横山 秀

以前インスタに上げていた映画や本の感想をnoteにお引越ししました。 自分の備忘録のた…

横山 秀

以前インスタに上げていた映画や本の感想をnoteにお引越ししました。 自分の備忘録のための感想を、友人・知人の多くが見ているインスタに投稿するのが恥ずかしくなってきまして。 また恥ずかしくなるまでこっそり投稿していくので、こっそりご覧いただければ幸いです。

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最近の記事

July, July / Tim O'Brien

1969年に同じ大学を卒業した学友たちの、2000年7月の同窓会の話。 主人公は不在で、卒業生1人1人の7月が順番に描かれていく。 感想としては、終盤のセリフに出てきたone last timeという表現が象徴的だと思った。 みんな53歳になって、旧友がこんなに集まるのも最後だろうという同窓会。 そんなシチュエーションが、人を大胆に、もしくは素直にしていく。 誰かが抱えていた重い秘密を打ち明けたり、 離婚した2人が初めてお互いの傷に寄り添ったり、 接点のなかった2人が一緒

    • 『黄色い家』川上未映子

      いやぁ...しんどかった。1冊に100冊分の不条理が詰まってた。 水商売のシングルマザーのもとで育った女の子が、自分の生計と居場所を手にしようとして、さらには人の分まで守ろうと背負い込んで、追い詰められていく話。 追い詰められて崩壊していく様を一人称の語り手で描写されるのが、特にしんどかった。「〇〇さんには私が必要だ」みたいな主人公の妄信が、誰のフィルターも挟まない主人公の言葉で地の文に出てくると、痛ましくてヒリヒリした。 内容に関しては、社会を知るための示唆の多い小説

      • 映画『花筐』

        人生の一本に出会った。 それくらい凄まじい映画だった。 舞台は太平洋戦争前夜の日本。 戦争に翻弄される若者たちの、儚く、時に退廃的な青春を描く。 特に開戦を知りながら踊り続けるクライマックスは圧巻。 戦場のシーンは1秒も出てこないのに、どんな戦争映画よりも戦争の悲惨さが伝わってきた。 CGてんこ盛りの映像やあえての不自然な演技は苦手な人も居るかもしれないけど、 個人的にはフィルムに宿るパワーに圧倒されっぱなしの、他では味わえない映像体験だった。 ライブに近い感覚。 も

        • Klara and the Sun / Kazuo Ishiguro

          いやー、良かった!! ちょっと切ないけど、じんわり温かい名作。 主人公のクララは人の形をしたロボット。ロボットの専門店を訪れた病弱な少女・ジョジーと運命的に惹かれあい、控えめながらも献身的に彼女に寄り添うようになる。ロボットでありながら病気を治すような技術や知識はなく、むしろ「太陽が不思議な力で助けてくれる」という迷信を本気にしているクララが本当に愛おしかった。 物語の後半になると、子どもたちは将来に悩み、大人たちは「人の心の中にはその人だけの特別な物があるのか」と悩み

        July, July / Tim O'Brien

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        • 75本
        • 映画
          60本

        記事

          『やさしい猫』中島京子

          入管に収容されたスリランカ人の父のために、妻や娘が奮闘する小説。 小説といっても、綿密な取材に基づいて入管の問題を伝えるルポルタージュ的な要素が強い。『それでもボクはやってない』の入管法バージョン、みたいな。 技能実習生を描いた映画『コンプリシティ』でも同じことを思ったけど、この国では外国人が普通に暮らしているだけでどんどん追い詰められていく。 この小説に出てくるスリランカ人の父も、オーバーステイの主な原因はビザ更新に関する情報にアクセスできなかったことで、不法滞在は意図

          『やさしい猫』中島京子

          『万延元年のフットボール』大江健三郎

          とある地方の山に囲まれた谷間の村に帰ってきた兄弟のひと冬の話。 地理的にも心情的にも閉塞した谷間の村の人々は、コリアンに村の経済覇権を握られ、ルサンチマンを募らせる。 この状況を打開するため、弟は一揆の中心人物だった曽祖父の弟を英雄視し、暴動を策略する。一方で兄は、弟が掲げる計画や英雄像に冷笑的な視線を送る。 自分にとっては、全体のテーマも個々の文章も難解で、あまり理解できた自信はない。 でも、自殺した友人や障害者施設に預けた息子の幻影を引きずりながら厭世的に生きてきた兄

          『万延元年のフットボール』大江健三郎

          映画『君たちはどう生きるか』

          まじでみんな感想ばらばらだけど、自分は「地球儀」を見るように今のこの世界を俯瞰する映画だと思った。 今の世界はたまたま1日ずつ記録を更新している不安定な積み木みたいなもんで、そうじゃない世界がいくらでも有り得たはず。 ポスターの目は、そんな「そうじゃない世界」から「君たちはどう生きるか」と問うているように思えた。 この世界に居るうちに、これまでの作品を全部フリに使ってでも、宮崎駿はそんな問いかけを残したかったんだろうなぁと。 重く受け止めざるを得ない。

          映画『君たちはどう生きるか』

          映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』

          1972年に早稲田大学で起きたリンチ殺害事件を、関係者インタビューと再現ドラマで綴った映画。 被害者は、学内の革マル派から中核派のスパイと疑われた一般学生。言葉では知っていた「内ゲバ」の内実の凄惨さに、気が遠くなる。 この映画で焦点を当てている1人の学生のほかにも、内ゲバでは100人以上の死者が居ること。 きっと負傷者はその何倍も居ること。 それが自分の生まれるたった18年前に起きていたこと。 そんな衝撃の連続に頭が追いつかず、疑問が次々と蓄積していく。 例えば、どうし

          映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』

          MAO II / Don DeLillo

          おお……。展開こそ少ないけど、ずっと緊張感のある小説だった。 貧困と暴力が蔓延する、ディストピア的な設定。 ザッピングみたいに、せわしなく切り替わる場面。 直訳すれば「毛沢東2世」となる、ミステリアスなタイトル。 そのどれもが革命前夜の緊張感を醸し出していると思った。 たぶん全体を通じてテーマになっているのは、「言葉」と「写真」。 たとえば戦争反対を訴えたり、戦地の惨状を伝えたり、一般的に「言葉」と「写真」はどちらも暴力に抵抗する手段とされる。 でも、革命家の「言葉」と

          MAO II / Don DeLillo

          『水中の哲学者たち』永井玲衣

          勝手に学術的な内容を期待していたので、エッセイ風に綴られる平易なコラムの数々に、最初は「違うな」と思ってしまった。でもだからといってこの本を閉じてしまうのは、もっと違うなと思った。 というのも筆者は「哲学対話」を実践していて、そこでは誰の意見も否定せずにゼロベースで「なぜ人は生きるか」のようなテーマを考えている。そんな筆者が答えのない日々の思考を淡々と開陳する本書に対して、早々と「エッセイ」と決めつけて途中で閉じてしまう行為は、「哲学」と「対話」からの逃避だと思えてならなか

          『水中の哲学者たち』永井玲衣

          映画『マイスモールランド』

          難民申請が認められず、仮放免になったクルド人家族の話。 日本に暮らす外国人を描いた他の作品やドキュメンタリーと同じく、日本の地獄っぷりに絶望的になる。露骨な差別主義者はあまり登場せず、悪意のない日本人のさりげない発言が少しずつ主人公の心を削っていくあたりもリアル(「お人形さんみたいね」とか「いつかは帰るの?」とかはもちろんのこと、「努力は報われる」とかも)。悪意のない人代表みたいな藤井隆が良かったなぁ。 個人的には、本作の監督が是枝監督に影響受けてるだけあって『誰も知らな

          映画『マイスモールランド』

          『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎

          要約 現代の諸言語は、能動態と受動態の二項対立を前提としている。でも実際の日常は、「する(能動)」と「させられる(受動)」に区分できない行為にあふれている。例えば誰かにお金を差し出す行為は、現代語では能動態で記述される。でももしカツアゲでお金を差し出しているのであれば、その行為は受動的とも言える。逆に寄付であった場合でも、その行為の裏には無意識の名誉欲があったかもしれないし、そもそも「お金があればこの人は助かる」という考え自体もどこかで学び得たものだし、100%自発的な行為は

          『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎

          A Pale View of Hills / Kazuo Ishiguro

          「ザ・カズオイシグロ!」って感じの、記憶がテーマの作品だった。 代表作のRemains of the dayが「自分の政治的立場を正当化するための美化された回想録」だとすれば、本作は「自分の母親としての立場を正当化するための美化された回想録」。 今以上に「日本の母親=家庭に尽くす」のスタンダードが支配的だった終戦直後の長崎で生まれ育ったものの、スタンダードから大きく外れて「渡英」や「再婚」、そして「家族の崩壊」を経験した主人公の不安定な自意識が垣間見える回想録だった。

          A Pale View of Hills / Kazuo Ishiguro

          『憲法学者の思考法』木村草太

          気鋭の憲法学者が時事問題を憲法の視点で解説した本。 なるほどー、の連続で面白かった。 例えば同性婚。憲法24条で婚姻の成立が「両性の合意のみ」とされているのを踏まえると、同性婚は憲法では認められていないようにも思える。でも「両性」という表現には男性側の意向のみで結婚が決まった時代の反省が、「のみ」という表現には当事者以外の家族の意見が強かった時代の反省が表れている。あくまでも個人を尊重する文脈での条文であり、24条は同性婚の否定ではない。同性婚について議論するなら、24条よ

          『憲法学者の思考法』木村草太

          『献灯使』多和田葉子

          複数の友人が話題にしてると気になるの定理で読んだ一冊。冒頭から主人公の名前が「無名」だったり、老人ほど元気だったり、現実をふわっと相対化させる非現実な設定が続々。 でもそんな設定が積み重なってもカオスに陥らず、むしろだんだん浮かび上がる緻密な作品の世界に引き込まれていく。 訳わかんないけどちゃんと面白い、ランジャタイに似た偉業を達成していると思った。 そしてそんなギリギリのバランスで構築されたこの小説の設定は、多分、環境が汚染され尽くした未来の日本。子どもはみんな虚弱にな

          『献灯使』多和田葉子

          『JR上野駅公園口』柳美里

          とある男性の一生を、一人称の詰り手で回想した話。 出稼ぎ続きで家族の時間の奪われ、働く目的だったその家族にも先立たれ、あてもなくたどり着いた上野公園でホームレスになり...。 軽々しく言われる「みんな」とか「私たち」から何重にも排除された人生が、 緻密な取材でリアルに描かれ、深みのある文章で息を吹き込まれていた。 物語の終盤では、天皇家の行幸のためにホームレスが立ち退きを指示される。 上皇と同じ年に生まれ、全く異なる陰の人生を歩んだ男性が「上野恩賜公園」からも排除される

          『JR上野駅公園口』柳美里