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小説とか詩歌とか

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幻視者になりたい。
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#文学

【短編】すいかたべたい

【短編】すいかたべたい

あなたがうたたねをしていると、ふいにでんわがなる。非通知としるされている。ほんとうはこういうのはとらないほうがよいといわれているけれどあなたは気になって気になってしかたがなくてつうわボタンをおしてしまう。ひとのいきづかいすらしない。ただの沈黙。いや、かすかになにかがきこえる。水のおとがする。ほそくいとのようにでている水がはつらつなおとをたてながらじゅんかんしてひとつながりにおちる。母だ。母がばらの

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【短編】エツコさん

【短編】エツコさん

中学時代、霊感のある友達がいた。彼女とはクラスも部活も一緒で、おまけに私と同じ塾に通っていた。一緒に帰ることも多くて、歩きながら彼女は、こういう幽霊がいたよって私に話してくれたり、この道はあれが出るようになったから嫌だって言って遠回りしたり、なんとなくその日、私に憑いているひとを教えてくれたり。いまでは嘘だあって思うけど、当時の私はけっこうのほほんとしてたので、全く疑うことなく彼女にしか見えない世

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行き場のない短文たち(まぜこぜ)

行き場のない短文たち(まぜこぜ)

01.

夢の中でいつも訪れる喫茶店があって「あ、今日誰もいないんだ」って窓際の席に腰かけたら、目の前に昔好きだったひとが笑っていて「え、いつ帰ってきたの?」って私が訊く前に、その人は「ずっと此処にいたよ。ずっとずっといるよ」って、ずっとずっと喋っているから、なんかおかしいと思って、そしたら、その人、機械だったみたい。「もしかして初めて会ったときから? 」なんて考えてるうちに、その人は珈琲も注文し

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【短歌】夢をみていていいですか

【短歌】夢をみていていいですか

春までは夢をみていていいですかピントをちょっとぼやかしたくて

手記としてアコーディオンがひらかれるモラトリアムにながれた曲を

紙で切る傷あとみたいな雨がふる金魚のいない鉢にめがけて

潔癖な経験しかないひとびとの夢が集まる標本室に

たんぽぽの血が白かったと知るときの昔の自分に会えるとしたら

【短歌】鎧

【短歌】鎧

切り抜きで推しの勇姿をくりかえしみる休日のしんどい朝に

咀嚼音だけがほんものヴァーチャルの世界に秋の匂いがしている

推したちが今日もてぇてぇドット絵の花火があがるのきれいと思う

虚構の姿だから喋られることたくさんあって息継ぎをする

人類総二次元時代 声帯のぬくもりだけで射精するひと

いつもどおりのつまらない自分だし 仮想でまとう鎧は重い

脱ぎ捨てた鎧をただしく弔ったひとにだけ吹く追い風

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