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出世凧に願いを託したお父さん

◇◇ショートショートストーリー

新潟県に住む海野さん一家は、朝ごはんを食べながらテレビを観るのが一日の始まりです。ある日、パンをほおばっていたお父さんにお母さんが話しかけました。
「お父さん、出世凧を上げられるプレゼンがあるんだってよ」
「大きい凧をこどもの日に、特別に作ってくれるんだって」と、長女もこのプレゼントに興味を持っています。次女の愛ちゃんは、よく分からないまま、「パパ大きいタコだって、オオダコ、すっごく大きいよ」と5歳なりの、リアクションをしています。

「ほー、愛媛県か、遠いなー、行ったことないよー」とお父さんが言うと、「お父さん、応募してみようか、愛ちゃんのために」

お母さんのこの一言から一家のサプライズが始まり、お父さんは、次女の愛ちゃんのために、新潟から愛媛県に、凧を上げに行くことになるのです。

場所は愛媛県、のどかな田園風景が広がる内子町五十崎(いかざき)の豊秋河原です。五十崎では毎年、五月五日のこどもの日に大凧合戦が行われます。

大空に1000統もの凧が舞う勇壮な凧合戦は地元で400年以上続いている伝統行事です。この行事は「出世凧」と呼ばれる大きな凧を上げることから始まりました。その年に生まれた子どもの健やかな成長を祈って、子どもたちの名前を書いた、大きな凧を上げるのです。

海野さん一家は、「大きな出世凧に一人だけの名前を書いて大空に上げることができる」と言うプレゼントに応募して、全国のたくさんの応募者の中から幸運にも当選したのです。

お父さんは娘のために、どうしてもその大凧を上げたいと思いました。次女の愛ちゃんは小さい頃から心臓が悪く、手術をしないと助からないと言われていました。彼女の手術が間近に迫っていたからです。

お父さんは家族の期待を背負って、一人で愛媛に行くことになりました。数日前から台風の影響で飛行機が飛ばず、新潟からは列車を乗り継いで、愛媛に入りしました。

いよいよ大凧合戦当日の五月五日です。
横3メートル縦4メートルの大きな出世凧には次女の名前の「愛」という文字が遠くからでも分かるように凧文字でくっきりと書かれていました。この大凧は数人がかりでないと上がりません。

地元の凧保存会の皆さんは海野さんの切実な思いを聞いて、とにかく凧を上げなければと一生懸命です。大きな凧の糸の先端をお父さんが持ち、その途中の糸を数人のメンバーがしっかり握っています。そして大凧の四隅を数人が抱えてその時を待ちます。凧が風を受けて地面から上がったら、助け人たちは手を放し、お父さんが一人で凧を上げるのです。



保存会のリーダーの「今だ!走れ」の声でお父さんと助け人は河川敷を走ります。ほんの一瞬その凧は風をはらみ、地面からわずかに上がりましたが、残念ながら、数秒後に水たまりに落下してしまいました。

「あー、残念」人々の声が響きます。

手すき和紙で作られた大凧の五分の一が、水に濡れて破れてしまいました。

お父さんは落胆しますが、地元の人たちは諦めません。破れた部分にブルーのビニールシートを張って、ガムテープで補強します。

それからしばらく、無風状態が続くので、お父さんの顔は青ざめていきました。しかし地元の人たちは辛抱強く風が吹くのを待ちます。だんだん空が曇ってきて、いつ雨が降ってもおかしくない状況です。夕暮れも迫り、時間との戦いでした。

その時、凧の会のリーダーの声が響きました。
「今だ、走れ!!」

お父さんは無我夢中で走ります。どこにそんな力があったのかビックリするくらいのスピードです。

助け人も一緒に走ります。

その時です、凧が思いっきり風を受けて、大空に向かって上がっていったのです。周りからは大きな拍手が起こりました。

それは、ほんの数十秒でしたが、確実に大凧が大空に上がったのです。お父さんの目には涙があふれていました。凧を上げるお手伝いをしてくれていた地元の人たちももらい泣きをしています。

その様子は映像に収められて、後日、朝の番組で全国放送されました。
その時、司会者が言いました。「皆さん、愛ちゃんの手術は無事成功したそうです。お父さんから報告がありました。海野さんは地元の皆さんの優しさを一生忘れないとおっしゃっています。」と

その放送を見ていた五十崎の凧保存会の人たちはテレビに向かって大きな拍手をしていました。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《ストーリーは感動的じゃね》


お風呂上がりで気分上々のばあばとの会話です。

「五十崎の凧合戦、見に行ったことがあったけど、がガリを使った喧嘩凧は勇壮よね、五十崎はええ和紙が漉けるとこよね、ストーリーは感動的じゃった、新潟から来てお父さんが頑張ったんよ」

「実は、私が生中継で紹介した時同じようなことがあったんよ、モデルがあるんよね、私の記憶には鮮明に残っとんよ」

「ほーかね、珍しいこともあるなーと思たんよ」

「実はその方とはもう20年以上年賀状の交換もしよんよ

「ほー、ええことじゃねー」

私にとっても忘れられない取材をこうしてショートショートストーリーにできたことが幸せです。


【ばあばの俳句】


六月の風と語らいブログ書く


もう間もなく投稿8ヵ月を迎えます。母と私の二人三脚ブログも何となく形が出来上がってきました。とにかく母は90歳と言う年齢を感じさせない創作ぶりだと思います。娘の私から見てもあっぱれです。




六月の声を聞き、季節を感じながらブログを制作する私たちを詠みました。毎日、楽しく、厳しく、生き生きと頑張っています。


▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。

たくさんの記事の中から、「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただきありがとうございます。
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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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