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『献灯使』多和田葉子

複数の友人が話題にしてると気になるの定理で読んだ一冊。冒頭から主人公の名前が「無名」だったり、老人ほど元気だったり、現実をふわっと相対化させる非現実な設定が続々。

でもそんな設定が積み重なってもカオスに陥らず、むしろだんだん浮かび上がる緻密な作品の世界に引き込まれていく。
訳わかんないけどちゃんと面白い、ランジャタイに似た偉業を達成していると思った。

そしてそんなギリギリのバランスで構築されたこの小説の設定は、多分、環境が汚染され尽くした未来の日本。子どもはみんな虚弱になる一方で、老人は医療の発達からか汚染の責任からか死ぬこともできない。本州ではもうまともに農業も出来ないが、厳格な鎖国で海外からは食べ物も言葉も文化も輸入されない。

そんなわけないデフォルメされた設定の中に気候変動や反グローバリズムの妙なリアリティが通底し、読み手に緊張感を与える1冊だった。
しかもリアリティは通底するだけじゃなく、急に端的な言葉になって表面を突いてくる。
自分の分まで食べ物を分けてくれる大人に対して虚弱な子どもが「子供が死んでも大人は生きていけるけれど、大人が死んだら子供は生きていけないよ」と言うシーンにはハッとした。
きっとランジャタイがいきなり正統派の大喜利出してきたら気分になるんだろうな。

amazarashi主題歌で映画化希望。

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