ステンドグラスのオルゴール
◇◇ショートショートストーリー
ルリ子はまるでバレリーナのような華奢なボディーでパープルのタンクトップに細身の白いスパッツを履いて、シースルーのシャツコートを軽やかに羽織り、教会のバザーにやってきました。
「ルリ子さん、来ましたね、今日も、お気に入りの小物がいろいろ出てますよ」
声をかけたのはバザーのお手伝いをしている大学生の浩です。
バザーに出されている個性的な雑貨がお気に入りのルリ子はちょくちょく顔を見せるのです。
「これ素敵、ステンドグラスのオルゴールなんて珍しいわよね、色の使い方と透明感がすごくいいわ」
「ルリ子さん、絶対気に入ると思ってたんですよ」
浩は、ルリ子の反応に満足でした。
「ねー、このオルゴールどんな曲なの、聞かせてよ」
「残念でした、ネジは回せるんだけど、音は出ないんだよね」
「あー、そうなんだ、でもインテリアとして素敵だから動かなくてもいいや」
「ルリ子さん、そう言うと思ったんですよ」
「これって、誰がバザーに出したのか分かるの」
「信者の服部さんだったかなー」
「もったいないわよねー、私だったら絶対手放したくないなー」
「僕もそう思って聞いてみたんですよ、そしたら服部さんの亡くなった弟さんが、ステンドグラスの作家でね、たくさん持ってる中から、一点だけバザーに出してくれたんだよね」
「そうなんだ・・・」
ルリ子は素敵なオルゴールとの出会いに感謝しながら、早速、自宅のピアノの上に飾りました。
数日後の朝、彼女はオルゴールの蓋を開けて眺めていて、中敷の鏡の部分が取り外せることに気がつきました。
「この鏡、取り外せるんだ、じゃあ中に何か入れられるのかな・・・」
そう思って鏡を上げてみると、中に何かが入っています。
「これは、何だろう」
ルリ子が手にしたのは小さなメッセージカードでした。
「好子さん、お誕生日おめでとう。世界に一つだけのオルゴールです。貴女が大好きな曲にしました。永遠の愛を誓って」
「これって、ラブレター、私が持ってていいわけないよね・・・」
ルリ子は浩と一緒に、バザーにオルゴールを出してくれた服部さんを訪ねました。
中に手紙が入っていたことを伝えると服部さんが重い口を開いてくれました。
「このオルゴールは弟が好子さんにプレゼントする予定だったみたいね、好子さんは弟のステンドグラスの生徒さんでね、二人はお付き合いを始めたんだけど、突然好子さんから、もう会いたくないって言われてね、ショックを受けた弟は、暫く心を病むくらい落ち込んでいたのね、
このオルゴールは別れを告げられる前に、弟が準備していたんだと思う」
「好子さんって方に、何かあったんですか」
「後から分かったことなんだけど、好子さんは、難病のALSにかかってしまって、余命宣告を受けてたらしいの、弟はそのことを聞かされてなくてね」
「ALSって、体の筋肉が動かなくなっていく病気ですよね、意識はあるのに身動きがとれなくなっていく、辛い病なんでしょう」
「好子さん、かわいそうに・・・、だから別れを切り出したんですねきっと・・・」
「病名は、筋萎縮性側索硬化症って言ったかしら、弟は彼女が亡くなってからそのことを知ったのね」
「弟さんも、きっとショックだったでしょうね」
「ええ、それから弟はステンドグラスを制作することだけに命を燃やしていたんだけど、結婚する事もなくて10年前に、亡くなったのね」
オルゴールにまつわる悲しい物語を聞いて、二人は暫く黙っていました。
「じゃー、このオルゴールは好子さんが受け取るはずのものだったんですね、好子さんへの、メッセージを私が見ちゃったんだ」
ルリ子は深いため息をつきました。
服部さんがオルゴールをやさしく手に取って、ネジをゆっくりと回し始めました。記憶を遡るように、ゆっくりゆっくり回し終えると、ステンドグラスの蓋を開けました。
すると、やさしい音色が聞こえてきたのです。
三人は息をのみます。
「あー、この曲、弟がいつも聞いていたビアノ曲だわ、何だったかしら」
「エルガーの愛の挨拶ですよ、好子さんが好きだったんですねーこの曲」
「もう鳴らないと思ってたけど・・・」
メッセージカードを取り除いたことでオルゴールが動き始めたのです。
暫く3人はその美しい音色に耳を傾けていました。
その時、窓から日がさしてきて、オルゴールのステンドグラスを通した光の筋が家の白い壁にクリスタルな美しい模様を映し出しました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《エルガーの愛の挨拶聞いてみたいね》
好きなテレヒ番組を見ていたばあばとの会話です。
「ステンドグラスのオルゴールって、私は見たことないけど、世界に一つだけなんじゃねー」
「長崎で見たことあるよー、透明感と、色合いが素晴らしいんよ」
「我が家のステンドグラスも、陽の入り方で見え方が変わって、綺麗じゃけんねー、私はエルガーの愛の挨拶、オルゴールで聞いてみたいわい」
ばあばはいつも、ショートショートストーリーに感情移入していて面白いなと思います。
【ばあばの俳句】
さりげない日々の営み夏休み
いよいよ子どもたちの夏休みが始まります。コロナ禍の夏休みは何かと心配なこともありますが、これまでの年のように、問題なくさりげない日常が送れることを祈りたいと思います。
母はそんな気持ちを詠みました。
街中で子どもたちの元気な姿を見るとほっとしますね。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗
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