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読書感想 三島由紀夫 「鏡子の家」

三島由紀夫の傑作長編。
単行本は前半後半の二冊構成で、新潮文庫では一冊で出版されています。
1959年(昭和34年)刊行で三島中期の代表的作品の一つです。

単行本 鏡子の家1.2

あらすじ
資産家の令嬢である鏡子。その家に集まってくる四人の若者。それぞれが人生の巨大な壁の前に為す術もなく立ちつくしていた。世界滅亡と狡猾さを信じるサラリーマン清一郎、大学ボクシング部の選手峻吉、画家の夏雄、無名俳優の収。今をいかに生き、先をどう見据えたらよいのか、四人四色の自信と葛藤の中、事ある毎に鏡子の家に向かう。輝きと苦しみの中それぞれがそれぞれの姿勢で結末に向かう。

感想
鏡子はその名の通り四人を映し、照らす様な役割となります。三島作品は登場人物の名前にその人間性を表す場合がありますが、この鏡子もそれにあたり、優しく上品で、包み込む様な包容力と冷静さを持ち合わせています。
主人公ではありますが、スポットが当たるのは主に若者四人で、後の小説ではたまにみられる章毎にパート分けしながら一人一人が描かれていく構成になっています。
近年のミステリーですと最後に全員の描写で種明かしとなる様な流れで、前半は各々ドライに生きていく、それぞれに熱が込もっていき、ラストへ向かう。
この登場人物達は見事に全員に、三島由紀夫の人格が散りばめられていて、また、取り巻く環境の描写、心境の変化の表現が見事で、読み進める程に人物像が明確に立っていきます。
鏡子の家について何かの記事で読んだ、
「この五人の中であなたは誰ですか?」
と言う言葉がありました。たしかに、読手からすると、この中の誰かに共感し、感情移入するのかもしれません。ただ、面白いのは、私も読んでいて、誰と誰がいいなと思っていたら、読み進めていくうちに、あまりいいと思っていなかった誰が結局真実を見ていたのでは?と感じたりします。
そもそもが名作ですので、出来が素晴らしいのはもちろんですが、三島文学でありながら、現代小説の礎の様な要素が多分にある作品です。
そしてかなり長い作品ですが、それも相まって読後感は本当に最高の一冊です。
最後にあえてこの言葉で、
「この五人の中であなたは誰ですか?」

三島由紀夫 「鏡子の家」

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