ」


博士「今や各局、どこもペットブームに乗っている感がありますな」


レストランから見える「アグロドーム」のショーでは、


アルパカ達の登場に、子供や女性から黄色い歓声が上がっている。





姉さん「動物を溺愛して可愛がるのも良いけどさ。


    まず一番に、子供とか家族大事にしろよとは思うよな」


兄貴「姉さんは、"族"の仲間を何より大事にしてるからな」


姉さん「誰が暴走族だ!」


強烈なエルボーが、兄貴の脇腹に突き刺さる。





博士「一家の大黒柱である父親が、"家での扱いは犬以下だよ"なんて


   ボヤいてるようなケースは、割とどこでも聞かれる話ですな」


もん「そういうのよく聞くけど、お父さん可愛そうだよね」


近くのテーブルでは、料理の前でダブルピースしている母と娘を、


父親がスマホで写真撮影をさせられている。


「ちゃんと撮ってよ!」とスマホを突き返され、撮り直しのようだ。





兄貴「会社で汗水垂らして働き、家では犬以下の扱い…、くぅーっ」


世のお父さんを思いながら飲むビールは、いつも以上に辛い。


もん「博士が読む小説とかでも、そういう家族って出てくるの?」


博士「家族小説も好んで読んでいましたが、


   最近はちょっと、一風変わった暮らしぶりの小説も読みましたな」


姉さん「ほう、一風変わったとは」


博士が本を紹介しだすと、姉さんはいつも前のめりに聞き始める。





博士「ちょっと長いタイトルなんですが、大木 亜希子 さんの書かれた、


  『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』


   という小説が、非常に面白かったですね」


兄貴「ラノベみたいなタイトルの長さだな」


姉さん「元アイドルが、おっさんと一緒に住むのか?」


博士「まぁ、そういうことですな」


もん「ひぇーっ、凄いね」


驚きながらも、ジンギスカンを食べる手が止まることは無いもんじゃ姫。





博士「この作品は、作者の大木さんの"実録"私小説ということで、


   AKB系列のグループでアイドルとして活動された後、


   そうしたご経験を活かしたライター業に移られていく過程で、


   20代後半の女子が日々葛藤する様が、赤裸々に描かれています」


姉さん「こないだの、女子会のマンガにも近いものを感じるな」


兄貴「20代後半、何かと悩みが絶えない年頃だな」


姉さん「お前、悩んだこと無いだろ」


兄貴「んなこと無いっスよぉ」


相変わらず能天気な顔をして、焦げ目の付いたソーセージを貪る兄貴。





博士「ライターの仕事でキャリアアップを目指しつつ、


   バイトで生活費を稼ぎながら、婚活にも勤しんでいた著者が、


   あるとき、その色んな精神的なストレスの蓄積によって、


   突然、駅で動けなくなってしまったんですね」


もん「えぇーっ」


兄貴「色々抱え込むと、そういうこともあるよな」


姉さん「お前に何が分かるんだよ」


博士「それを機に、精神科にかかるようになり、仕事も辞め、


   風呂無し六畳一間のアパートで収入が尽き、貯金は僅か10万円。


   タイトル通り"人生が詰んだ"時に、お姉さんから、ある知人男性と


   ルームシェアで一緒に住んでみなさいという提案を受けるのです」


姉さん「それはまた、急展開な話だな」


近くのテーブルでは、母と娘が食べたいといったメニューを、


お父さんが店員を呼んで注文をさせられているようだ。





博士「"ササポン"と称される、そのいわゆるおっさんとの生活で、


   荒れ果てていた著者の人生が少しずつ好転していく過程は、


   Webコラムで公開された当時、twitterでもトレンド入りする程、


   非常に大きな反響を呼びました」


姉さん「20代で元アイドルの女性とおっさんが同居するって、


    何かよからぬことでも起きないかと、つい心配しそうなもんだが」


博士「ふたを開けてみると、お姉さんの勧めは正しかったんですね」


もん「"ササポン"、良い人だったんだね」


兄貴「代わりに、"兄ポン"が同居してやっても良かったんだけどな」


姉さん「何が"兄ポン"だ、このバカたれ」


焼きたてのトウモロコシを口に突っ込まれ、謎の声を発する兄貴。





博士「同居人の"ササポン"は、いつも安心感をくれる男性である一方、


   著者に近付いてくるありとあらゆる男性は、


   ことあるごとに著者の心を揺れ動かしているように感じました」


もん「元アイドルだけに、出会いがたくさんあるんだね」


博士「中でも過去のある失恋は、著者の心に長く影を落としていて、


   それに対する苦悩や、友人達からの励ましの様子も印象的でしたね」


姉さん「生きてると色々、谷底を経験することもあるからな」


兄貴「シャバの空気はやっぱり美味いなって感じますか」


姉さん「誰が前科者だ、この野郎!」


中指第2関節の堅い所が、兄貴の左太腿のツボにジャストミート。


左足全体がジーンと痺れ、「あぁぁ~」と間抜けな声を上げる兄貴。





博士「おそらく、この作品の云わんとする大きなテーマの1つは、


   "自然体"って何だろう、ということかと思われます」


もん「自然体?」


博士「"ササポン"がいつも、穏やかで自然体に過ごしている一方、


   元アイドルだけに、自分をどう見せるかをいつも考えている著者。


   見せ方ばかりを考えるがあまり、自分の"自然体"が何なのかを


   見失ってしまうことは、誰しも起こり得るのだと思います」


もん「自然体で生きるって、難しいよねぇ」


兄貴「本当だよねぇ~」


姉さん「お前ら2人、自然体そのものじゃねぇか!」


近くのテーブルの家族は食後、「次、何見る?」と話す母娘をよそに、


お父さんがレジで会計をしながら、小銭の出し入れにもたついている。





博士「血の繋がりも無く、年代も離れた人同士の暮らしの方が、


   もしかすると意外に、お互い自然体でいられるのかもしれません。


   まぁ、あくまでこれは一例でしかありませんが」


もん「自然体の暮らし、かぁ…」





実の家族が、敵か味方かも知れない現代社会。


人々の暮らしぶりが、本来どれだけ多様なものであるかを、


1つの小説の事例から、強く考えさせられた一同であった。





~さばみそ博士の「Best Hit DHA」 終わり~

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