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短歌マガジン(次世代短歌) 第10回毎月短歌【現代語・テーマ性愛】人間選者:淀美佑子

 さてさてみなさま、ごきげんよう。選評発表のお時間です。
求めあう人の性から生まれたる歌のテーマの性愛は、いつの時代も色褪せぬ。百五十一首のなかから捨てきれぬ愛をいくつも拾い上げ、咲き乱れるはこの十首。人間選者、淀美佑子がお送りします。どうぞ

【バーレスク賞】
脱衣所で裸の二羽の人間が鳥の部分を見せ合う真冬 /猫背の犬

 人間の単位は、はて?羽があるかのように二羽と数えるふたりには、鳥の部分があるらしい。寒さのなかに湯気がたつ冬の脱衣所では、ふたりの距離もぐっと近いことだろう。そこでお互いの体の部分を見せ合う秘め事が、ミステリアスで官能的だ。

【化粧前賞】
愛ということばを纏う夜だから偽りのない素肌に触れて /真朱

 「愛ということば」は主観であり、その真意を推し量ることは難しい。この歌からは、作中主体が愛にはいつも偽りが混ざっているけれど、体という実体には偽りがないという主張が読み取れる。けれどその素肌に触れれば、もしそこに愛があるのあるのなら、それは率直に伝わるのだろう。

【花密賞】
性愛を歌えば風に煽られて上向きに咲くチョウセンアサガオ /waka_na

 テーマ「性愛」のなかで、ストレートに「性愛」の語句を詠み込んだのはこの一首だけだった。この上の句を受けて下の句を読むと、これがどういう比喩なのか想像がかき立てられる。風に煽られてめくれ上がるスカートなのか、あるいは毒のある花として女性器を示しているのか。性愛に対する読み手の感性を、挑戦的かつ魅惑的に試してくる。

【甘露賞】
くちびるを覆う刹那に駆け抜ける甘さはグラブジャムンを超える /ef(エフ)

 世界一甘いと言われるインドの菓子「グラブジャムン」をもってきた、一点突破につきる一首。甘さの限界突破。甘味とは、人を狂わせる快楽のひとつであることを、抗いようのないスピード感でつきつけてくる。

【プラトニック賞】
愛情が受精に見えて何一つ触れてなくても好きと言ってよ /外村ぽこ

 「愛情」と「受精」の形が似ているという気づき。しかしこのふたつの言葉には乖離があって、受精への生々しい行為を遠ざけて愛情を求める下の句がある。行為の前に、欲しい気持ちがある。

【月陰賞】
散ったって桜は桜 あといくつ使うのだろうタンポンを買う /よしなに

 月経により、女性の体調は浮き沈みする。それを咲いては散る桜に喩えているのだろうか。だとすれば、一女性の体感としてうなずける。そして毎月必需品となる生理用品。経血が多い体質だと、タンポンは欠かせない。わかる。生涯に妊娠出産する回数が減っている現代女性は、生涯の月経回数が昔より相対的に増えているという。あえて言えば、生産性のない将来を空虚な気持ちで見ているようでもある。(出産を「生産性」とは言いたくはないし、ましてや他人には絶対に言われたくはないが、女性自身がこの世に何を残せるかという意味で、そのことを自問自答することは多々あるのだ。)

【絶頂賞】
快楽と恥の境目もう破裂しそうになって風船が飛ぶ /水川怜

 抑えつけられて破裂するかと思う刹那飛んでいく。風船の浮遊感が、絶頂の瞬間をとらえていると感じた。「快楽と恥の境目」も、共感できる。快楽が自分の想定を超えたとき、他人に見せたことのない自分が顕在化し、そこに恥じらいが生じる。その境目こそ興奮の瞬間だ。

【ロリータ賞】
肩越しにテディベアと目が合ったごめん大人になってしまって /宇井モナミ

 誰と何をしている「肩越し」なのかはわからない。テーマ「性愛」に多少寄りかかって読ませる歌ではあるが、それを差し引いても、想像可能である。長年大事にしてきたテディベアの視線が、後ろめたさをあぶりだす。少女であればしてはいけないことをしている背徳感が、さらに熱を煽るだろう。

【天狗賞】
AVと違うってそりゃそうでしょう地球儀と地球ぐらい違うよ /汐留ライス

 「地球と地球儀」の対比が、似て非なるものの表現として、最大値ではと思うほど秀逸だった(笑)AVの世界は、ファンタジーとして楽しむべきものだが、世界でポルノ大国とまで言われる日本では、AVの影響を強く受けている人も多いのが現実である。よく聞いて!そりゃそうなのよ!

【照覧賞】
虹彩の奥でからまる視線からはじまっている果ての世界が  /水の眠り

 世界の果てではなく「果ての世界」なのが、エロス。虹彩の奥というミクロな世界でからまった視線が、身体を突き抜けて遠くまで広がっている。それはきっと、ひとりでは辿り着けない境地だ。

 今回もたくさんのご応募ありがとうございました。選を絞るのに困るくらい力作いっぱいでした!

お題の発表や、情報はこちらから。短歌マガジン - 次世代短歌発見
https://mag.kotobadia.com/

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