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すーこ短編小説まとめ

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私の書いた短編小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
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2021年10月の記事一覧

よみがえるATM

家路を俯きながら歩いていると、知らない道に出た。目線の先に案内板。

「300m先 よみがえるATM」

「よみがえるATM?破れたお金が元通りになるATMかな。」
気になって、足が向く。着いた先には扉にMと刻まれた小屋。
扉を開けるとエコーのかかった声が響き渡る。
「今ここによみがえる!Reviving at the moment at M!」
目映い光に目が眩む。

目を開けると、亡き母の姿が

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フレームの中の光

フレームの中の光

今日もまた、踊り場へ向かう。昼休みは五階。業務時間後のひとときは三階。
踊り場は、ひとやすみできる、私の居場所。

***

職場の同僚は優しい人が多い。だから、決して嫌いではないし、尊敬している。
ただ、私は人見知りだ。忙しくて家より職場にいる時間のほうが長いのに、今、職場の部屋は少人数になるよう振り分けられ、どこにも人がいる。咳を一つ溢す、食事を抜く、それだけで心配をかけてしまう。息がしづらい

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金持ちジュリエット

紅花警察署には、毎日拾得物が届き遺失物届けが出され、如月樹里はその管理や受理に追われていた。
拾得物の大半を占めるのは財布。管理責任者である会計課長の彼女は、その業務と名前から、金持ちジュリエットと呼ばれている。

受付終了間際、一人の女性が現れた。
「落とし物を拾ったんだけど。」
「お届けありがとうございます。こちらへご記入をお願いいたします。」
名は門田澪。綺麗な筆跡でペンを走らせる。
「ご記

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違法の冷蔵庫

「粉飾決算発覚の光電機に、新たな不正の疑いです。」
アナウンサーが画面越しに淡々と報じる。

私は、祖父の代から続く家電量販店を守る店主。
幼い頃興味のなかった家電にも愛着が湧き、お客様に買っていただけると我が子を送り出すような感慨がある。

世間が言う“違法メーカー”は冷蔵庫で国内シェア20%を誇り、そこの冷蔵庫は一級品。
だが連日世間を賑わせるこの騒動で、その冷蔵庫は「違法の冷蔵庫」と詰られ、

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数学ギョウザ

「数学ギョウザ作って待ってるな。気をつけて、早く帰っておいでよ。」
数学ギョウザの季節だ。お隣の縁側から、毎年、この時期になると聞こえてくる。口癖のように、彼はそうつぶやく。
数学ギョウザってどんなのだろう。私はいつも考える。

***

またこの季節が巡ってきた。
野菜たっぷりのギョウザを包む。熱したフライパンに敷き詰め、水を回し入れ蒸し焼きに。皿に返すと焼き色と匂いが食欲をそそる。いっぱい作っ

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しゃべるピアノ

転入してきた高校の音楽室には、「しゃべるピアノ」があるという。
それは普段は見えない、聴こえない。
学校七不思議の一つに数えられている。

こんな噂を聞いて、黙っていられる私ではない。
転入から二ヶ月経った日の放課後、音楽室へ足を運んだ。試験期間中だから、ここで活動する合唱部は今いない。
引き戸に手をかけると、幸い鍵は開いていた。スリルと背徳感に、心臓が早鐘を打つ。

「もしもーし。しゃべるピアノ

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夏の約束

夏の約束

桐の箱に納められたそれを使わないまま、二年が過ぎた。

***

二年前の秋、幼なじみの光一、優花と、久しぶりに再会した。三人の就活が終わった頃合いに、光一の呼びかけで、おつかれさま・おめでとう会をしようと集まったのだ。
ふたりとも変わらず、地元の公園を駆け回っていたあのときの面影を残しながら、あどけなく笑う。思い出話に花を咲かせていたら、時計の針は日付が変わる時刻を指そうとしていた。

店を出て

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