淀美 佑子

ヨドミユーコ 1978年生まれ。2017年〜中部短歌会所属。2023年中部短歌会新人賞…

淀美 佑子

ヨドミユーコ 1978年生まれ。2017年〜中部短歌会所属。2023年中部短歌会新人賞。 短歌集団☆チカヨミ。 64調自由律短歌(#64tanka)考案。 性愛短歌ネプリ(#せいあい羅曼)発行。

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次世代歌壇 第8回毎月短歌【現代語・2月の自選】人間選者:淀美佑子

さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!人間選者・淀美佑子の選評発表だよ!! 毎月の短歌選ぶも第8回、口語文語を分かつとし、すったもんだのその後で、さてさて話はこれからだ。 2月自選の現代語、ふたを開ければ集いしは、ありがたいこと183首。 どちらに投稿すべきかと、よもや失格?などという、ご心配には及びません。全てきちんと鑑賞し、選をいたしてございます! どうぞ、今宵はお楽しみください!! 【道化師賞】 壁のカレンダー反対に巻き直しても春の辺りがカールしている/梅鶏  

    • 伊豆みつ『鍵盤のことば』書肆侃侃房*歌集鑑賞

         花の名を呼ぶかのやうに歌ふから耳がすっかり咲いてしまった  口語、文語、旧かな、新かな、どれをどう選択するかでその人の文体はつくられる。わたしに、口語に旧かなを取り入れた文体の魅力を教えてくれた歌集を読み返して紹介したくなった。  伊豆みつの歌集には、花や音楽、サブカルなど様々な要素があり、引き出しの多い歌人だと思う。「花」と「歌」が入ったこの一首は、この歌集の世界観の入り口という気がする。伊豆みつの歌を読めば「耳がすっかり咲いて」しまうかもしれない。  と思いきや.

      • 人間選者をするにあたって〈次世代歌壇 毎月短歌第8回〉

         短歌投稿サイト、次世代歌壇(コトバディア)には、「AI選者」がいるため「人間選者」という概念が生まれています。この度、その第8回毎月短歌の人間選者をお引き受けしました。その意気込みなどの表明のため記事を書きます。  まず、主催者の深水英一郎さんのXでの炎上について、わたしのスタンスを表明しておこうと思います。関心のない方は読み飛ばしてください。▶  炎上の概要としては〈今の短歌界には読者ファーストが欠けている〉と口火を切って、その文脈のなかで文語旧かなについても否定的な

        • 小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』書肆侃侃房*歌集鑑賞

             乗車位置ではないところに立っているわたしの後ろに出来た行列  行列を作るのは、もはや日本人の習性なのか、なぜ乗車位置ではないところにわたしが立っていたのかはわからないが、例えば立ち止まってスマホをいじっていただけかもしれない。だがふと気づけば後ろに列ができてしまっていて気まずいかんじが笑いを誘う。  この歌集の作者、小坂井大輔は1980年愛知県名古屋市生まれ。短歌の聖地と呼ばれている、名古屋駅西口の中華料理店「平和園」料理人である。  わたしは、昨年所属する中部短歌

        次世代歌壇 第8回毎月短歌【現代語・2月の自選】人間選者:淀美佑子

          橋爪志保『地上絵』書肆侃侃房*歌集鑑賞

           たとえ仲の良い友達だとしても、すべてを理解できるわけではない。逆もしかりで、仲が良い人にも理解されたくない部分が自分の中にある。というのは言い訳の前振りになってしまうが、橋爪志保の歌には、よくわかるものとわからないものが混在している。そのわからなさは、作歌する上での意図的なものというよりは、作者の内面をそのまま顕在化した結果という気がする。その根拠は歌集から逸脱してしまうのだが、日頃SNSで垣間見る作者の断片的なつぶやきが、ほぼこの歌集の謎の歌と同種のものだからだ。橋爪志保

          橋爪志保『地上絵』書肆侃侃房*歌集鑑賞

          笹公人『終楽章』短歌研究社*歌集鑑賞

           今話題の『シン・短歌入門』の著者、笹公人(以下、笹先生)の第五歌集を改めて味わう。  『シン・短歌入門』は、初心者にもそうでない人にも、よくある疑問をQ&A形式でわかりやすくまとめてあり、最後には既存の短歌を穴埋め問題にした短歌ドリルがあるなど、楽しく短歌が学べる素晴らしい入門書だった。丁寧で、親切で、おもしろい。入門書にも人柄があらわれている。  その笹先生の第五歌集が、2022年8月に発行された『終楽章』だ。帯文には、「念力少年四十五歳、壊れゆく父にガチで挑む。『念力家

          笹公人『終楽章』短歌研究社*歌集鑑賞

          中村孝子『あね いもうと』*歌集鑑賞

           結社、中部短歌会の先輩の歌集を拝読した。書店には流通していない歌集ながら素敵な歌がたくさんあり、最近読んだ歌集の中で最も付箋まみれになった。    反骨の精神むずと湧き出づる熊襲の裔のしたたかにあれ  作者中村孝子さんは、1936年(昭和11年)熊本県生まれ。つまり戦前生まれの大先輩だ。「熊襲」とは『日本書紀』における九州地方の地名で、熊本に生まれた作者のたくましい精神性がうかがえとても頼もしい。    被爆柳に皮一枚に命吹くしたたるみどり去年よりも濃し  戦中戦後

          中村孝子『あね いもうと』*歌集鑑賞

          佐藤涼子『Midnight Sun』書肆侃侃房*歌集鑑賞

           まもなく1か月が経過するが、能登半島地震による被災者の避難生活は続いており、行き届かぬ支援がくりかえし報道されている。個人的にはわずかばかりの支援金募金をするくらいしかできないものの、それらの報道を注視し明日は我が身と心を寄せる毎日だ。  そんな今、この歌集を改めて開いた。宮城県仙台市在住の歌人、佐藤涼子の『Midnight Sun』には、「記録」というタイトルの連作で東日本大震災の光景が描かれている。(以下抜粋)    「橋の上で止まるな!落ちる!」と言われてもどこが橋

          佐藤涼子『Midnight Sun』書肆侃侃房*歌集鑑賞

          近江瞬 『飛び散れ、水たち』左右社*歌集鑑賞*

           塩害で咲かない土地に無差別な支援が植えて枯らした花々  被災地視察に新大臣が訪れる秘書の持つ傘で濡れることなく  宮城県石巻市生まれの歌人、近江瞬は東日本大震災のその時、故郷にはいなかったという。あの日の惨状を知らないという劣等感にさいなまれながら詠まれた連作は、被災地から遠く離れたわたしたちにも、災害と向き合うことの大切さと難しさを教えてくれる。  また2024年の元日、能登半島を大きな地震が襲った。わたしが体験した東京ですら被害の大きかった東日本の惨状を思い起こされ

          近江瞬 『飛び散れ、水たち』左右社*歌集鑑賞*

          平出奔『了解』短歌研究社*歌集鑑賞*

             終電の一本前で座ってる誰もを僕と呼べそうだった  自他との境界があいまいになっていく瞬間を切り取った一首。ただでさえ右へならえの日本社会で、逃せば後がない終電ではなく、余裕をもってその一本前に乗車するリスクを冒さない価値観。そんな乗客全員が群れとなってひとつの個を作っているかのようだ。  わたしが平出奔の作品に初めて出会ったのは、文学フリマ東京で販売されていた同人誌だった。味のある手書き文字の歌集で、日常会話に近い口語を無理に定型に整えることもせず、それ故に作者の感

          平出奔『了解』短歌研究社*歌集鑑賞*

          評のことば「読みの滞空時間」

           歌会で人様の評を聞くとき、自分とは違った価値観を鮮やかに言葉にされて、はっと目から鱗が落ちることがある。そんな言葉を書き留めておきたく筆をとった。  歌会では、安直であっても一読してわかりやすい歌に票が集まりやすいことがある。よく味わって読めば創意工夫をこらしてうまく着地したなという、挑戦的な作品がその選からこぼれてしまうこともよくある。その「わかりにくさ」を、どう評するかは賛否両論にもなる。  「わかりにくさ」にも色々あるが、先の(中部短歌会全国大会)歌会では「略語」

          評のことば「読みの滞空時間」

          わたしの性愛短歌『羅曼-L'Amant-』のこれから

           さて、何からお話ししたものか。  わたしは以前、性愛短歌のネットプリント『羅曼-L'Amant』を発行していました。  その『ぷろとたいぷ羅曼』が2017年の夏ごろ。セックスを題材にして詠んだ歌を発表したところそれなりに反響を頂き、それからTwitterを通して仲間を募集し、夏冬2回のペースでvol.6が2020年夏だったかなと。それ以降コロナ禍いろいろあり、精神的にかなりまいっていたのでそれとなく頓挫してしまいました。次回参加したい、また読みたいとおっしゃってくださってい

          わたしの性愛短歌『羅曼-L'Amant-』のこれから

          水門房子『ホロヘハトニイ』ながらみ書房*歌集鑑賞*

           水門房子の第二歌集は、不思議な呪文のようなタイトル『ホロヘハトニイ』。日本音名かな?とは思ったが、短調を表していてなおかつ「短歌」の「短」にあわせてとのこと。おもしろい。  そして、特筆すべきは短歌の表記である。全て、三行分けセンタリングの分かち書きをしている。分かち書きには、ほかに今橋愛を思い浮かべるが、センタリングというのは他に知らない。水門房子は、あとがきでこの分かち書きについてこう述べている。 「ふわふわとした私の心を表すのにぴったりです。うつろいやすい心、突然

          水門房子『ホロヘハトニイ』ながらみ書房*歌集鑑賞*

          随筆*かえらない風景 

           先日おもしろいTシャツを買ってしまった。黒地で、前側には白い「BASHO」のロゴ、背中側には「Mar.27 Fukagawa」から始まり「Sep.6 Ogaki」で終わるスケジュールがびっしり記され、赤い文字で「1689 The Narrow Road to the Deep North Tour」と冠されている。そう、これは松尾芭蕉の『奥の細道』を、バンドのツアーTシャツ風にデザインしたものなのだ(笑)  今年、2023年の夏はコロナ禍から一転、四年ぶりの解放感にあふれて

          随筆*かえらない風景 

          『幻桃』2023年1月号/『短歌人』2023年1月号 【歌誌遊覧】

           『幻桃』二〇二三年一月号  幻桃短歌会は岐阜を中心とした全国結社で、アララギ、未来の流れをくみ今西久穂などが創刊に深く関わり、二十年余り続いている。この号では、第二十三回幻桃全国大会の歌会記や講演記録が掲載されている。特に興味深く拝読したのが、講師きさらぎあいこ氏の講演記録「今西久穂の歌」(文責・太田美千子)だった。わたしはまだ触れたことのなかった歌人・今西久穂の作品や人柄について、深く熱い語り口に感銘を受けた。  菩提樹の落葉踏みくる長靴は刑期終えたるラスコリニコフ(今

          『幻桃』2023年1月号/『短歌人』2023年1月号 【歌誌遊覧】

          『地中海』2023年1月号/『COCOON26号』2022年12月 【歌誌遊覧】

           『地中海』二〇二三年一月号  昭和二十八年に、香川進を編集発行人として創刊した『地中海』は、その創刊理念「文化としての地中海」について裏表紙に記載がある。(以下抜粋)”明朗で明るく、同時に人間的な感情とつよい同化力。(中略)源泉的精神の本質的な方向を指向するもの、それが「地中海」である。”  香川進は、昭和初期に口語自由律短歌を牽引したという前田夕暮の門下である。ゆえに、その自由の精神が受け継がれているものと思われる。誌面を見ていくと、自由な雰囲気はありつつも、特に自由律

          『地中海』2023年1月号/『COCOON26号』2022年12月 【歌誌遊覧】