BUMP OF CHICKENから学ぶ!年代別ブランドPR戦略の極意
こんにちは、ブランディングプランナーのヤマグチタツヤ(@yhkyamaguchi)です。
だんだん病院に行ってフルネームを呼ばれても、僕を見る人が少なくなってきました。平和な日常に戻れそうで何よりです。
さて、前回のELLEGARDEN、前々回の欅坂46と「音楽解釈×コーポレートブランディング」で趣味的にnoteを書いていたところ、「面白いから定期的に書いてほしい!」というヤマグチの身に余るコメントを多数いただきました。
自分からはいつも見えている景色を書いているだけなのですが、想像以上に面白がっていただけているので、なるべく定期的に毎週or隔週で書いていけたらなと思います!
・・・
さて、今回の題材は、もう邦楽ロック好きなら誰もが一度は通ると言っても過言ではないであろう国民的ロックバンド「BUMP OF CHICKEN(以下、バンプ)」を題材に、ここ数年の彼らの年代別PR戦略を考察していきます!
(画像出典:https://www.bumpofchicken.com/)
★この記事の前提(言葉の定義)★
○ブランド:(相手に伝わる形で編集された)独自の価値・個性
○コーポレートブランディング:経営者の思想・理念(ミッションビジョンバリューなど)
○ブランディング:あらゆるコミュニケーションにおいて、ブランドを一貫
させてターゲットへ伝えること
Ex)スタバは「サードプレイス」がブランド、「フレンドリーな接客, リラックスできる空間・内装」がブランディング。
○インナーブランディング:社員・メンバーに企業ブランドや社長の思いを浸透・理解してもらう施策全般のこと
○PR:Public Relations =「誰とどういう関係性を築くか?」の定義
※より、これら「そもそものブランディングの前提」の理解を深めたい方はこちらの記事をどうぞ!→ https://note.mu/yamatatsutatsu/n/nc3d1a589ff32
1. バンプは「聴く世代の広さ」に悩んでいた
簡単にバンプの紹介をすると、幼稚園からの幼馴染4人組で結成された邦楽ロックバンドで、作詞作曲を手掛けるのはギターボーカルでフロントマンの藤原基央さん(通称:藤くん)です(写真左から2番目)。
(画像出典:BUMP OF CHICKENの書庫)
いつもの例によって、ブランド解体をするとこんな感じですね。
フェスに出演すればほぼ大トリを務めるほどのレジェンド的な存在ながら、隠しトラックでは壮大にふざけ倒したりという親近感も同時に合わせ持つ、ファンとの距離感のバランス感覚が非常に良いバンドです。
そして作品性については、「歌詞の物語性」とそこを通じて届けられる「死生観・孤独感」が挙げられます。
「バンプといえば?」と聞くと「歌詞の良さ!」と言う人が僕の周りもほとんどで、やはりこの歌詞こそが彼らの最大の武器だと言っても過言ではありません。
また、サウンド性もそれに沿って、根底にブルースやカントリー、アイリッシュ系の音楽性を置きつつ、その上にUK由来のギターロックを乗せているのが特徴です(『車輪の唄』のPVなど見ると、楽器からもそれが伝わってきますね)。
非常に聞きやすいサウンドながらも、歌詞にも通ずるような「どこか儚さや切なさを感じるメロディやコード感」は、この"ブルース"の音楽性などが原点としてあるのが理由です。
(本人たち曰く、The Beatles→Green Day→ハードロックのバラード曲を研究→ブルースやカントリーの音楽性に浸かっていった過去があります)
(参照:音楽ナタリー)
そして、彼らのファン層ですが、20代〜30代前半が主なファン層。
ただ、10代の新規ファン獲得や、親子の影響で40〜50代のファンもついてきていることが、TwitterやFBコミュニティのユーザー層を眺めていると分かります(実際にライブ会場に行った際に周りを眺めるとそれがさらによく分かります)。
そのため、非常にファン層が広い人気ロックバンドであることは間違いないのですが、そんな彼らだからこその"とある課題"が実はありました。
それが「世代別の楽曲認知の仕方の違い」という大きな壁。
バンプのメンバーも、ライブ中のオーディエンスの反応的にこのような現象が起きていたのを感じていたそうで......
「古い曲は、若いファンの僕らは知らない......。」
「新しい曲は、古いファンの僕らは知らない......。」
(画像出典:rockin'on.com)
各種媒体のインタビューを読むと「ベスト盤を出すことで、その壁を乗り越えようとした」と書いてあります。
しかし、昔からのファン且つブランディングプランナーの僕からすると「ぶっちゃけ、根強いファンが新規獲得できて、且つ古参ファンも離れていないのはこの施策のおかげだけじゃないはずだ」と感じました。
そこで今回は、「バンプがターゲットの年代別にどのようなPRを行い、バンプブランドを伝え続けているのか?」を自分なりのブランディング・PR目線からバンプブランドを解体・考察していこうと思います。
2.突然のメディア露出とタイアップ増加は「10代向けPRの強化」
※PRとは「関係性作り全般」を意味する言葉なので、「とりあえずCM打てばPRだ!」のような"表面的なプロモーション活動"のことだけを指すわけではありませんので、事前にここに示しておきます。
まずは、10代向けPR(=関係性作り)についてです。
ブランディング的な側面で見れば「認知(目にする)→知覚(理解する)」を実現しなければならないわけですが、バンプはどのようにして若い世代にタッチしていったのでしょうか?
・・・
答えはシンプルに「"若い世代が目にしやすいもの"にバンプの影をチラつかせること」でした。
それを踏まえた上で2014年以降(特に7thアルバム『RAY』以降)のバンプの行動を考察すると、明らかにメディア露出(タイアップ含む)が増えていることが分かります。
2014年7月25日放送のMステ出演で『ray』を演奏したのを皮切りに、NHKの『SONGS』に『紅白歌合戦』と、かなり連続してバンプはお茶の間に顔を覗かせるようになりました。
(画像出典:ハテナブログ)
また、タイアップも妖怪ウォッチやガーナチョコレート、日清食品カップヌードルCMシリーズ『HUNGRY DAYS』とのコラボレーションなど、「10代でも直感的に親しみやすいアニメ・漫画などのジャンル」とのタイアップが目立ちます。
そして極め付けは、『RAY』のアルバムの表題曲でもある『ray』という楽曲で初音ミクとコラボしたこと。
以前に書いたnote「欅坂46から学ぶ!ベンチャー企業のためのブランドPR戦略」でもお伝えしましたが、現代の10代の音楽嗜好性とボーカロイドの相性は抜群です。
余談ですが、初音ミク(ボーカロイドソフト)を販売しているクリプトン・フューチャー・メディア社からすれば、バンプとのコラボはある意味で必然だったようにも見えます。
ボーカロイドを活用して音楽を制作し、ニコニコ動画最盛期をつくった音楽プロデューサーの中にはバンプに影響を受けた人も多く(米津玄師(ハチP)など)、販売側からするとバンプという存在がいなかったら自社の商品がここまで世の中に流通することはなかったかもしれないわけです。
このように、10代が興味を持ちやすいフックにバンプの影をチラつかせることで、自然と「あ、あの番組やCMでかかっている曲いいな。なんてバンドだろう?」と思ってもらえるようなPR設計をしているように考察できます。
シングルを出す時期など含め、*基本的なプロモーション戦略はスタッフ側が巻き取っていることは公に言及されていますが、メンバーの心境としても「より多くの人に自分たちの音楽を伝えて普遍的な存在にならねば」という言葉が各種インタビューで散見されています。
そういった背景もちょうど重なったこともあり、このような大々的な露出増をメンバー・スタッフがそれぞれ納得度を持って実行できたのでしょう。
(*参照:ROCKIN'ON JAPAN 2009年11月号)。
3. 20〜30代のメインファンを「憎い演出」でグリップするPR戦略
おそらく読者のほとんどの方がこの年代に当てはまるのではないかと推測しているのですが、みなさんが「うおおおお!!!マジで!!!」となる戦略を彼ららしい"地味だけど遊び心のある形"で取っています。
上述のテレビ出演ですら相当テンションが上がりますが、特筆すべきPR設計は「20周年記念ライブのセットリスト」です。
読者の中でバンプと共に青春を過ごした方は、中学・高校とひたすらに彼らの音楽を聞いていた頃の自分を思い出しながら、ぜひこのセットリストをご覧ください。
1.天体観測
2.R.I.P
3.バトルクライ
4.ランプ
5.車輪の唄
6.ひとりごと
7.ナイフ
8.Butterfly
9.ロストマン
10.ベル
11.66号線
12.K
13.ダイヤモンド
14.ray
15.ガラスのブルース
アンコール
16.Hello world
17.BUMP OF CHICKENのテーマ
アンコールその2
18.DANNY
・・・もう、セットリスト的に昔からのバンプファンからしたらこの感情は言葉に出来ませんよね。この言葉の出来なさといったら小田和正状態です。「言葉に出来ない」状態な訳です。
冗談はさておき、このように1stアルバム『FLAME BAIN 』〜5thアルバム『Orbital Period』あたりをよく聞いていた世代の人たちの心にグサっとくる演出をかましてくるのが、非常に憎くもグリップ力のあるPR戦略として機能しているのは間違いありません。
特に下記の要素があることで、そのグリップ力を増すことに成功しています。
・「バトルクライ」や「ナイフ」などの初期楽曲を多数織り込む(ライブで演奏するのが8年振り〜13年振りのような曲が多数)
・このライブで初めて3rdアルバム『jupiter』収録曲の「ベル」を演奏。
おそらく20代〜30代の方であれば「マジかよ、『ベル』って今まで1回もライブでやったことなかったのかよ......」となりますよね?
もうこの衝撃たるや、古参ファンからするとえげつない訳です。
こうした古参ファン心を着火させた先で起こるのは、「口コミ」と「再度バンプに触れ続けたくなる動機付け」です。
「口コミ」に関しては、先ほどのように「バンプ、このセトリだったよ!やばくない?」というUGCをSNS上に発生させます。
(あのセットリストは本当にレアすぎるので、"誰かについ言いたくなってしまう"のです。1曲1曲が恐ろしいブランド力を持っている証拠ですね......。)
※UGC(User Generated Contents)とは「ユーザーが生成したコンテンツ」を指す言葉です。ツイートや画像・動画投稿などもそれに当たります。
そして「再度バンプに触れ続けたくなる動機付け」ですが、これはマーケティング用語でいうところの"LTVが急上昇する状態"を指します。
※LTV(ライフ・タイム・バリュー)とは、顧客が一定期間内(人生の中で)にその企業の商品やサービスを購入した金額の合計のことです。
タイミング良く、2019年からバンプはSportifyなどの音楽配信ストリーミングサービスでも聞けるようになったので、余計に「あの時の青春の曲」に触れやすくなる状態に現在なっている人が多いのでは?と推測できます。
4. 年代の壁を乗り越えられた秘訣は「フロントマン(CEO)の意志」
このようにして、各年代別ターゲットに対して適切なPRをしてきたバンプ。
改めて、彼らはどうしてここまで綺麗に新規ファン・古参ファンへ関係性作りをすることができたのでしょうか?
そのヒントは、「フロントマンである藤くんの意志」に実はあります(もちろん他3人の意志もそこに乗っていますが、大元のアイデンティティはここです)。
特に藤くんの以下の発言、CEO・役員の方はぜひ参考にしてください。
「20年もやってるといろんな曲が出来てきて、自分たちの得意なやり方だけじゃ通用しない、もっとチャレンジしろよって言ってくる曲もできてくるんですよ。
そういう曲の足手まといになりたくなくて、時には聞きなれないピコピコした音(ray以降の楽曲)だったり、(テレビとかで)見慣れない緊張してる姿とか見て不安になる人もいると思うんだけど、わかってほしいなぁ」
(20周年記念ライブ『20』のライブMCより)
何か新たな局面を迎える度に、自分たちがなぜそういう行動をとったのかとか、自分たちで振り返るとそこには理由があって。結局それは、いい音楽を作りたい、いいライブをやりたい、ひとりでも多くの人に届けたいということに行き着くんです。僕らが歩んできた道のりはその精神性が作ったものであって。ただ、ここ数年はその道のりの続きに、いままで開かなかった扉を開けていかなきゃいけない局面が多かったんですね。それはすごく勇気を必要とするものでもあったんですけど。
(引用・抜粋:EMTG NEWS)
曲作りにおいても同様で、藤くんは「*明確なビジョンがあるほどに一切音作りに妥協ができない。曲が求めている音があるから、それを形にしないといけない」と口にしながら、日々いろいろな機材とにらめっこをずっと繰り返しています(*参照:リットーミュージック『ギター・マガジン』 2008年2月号)。
(画像出典:aucfan)
つまり、作曲含むバンド活動全体に対する「徹底的なこだわり」が「バンドの意志(=コーポレートブランド)」として"ブレない軸"となっているからこそ、時代性に合わせて柔軟に手段(楽曲性・ライブ演出)を変えながらも、ずっと20年以上変わらずに「死生観・孤独感」を「物語的に」歌い続けられているという構造になっているのです。
下図でいえば、CIがブレないからこそ、SIを変えながらも、BIというブランドの独自性を届けられているとも言い換えられます。
さらにバンプはインナーブランディングもしっかりしていて、深夜のデニーズで4人で「あれもいいね、これもやったら面白そう」とたくさん一緒に時間を過ごしたり、休みの日までディズニーで遊ぶくらい一緒にいることで暗黙知的にもお互いの理解を深めています。
ここまでしているからこそ、メンバーにもCEOの思いが伝わっているので、このバンドは全体としてもブレないし、表現方法や手段が変わっても国民から愛されるバンドなのだなとブランディング目線では分析することができます。
やはり、「自分たちの意志・美学」を貫き通しながらも、ターゲットに合わせて伝えていく努力も同時にしていく"プロダクトアウトとマーケットインの両立"が大事になってくることが、バンプの活動を見ているとよく分かりますね。
5.まとめ〜「ブレない意志」こそがターゲットに合ったPR施策を自然に生んでいく〜
というわけで、今回はバンプから年代別PR戦略を学び、そのPR戦略がそもそもどうして出来たのか?をブランド解体して考察してみました。
改めて整理すると......
・藤くんは常に"楽曲を第一のお客様"としている(コアな意志をブラさない)
・その上でバンドとしてどうあるべきか?を常に考えている
・そして、その強い意志をメンバーやファンへ適切なコミュニケーションで常に伝え続けている
藤くんはおそらく優しい人だからこそ、人の気持ちに繊細で敏感な方だと思うので、まさに生まれながらのブランドパーソン・PRパーソンだなとnoteを書きながら感じました。
実はこの「音楽解釈×ブランディングnote」、中学2年の時のヤマグチが「なんで僕はバンプの曲にこんなに共感するんだろう?」と思って分析・考察していたのがきっかけだったので、バンプがいなかったら今のブランディングの仕事にすらもしかしたらついていなかったかもしれません。
また、下記ツイートのような個人的な原体験もあったからこそ、バンプには感謝してもしきれません。
さて、個人的な話が過ぎましたね(笑)
改めて、僕らも必ずPRの基本である「誰とどういう関係性を築くのか?」を意識ながら、自分たちの意志(=ブランド)を誰にどのように伝えるかを常に考えていくようにしましょう!
というわけで、今回はこの辺で!
(この記事で語りきれていないバンプの深い部分もまだまだあるから、読者の方からの反響が大きかったらvol.2も書いてみようかな......)
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