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根室のカミカゼ

「千マイルブルース」収録作品

根室で誘われた仕事は、なんと「特攻」だった。


根室のカミカゼ

 旅の資金が底をつき、さてどうするかと、俺は根室のキャンプ場で思案していた。
 途中で見かけた貼り紙の、日払いの缶詰工場にでも行ってみるか。いやせっかく海まで出たのだ、漁の手伝いでもして、新鮮な幸を恵んでもらおう。俺は呑気に町に出た。
 しかし、ない。港や土産物屋などをあたってみたが、まるで仕事にありつけない。同じような旅人に持っていかれたか? いや、違う。俺のこの、うさん臭さのせいだろう。
 俺は、傍らのカーブミラーを見上げた。汗臭い体にまとった、薄汚れた革の上下。伸ばしっぱなしのヒゲにボサボサ頭。体力というより腕力はありそうだが、ずる賢さもありそうだ。つまりどう見ても、住所不定のワケアリ者。
「……そりゃあ、まともな雇い主なら断るわなあ」
 腹も減り、仕方なくコンビニの駐車場で握り飯を食っていると、軽トラが勢いよく隣にやって来て停まった。見るからに漁師のゴツイ男が二人降り、バイクと俺を交互に睨みつけてくる。
「……あんたか、仕事を探してる流れ者ってのは?」
 流れ者か。俺は内心苦笑した。港で俺の噂を耳にした、漁業関係者なのだろう。けれどその二人からは、潮の香りとは別の、ヤバい匂いが漂っていた。
「ひとり足りねえんだ。船に乗らねえか?」
「船?」
 片割れの男がニヤリと頷いた。
 特攻船だった。

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