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香る柑橘と、まるっとした甘み。

最初に紹介する日本酒カクテルは「まるがりーた」というカクテル。

柑橘の爽やかな香りと少しの酸。
それを程よい甘みと旨味が包み、時折ピリッとした刺激と独特な香りが広がる。

このカクテルは、私が日本酒を使ってカクテルを作り始めた学生のときに初めてレシピを組み、味を追求した言わば私にとって原初の日本酒カクテルと言える。

現在このカクテルは、最初のnoteにて紹介した東京ミッドタウン八重洲B1FのTASU+にてメニュー化し提供している。

今回はその元となったカクテル「マルガリータ」も含め少しづつ解説していこう。

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マルガリータ


マルガリータ
https://cocktailrecipe.suntory.co.jp/wnb/cocktail/recipe/margarita/

基本レシピ

・テキーラ 2/4
・ホワイトキュラソー 1/4
・ライムジュース 1/4
・塩、レモン 適量

作り方:シェイク
グラス:カクテルグラス

解説

◯エピソード
マルガリータは、1949年にロサンゼルスのバーテンダージャン・ジュレッサー氏が「全米カクテルコンクール」に出品し入賞した作品で、狩猟場で亡くした若き日の恋人を偲び、彼女の名前をつけたものだとされている。
考案者は別人という説もあるようだが、これが定説である。
スノースタイルでリムにつけられた塩は涙を連想させ、スッキリとクールな口当たりは悲しい恋の物語によく似合う。

◯テキーラ
ベースに使われるテキーラは、英名で「ブルーアガヴェ(和名:竜舌蘭)」と呼ばれる植物の一種が主原料である蒸留酒である。
このアガヴェは、サボテンの一種と思われがちだが全く別の多肉植物であり、アロエのような硬く鋭い葉を採取の過程でカットした球茎状態をピニャと呼び、これまたパイナップルと間違われることが多々。
ざっくりとした製法としては、このアガヴェから採取した球茎(ピニャ)を加熱し糖化させた液汁(モスト)を発酵タンクにて発酵させ、蒸留をすることでできる。
その上で、メキシコの限られた地域で生育したブルーアガヴェが51%以上使用されてなければならなく、メキシコ国内でも認められた5州で製造されているものが原産地呼称のテキーラを名乗れないのだ。
本場メキシコではレモンやライムを囓って塩を舐めストレートで流し込む豪快な飲み方が良く見られる。
詳しい製法に関してはこちらから。

まるがりーた


基本レシピ

・白鶴 まる 60ml
・コアントロー 15ml
・レモンジュース 5ml
・THE JAPANESE BITTERS 柚子 5ml
・山椒パウダー 適量

作り方:シェイク
グラス:ショートグラス

解説-1

◯エピソード
マルガリータとまるがりーた。カタカナとひらがな。ベースの日本酒。

…もうお察しだろう。

このカクテルの始まりはそうダジャレである。

あれは忘れもしない、オンライン飲みで僕含め残り2人となった朝の7時前。
画面越しの会話も減り、ぽつぽつと話が進む。
そこで、手元にあったコアントローを使いカクテルを作ることとなり、レシピの話に。
飲み続けたことによる酔いなのか、深夜をまわるどころかしっかりと朝だったためにネジが飛んでいたのか、思いついてしまった「白鶴酒造パック酒、まるでマルガリータを作る」という単細胞な発想。
しかし、ダジャレを基にやってみたところまるでスポーツ飲料のような爽やで優しい甘みの味わいが誕生し、ミックスの比率はともかく「もしかしてこれを洗練すればものすごく美味しいカクテルができるのでは」と一筋の光が見えてしまった―――。

このときアルバイトで複数のバーで勤務していた私は、仕事の合間に様々な日本酒を使用して数え切れないほどカクテルを試作し、たくさん失敗していた。学びはもちろん現在に活きているが、お世辞にも美味ではないカクテルを誕生させ続け、何度も望まない酔いをくらう夜を過ごしたものだ。
そういった中で、一番最初に味としてまとまりの良い状態でレシピ化できたのがまるがりーたというわけだ。

◯白鶴まる
そこでまず最初にまるの話をしよう。
今回まるがりーたカクテルのメインとなった日本酒、まる。
調理酒としても非常に需要の高い、パック・カップ酒でおなじみ白鶴酒造の主力商品である。

私にとってのまるは、CMで氷川きよしがこぶしを利かせて歌ってたのを観ていた記憶か、飲み終わりにコンビニで買って飲みまるいた記憶しかない。

白鶴酒造といえば、日本国内で日本酒生産量一位の兵庫県を支える灘五郷御影郷に位置する大手メーカーである。
スーパーやコンビニなど、日本中どこでも手に入れられるからこそ、普段から日本酒を飲む方でも「まる」を飲むといった機会はもしかするとなかなかないかもしれない。
だが、一度騙されたと思って飲んでほしい。
そして、気づいてほしい。このクオリティのお酒が日本中どこでも安価に買えてしまう素晴らしさに…。
そうしたならば、いつしかあなたもカップ酒の口を開いたときに少し手に溢れる事象すら愛おしいほど好きになるだろう。

さて、この「まる」実は単一の醸造で作られたお酒ではないだ。
というのもこちら、まるは酸味の強いお酒、甘みの強いお酒、辛味の強いお酒、苦味の強いお酒、個性のあるお酒など複数のお酒をまる専用に醸造し、ブレンドしたものなのである。(加えて、糖類/酸味料で酒質を整えている)
そうして作られたバランスの良い味わいだからこそ、料理酒として大活躍なのだ。
まるについての詳しい内容は、白鶴酒造の醸造責任者であるさんが面白いYoutubeを配信しているのでぜひ観ていただきたい。

カクテルレシピの考案で他のカクテルのベースを日本酒に代替してカクテルメイキングする場合、試験的に使用する日本酒はまるをおすすめする。
ここから、他材料の比率調整や足りない味わい、抑えたい味わい、強調したい味わいなどを模索しそれに見合った日本酒をセレクトするといいだろう。

解説-2

では、本格的にカクテルの解説に入ろう。

まず本来のマルガリータレシピと違い、材料それぞれの分量をあえて比率ではなくきちんと明記している。
カクテルグラスのサイズとして標準サイズとされる90~100ml想定かつ、レシピ通りに作れば氷の加水と合わせて90ml、つまり半合程度の分量で作れる。

マルガリータのレシピ上ではテキーラとコアントローの比率は2:1であるが、まるとコアントローの比率は4:1にしてある。これは蒸留酒のテキーラに比べ日本酒は、低アルコールで香りと味わいが穏やか且つ繊細であり、簡単にコアントローのフレーバーとアルコール感にマスキングされてしまうためである。
この比率が最もまる本来の甘味が非常に際立ち、またコアントローはテキーラによってマスキングされていた爽やかなフレーバーがより感じられるようになった。お互いの長所が活きた、一つの調和した味わいと言えよう。

◯山椒
この山椒は、カクテルを作る手順で一番最初にグラスに施す仕掛けになるので最初に書く。
マルガリータでグラスのリム(縁)につけていた塩は、山椒に変更している。テキーラも飲む際に塩を用いたり、日本酒も枡の端に塩を盛って舐めながら飲む文化があるが、オレンジにレモン、柚子と、柑橘をふんだんに使用し甘酸味が主であるこのカクテルに更に塩味を加えてしまうのは、せっかくのカクテルの味わいを「しょっぱい」という感覚で相殺してしまう恐れがあり、趣向を変えた。
せめて、塩味を加えるのであれば、粒感の小さい塩や藻塩、燻した塩など違ったフレーバーのある塩味にしたいところである。

あまり知られていないが、山椒はミカン科の植物であり、柑橘系のフレーバーとの相性は間違いなく良い。爽やかで清涼感のある香りとピリッとした刺激は味わいのアクセントになる。
山椒パウダーを使用するのも悪くはないがパウダーのみだと粒が細かすぎるがゆえに香りが穏やかかつ刺激は弱いため、ミルで砕いてすぐの山椒をブレンドしてリムにつけると香りの分厚さが格段に違う。(画像下)

(左)砕いた山椒、(右)山椒パウダー

また、飲んだときに口の中で山椒の欠片を砕くことでより強いアクセントが得られるため、更に味わいの幅をもたせたい場合にやってみるとよいだろう。
スノースタイルの場合、代表されるのはソルティドッグ。
一般的にはレモン果汁をグラスのリムに塗り(リムド)その状態で平皿などに盛ったパウダーにつける。
この時パウダーをリム全体もしくは一部につけるのか、リムにどう付けるのかで、カクテルの見た目や飲み口の舌へ与える印象も変わってくるので好みの方を使い分けるといいだろう。(画像下)

グラスの縁に乗るように。
グラスの縁側面に沿うように。

◯ホワイトキュラソー
マルガリータでも使用しているホワイトキュラソーは、スピリッツやブランデーにオレンジの果皮の香気成分と糖分を加えたリキュールを指す。
コアントローを使用した代表的なカクテルには、サイドカー、ホワイトレディ、バラライカ、カミカゼなどがある。
今回まるがりーたにはフランスのコアントロー社のコアントローを用いている。
このコアントローはホワイトキュラソーの中でも比較的オレンジの味わいや香りが甘みとしてしっかり感じられるタイプで、お菓子作りなどによく使用される代表格でもある。

ちなみにホワイトキュラソーには「トリプル・セック」という名称で販売されているものが数多く存在する。
これは、コアントロー社がより砂糖の含有量を抑え、甘みの少ないホワイトキュラソーを世界で最初に開発し、
「トリプル」…凝縮されたエッセンス量が3倍
「セック」…フランス語で"ドライ"の意
の名称で販売したことで他蒸溜所がこぞって開発したという。

皆さんが良く目にするトリプルセックはオランダが誇るBOLS(ボルス)のホワイトキュラソーではないだろうか。こちらはトリプル・セックの名の通り、香りが爽やかで甘みは控えめ、ドライな印象が強い。
このため、まるがりーたのレシピを試す際に甘みのあるスポーツドリンクのような味わいを求めるのであればコアントローを、お酒感があり鼻に抜ける香り、そしてキリッとした味わいを求める方はトリプル・セックを使用することをオススメする。

◯JAPANESE BITTERS
ビターズは、蒸留酒に材料を漬け込み独特の香りや苦味の強いリキュールのことであり、苦味酒や苦味剤とも呼ばれる。
主に、味に苦味を加えて整えたり、フレーバーとして少しのアクセントにしたい場合に用いられることが多い。
蒸溜所によって使用する材料や製法は様々だが、スパイス、薬草や香草、柑橘類、そしてナッツ等のエキスを抽出したものが主である。
今回は、苦味を補填することで、同じく加えたレモン果汁の酸味やまるとコアントローの甘みが崩れないように枠組みを整えるイメージだ。
ビターズがあるのとないのとでは飲み終わりに下に残る余韻が全く変わる。
こちらJAPANESE BITTERSに

も複数フレーバーがあり、日本ならではの香りが非常に面白いので気になる方は是非購入し試してほしい。
ちなみに、グラスに注いだ日本酒に数滴垂らすだけでかなり楽しめる。

◯作り方
レシピ上では、これらすべての材料をシェイカーに入れ、シェイクするのだが、ここでいくつかの注意点がある。
これは今後も日本酒のカクテルを紹介していく中で押さえておきたい日本酒の特徴であり、カクテルにおいてはどうしてもデメリットとなってしまう可能性のある項目だ。

①アルコール度数が平均15〜16%程度
 →香気成分の持つ香りが他酒類に比べ穏やかなため、香りが消さやすい
②水溶性が高い
 →氷や他飲料による加水で味が伸び、水っぽくなりやすい
③平均的に味わいが強くはない(糖度や酸度)
 →リキュールやシロップなど糖度の高いものを加える場合、味わいがマスキングされやすい

これを踏まえた上でシェイクについて話そう。
カクテルにおいてシェイクには以下の4つ役割があるのをご存知だろうか。
・液体を冷やす
・液体に空気を含ませる
・液体を撹拌する
・液体に加水する

多くの方はシェイク=お酒を混ぜる(撹拌する)+冷やす工程だと考えているだろうがそれだけではない。
シェイクや使用する氷の酒類(製氷機の氷、かち割り氷)やシェイク回数によって、冷えるスピードや限界温度、氷が砕けて加わる水の量までもが変わり、それがカクテルの味わいや温度、粘性に影響を与えるのである。

かち割り氷は氷そのものの強度が高く加水量とそのスピードは遅いが、製氷機の氷は不純物が含まれているため強度が弱く、シェイク中に簡単に砕けてしまうことから加水量が多い。そのため、シェイク回数が多すぎると簡単にカクテルを水っぽくしてしまう。
よって、今後カクテルに挑戦するという方はシェイク回数を調整することで自身の理想的な味わいを探求するのも良いのではないだろうか。

シェイク以外でもグラスや容器に材料と氷を入れてかき混ぜるステアなどの作り方も含めて、使う氷をそれぞれシーンや目的に合わせて使用することをオススメする。
例えば、加水少なくお酒のアルコール感を生かした硬さや、味わいをキリッとさせたい場合はかち割り氷を、ある程度の加水でアルコール感を和らげ、味わいを伸ばしたり角を取りたい場合は製氷機の氷を、といったように。

シェイカーがない場合は、容器に材料と氷をいれ容器の周りに霜がつくくらいまで撹拌し、グラスに注ぐといいだろう。人によって飲むペースは差があるため、できるだけグラスには氷は残さない方がいい。

もし、シェイクや技法の違いから生じる温度や加水量の細かい数値や技法の役割等きちんと理解したい方がいれば、南雲主于三氏のザ・ミクソロジーをおすすめする。

以上がこのまるがりーたの簡単な解説になる。
みなさんもぜひ、色んな趣向を凝らして日本酒をときには変わった楽しみ方で飲んでみてはいかがだろうか。

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あとがき

ここまで書いて、実際の所今まで考えてきたことのすべてがここでしっかりと言語化できているかというとまったくもってできていないと思うんです。

そもそもの、まるがりーたというダジャレ名称。
ジャン・ジュレッサー氏のように女性の名前でもつけたほうが風流だったのかなあ、と今更悩んでみたり。

日本酒を使うからには、日本の女性の名前がいいですよね。
そして「まる」を使うからには何かしら関連性を持たせた名前もありかもしれない。もし、必要になった時のために「まる子」以外で考えたいところ。

「お鶴さん」とか…。
優しい、にこやかな女性が浮かびますね。

まるの柔らかい甘みと爽やかな柑橘の酸味、そして山椒のピリッとした刺激と独特の香り。

スポーツドリンクのような味わいにちなんで「ポ◯リしゅえっと」ってのも以前考えたがこれはボツ。
味わいから情景を思い浮かべると、太陽が照る農園で少し汗をかいた女性が涼しい風の吹かれてる…みたいな。

妄想はここまで。

今回は、カクテルのレシピやそれに至った自分なりのメソッドもコミコミで綴ったが文章力のないくせして、思いの外文量が大きなってしまった。

読みづらくはなかっただろうか。

おそらくこの先この記事を読み返した自分は、相当恥ずかしいだろうなあ。

次回以降はなるべくコンパクトに、まとめていこう。
そしてより再現性のあるレシピもたくさんあるので、また覗いてもらえると嬉しい。

締まりが悪いですね。

気にしません。

では、また次回。

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