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富野由悠季、宮崎駿へのあくなき挑戦

私は子供の頃からガンプラなど触ったこともなく、正直いうとロボットなどカッコイイと思ったことは一度もない。
そんな私ですら、アニメを見る際には「ガンダム」の道を避けることはできなかった。
まあ、名作だよね。
だけど、もしまだ「ガンダム」を見たことない人にお薦めは?と聞かれれば、私なら基本線になる「宇宙世紀」シリーズを全部すっ飛ばす形でお勧めすると思う。

<ガンダムシリーズ>
【宇宙世紀シリーズ】
機動戦士ガンダム、Zガンダム、ガンダムZZ、逆襲のシャア、Vガンダム、
ガンダムUC、ガンダムNT、ORIGIN、閃光のハサウェイなど。

【アナザーガンダムシリーズ】
ガンダムW、ガンダムX、ガンダムSEED、ガンダム00、Gのレコンギスタ、鉄血のオルフェンス、水星の魔女など。

もちろん他にもたくさんあるんだが、代表的なのをざっと挙げてみた。

歴代のガンダム

「宇宙世紀」というのは、初代のアムロやシャアがいた世界線の話である。彼らの死後も戦争は終わることなく継続し、ジオン公国の幼かったミネバ姫がやがてヒロイン的立ち位置になっていく。
もはや完全に大河ドラマになっていて、よっぽど好きじゃないと見るのは
しんどいよ。
それでも敢えて、この中から最低限のチョイスをするなら
・機動戦士ガンダム(古典)
・逆襲のシャア(アムロvsシャアの決着)
・ガンダムUC(後日譚としてミネバ姫の活躍)
の3つかなぁ。
私が「宇宙世紀」を無理にお薦めしない理由は、必要以上に鬱展開が多いからである。
特に「Z」や「V」あたりは、富野氏が鬱病ではないかと疑ってしまうような内容。
正直、見なくていいよ。

「宇宙世紀」の歴史年表

そして「アナザーガンダム」については、「宇宙世紀」と世界線が繋がっていないパラレルワールドと捉えればいい。
まあ、この中で私が好きなのは
・ガンダムSEED(プロットは初代とほぼ同じ)
・ガンダム00(シリーズ屈指のユニークな脚本)
・鉄血のオルフェンス(内容はほぼ「仁義なき戦い」)
の3つだね。
特に「ガンダムSEED」は初代のリメイク版ともいえるので、これを見ておけば「宇宙世紀」は見ずともOKだと私は思う。

「SEED」には「SEED DESTINY」という続編があります

富野由悠季が初代の「機動戦士ガンダム」を作ったのは1979年であり、ちょうどその頃、アニメ映画でヒットしていたのが「カリオストロの城」なんだよ。
そう、宮崎駿は富野氏とほぼ同時期にヒットを飛ばしてたわけね。
このふたりは、同じ1941年生まれ。
とにかく富野由悠季は、昔から宮崎駿を意識してたっぽい。
彼が「この作品をぶつけてナウシカを潰そう!」とスタッフに檄を飛ばしたのが、1983年の「聖戦士ダンバイン」だといわれている。
これは、富野作品に珍しい異世界ファンタジーなんだ。
ただ主人公が異世界に召喚されるという展開は83年当時あまりにも先進的すぎたのか、翌年「ナウシカ」が大ヒットを飛ばしたのと対照的に、大コケしたんだよね。
今改めて見ると、結構凄いんだけど。
だって、魔法があって妖精がいるような世界観の中で、主人公たちはモビルスーツの操縦をしてるんだから。
富野氏的には「ナウシカ」に寄せていった世界観だったんだろうが、その為に、まさか異世界召喚という設定を使ってくるとは・・。
しかもシナリオは相変わらずぶっ飛んでいて、異世界から現実世界に帰還した主人公がこっちの世界ではバケモノ扱いされ、指名手配の末に「殺した方がいい」と母親に銃で撃たれる始末。
さらに物語の終盤には異世界の敵勢力が米ソ軍と同盟を結び、現実世界で
第三次世界大戦が勃発してしまう、という収拾のつかない展開。
よくもまぁ、こんな破天荒なシナリオを思いついたもんだわ。
アイデアが30年早すぎた「聖戦士ダンバイン」、富野氏としてはこれでも渾身の企画だったらしく、一度アニメがコケてもスピンオフ小説などを地道に続けており、そのうちまたこの企画をアニメで見られそうな予感はある。

「聖戦士ダンバイン」

しかし、こうやって富野由悠季が一方的にライバル視してくるのを尻目に、宮崎駿はその後もずっとマイペースを貫いていた。
富野氏がわざわざ「ナウシカ」と戦う為に「ダンバイン」という異世界物を作ったというのに、宮崎駿の側から富野氏の土俵に寄せていくことはその後もなかったわけで。
そもそも、彼はロボットをあまり描かない。
しいていうなら、「ラピュタ」のやつか。

「天空の城ラピュタ」

いや、厳密にはこれ以前の1980年、テレビアニメ「ルパン三世」第2期最終話で彼はロボットを描いてるわ。

テレビアニメ版ルパン155話「さらば愛しきルパンよ」

ロボットのデザインが、ほぼ「ラピュタ」と同じ(笑)。
巨匠は、このデザインしか描けないのか?
そういや、これ以前にこの人は「未来少年コナン」でもロボットっぽいのを描いていた。

「未来少年コナン」

腕が足よりも長い独特のフォルムは、この頃から健在だったようだ。
思えば、「巨神兵」もやたら手が長い。

巨神兵

これをロボットと定義づけていいかは微妙なところだが、設定としては人間が遺伝子工学の粋を結集して作った人型兵器とのことで、有機的ではあるがロボットみたいなもんだろう。
これの作画を手掛けたのが庵野秀明で、やがてこのコンセプトが「エヴァンゲリオン」へと繋がる。

エヴァンゲリオン

やはりこれも少し腕が長く、宮崎駿のDNAが入ってるね。
有機的な要素はやや抑えてあるから、
(ガンダム+巨神兵)÷2=エヴァンゲリオン
といったところか。
生みの親は庵野秀明だけど、祖父と祖母は富野由悠季、宮崎駿ということになるんだろう。
最高のDNAじゃないか。

さて、富野由悠季に話を戻そう。
富野氏は「ダンバイン」がコケたのをもって、もう宮崎駿への挑戦は諦めたんだろう、と我々も思ってたんだが、実はそうでもなかった。
そう、1999年に彼は「∀ガンダム」という一風変わった作品を作ったんだ。
ちょうど、この頃はジブリ黄金時代。
富野氏は、また「ガンダム」をそっち側に寄せていった。

「∀ガンダム」のワンシーン

この絵を見て、誰も「ガンダム」だと思わないだろう。
まるで「世界名作劇場」。
しかし、この絵のふたりが「∀ガンダム」の主人公とヒロインなんだ。
舞台は中世ヨーロッパ風の世界観。
ただ、ネタバレをするとこの世界は中世ヨーロッパなどではなく、ず~っと遠い遠い未来の物語である。
というのも人類の文明社会は一回滅びて、そこから気の遠くなるような歳月の末に再び人類が文明を取り戻しつつある、という設定らしいんだわ。
で、そういう世界の中ではガンダムが古代遺跡として保存されていて・・、という物語になっており、まぁいってみれば「ナウシカ」とほぼ同じぐらいの時代設定かもしれないよね。
なかなか面白い脚本であり、私はシリーズの中でもクオリティが高い作品だと思う。

「∀ガンダム」

敢えてファンタジー色を出したかったのか、ガンダムに妖精みたいな羽が
付いちゃったりして、こういうのがあるから賛否両論ある作品なんだけど、私は結構好きだったりする。
「∀ガンダム」はシリーズの中でも特別な位置づけで、「宇宙世紀」とも「アナザーガンダム」の他作品とも世界線が繋がっている唯一の作品だ、といわれている。
要するに、どの世界線でも何千年か何万年かを経て、最終的には必ず「∀」の世界線に収束されるということだろう。
そう考えると「ガンダム」って、めちゃくちゃ救いのない物語じゃないか・・。

そう、富野由悠季って鬱的思考の人なのよ。
1941年生まれだけあって、日本の敗戦を肌身で感じ、学生時代に興った全共闘運動の挫折もまた肌身で感じ、そうやって培われてきた感性は我々とはまた異なる一種独特のものだと思う。
彼と同じ境遇を経験してきたという意味では、同じ1941年生まれの宮崎駿もそうだね。
彼もまた、その本質は鬱思考じゃないのか。
子供たちが見ることを想定した映画はともかく、多分子供たちが読む機会が少ないであろう漫画「風の谷のナウシカ」の中では、ひょっとしたら富野氏の鬱をも凌駕するかもしれない究極の鬱が描かれている。
映画では人類を救った英雄として描かれていたナウシカが、漫画では人類を逆に滅ぼしてしまうという展開に至るわけで・・。
そして「∀ガンダム」もまたそれと酷似して、ガンダムは人類を滅した存在として描かれてるんだよね。
富野由悠季と宮崎駿、このふたりって実は根本的なところで似てるのかもしれない。


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