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うっかり洗濯機に入れてしまい

先日の投稿に引き続き、人形劇シナリオの
第6シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、オープニングをお送りしたいと思います。


<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。



~オープニング~



「早くやれよ、お前!」





10歳以上若い上司からの怒鳴り声が、未だに頭に響く帰り道。





万年平社員、サラリーマン生活30年。


大して中身のない寂しい頭を人様に下げ、何とか給料を貰い続けてきた。





「周りを見ろ」と言われることが多い男だったが、


上司に怒られている時、周りの席でクスクス笑ってこっちを見ている、


若手社員達の顔だけは、いつも鮮明に視界に入っていた。


そんな自分のように何の才能も無い人間でさえ、


人前で頭を下げ、恥をかきさえすれば、暮らしていくことが出来る。


つくづく日本は豊かな国だと思う。





社員単体で見れば、ただの無能な中高年であっても、


勤め先の会社は誰もが知る、あの有名上場企業。


給与の金額はもうかれこれ10年以上気にしていないが、


一応、今日は給料日である。





「ただいまー」





玄関で挨拶こそしてみるものの、今日も返事は無い。


会社では平社員、家では"犬より下"の立場のため致し方ないが、


普通の家庭なら「お帰りー」と返ってくるものなのだろうか。





自宅の中で最も面積がコンパクトと言える自室に入ると、


ドアの前に、1万円札が2枚落ちていた。


給料日になると、嫁が小遣いを部屋に投げてくれる。





「これで、また生きていける…!」と、いたく安堵する男。


この日の財布には、もう残金が300円を切っている状態だった。





スーツをハンガーにかけ、除菌スプレーを一吹きすると、


Yシャツとスラックス他、服一式をビニール袋に入れ、


普段着に着替え、一息付く男。





間違っても、脱いだ服を洗濯機に入れてはならない。


一度、自分の服をうっかり洗濯機に入れてしまい、


高校生の娘にガチ切れされたことがあった。


年頃の女子は難しいということをかねてから聞いてはいたが、


あの時は冗談抜きに殺されるかと思う程の剣幕だった。


汚い中年オヤジの服など、近所のコインランドリーで洗う他無い。





リビングでは嫁と娘、そして中学生の息子が、


TVを見ながら楽しそうに談笑している声が聞こえてくる。


そんな時も、男はただ自室で息を潜めながら過ごすのが常だ。





少しすると、部屋の前で3人が歩いている足音が聞こえてきた。


どうやら3人でファミレスにディナーのようだ。


嫁は一切、料理など作ったりはしない。





息を殺し、彼らが家を出るのを待っていると、飼い犬の鳴き声がした。


嫁と娘が大層可愛がっている声が聞こえてくる。


女性は動物の前でしか出さない、特殊な声を持っているものだ。


すると突然、ドアがバーンと蹴り開けられた。





「早く散歩行けよ、お前!」





いきなりの嫁の怒鳴り声に、心臓が止まると思ったが、


反射的に「すいませんっ」と謝ってしまう男に、


娘は目線を向けることも無く「キモイ」の一言。


息子は何も言わず、静かに母と姉に着いて歩いて行く。


味方はしてくれないものの、おそらく彼も自分と似た性格だろう。





御一行様が楽しいディナーに出発した所で、


衣服を入れた袋を持って、ワンコと夜の散歩に出かける男。





静かな住宅街の夜空は、今夜も星がきれいだ。


半世紀生きて、もはや何が幸せなのかも分からなくなってはいるが、


どんなに愚かな人間の頭上にも、平等に星空は広がる。





いつもの見慣れた家並みを歩き、コインランドリーで汚い衣服達を洗浄。


同じ道を帰る途中、見慣れない家が1軒あることに気付く。


家に近付きワンワン吠える犬を、男はぼんやり眺めていた。





老後の楽しみに、投資用で庭付きの戸建を購入した女性。


コーヒーを飲みながら、知り合いのもんじゃ姫に自慢気に話している。





女性「齢70にして、ココ買っちゃったの」


もん「すごーい。とっても素敵なお家」


熱いブラックコーヒーが苦手なもんじゃ姫は、


ミルクを3つに、加えてスティックシュガーを投入し、


早く冷めるようによく混ぜている。





女性「私が、この住宅街に物件を買った理由が分かる?」


もん「えっ…、あの、安かったからとか?」


女性「それもある。でも、もっと大きな理由があるのよ」


もん「もっと大きな理由…?」





女性の云わんとしていることがよく分からないまま、


まだ温くなりそうにないコーヒーを、ちびちび飲むもんじゃ姫。





女性の目線の先には、窓に映る星空の下で、


くたびれた服の中年男性がビニール袋を持ちながら、


元気な犬に引っ張られ、ヨタヨタと走らされている姿があった。





~オープニング 終わり~

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