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辛くて辛くない世界中で食べられているアイツのよもやま話?

リアクション芸はいらない今回のお題

みなさんはとうがらし🌶について、あれこれ考えたことがありますか? まー、辛い食べ物くらいの認識でしか私もなかったですね。

しかし、今回取り上げる「とうがらしの世界」で見方が変わるかもしれません。

著者は信州大学の松島憲一先生。辛いネタだけに、読みづらくないのかが心配でしたが、取りあえず、読み進めてみました。

本書の構成

本書は2部構成になっています。前半のほうはトウガラシとはどんな植物なのかを割と一般向けにわかりやすく書かれています(もちろん、趣味に家庭菜園をやっている方とか、科学の素養をお持ちであれば、よりすんなり読み進められると思います。)。

後半はトウガラシの食文化について、世界各国を旅する感じです。タイトルだけ見ても、中南米、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、日本と世界中でトウガラシが使われていることがわかります。

はじめに 

[第一部 知っておきたいトウガラシの基礎知識]
第一章 日本とうがらし事始め
第二章 食用トウガラシ、その起源と種類
第三章 なぜ、トウガラシは辛くなったのか
第四章 トウガラシの辛味あれこれ
第五章 機能性食品トウガラシ

[第二部 世界一周トウガラシ紀行]
第六章 トウガラシの故郷―中南米
第七章 原産地呼称制度と郷土料理―ヨーロッパ
第八章 キネンセ種が大活躍―アフリカ
第九章 ストレートで味わうか、ミックスして味わうか―南アジア
第一〇章 辛いアジアと辛くないアジア―東南アジア
第一一章 二つの唐辛子文化大国―東アジア
第一二章 実は豊かな日本の唐辛子文化

旅の終わりに

そもそも日本にトウガラシがどう広まったのか?

著者の松島先生が昔の日記や農書から、"1539年の多聞院日記によるトウガラシ栽培の記述、1697年に日本最古の農書である農業全書にはすでにトウガラシの記述などを踏まえると、安土桃山時代から江戸時代の約100年でトウガラシが日本各地に広まったのではないか"と考察しています。

多聞院日記の記述の信憑性はともかく、江戸時代の農書にはすでにトウガラシの記載があるということは、日本固有種ではないトウガラシがその前に伝播し、急速に広まったと示唆されます。

しかし野生でも辛いと種を残せないのではないか?

以前、「植物のいのち」という本を紹介した際に、植物は果実を食べられることで、生き残るチャンスを伺っています的なことを記事に書かせていただきました↓

しかし、トウガラシは野生種でも辛い品種が存在するとのこと。辛くて口にできない種をもつトウガラシは、どうやって種子を「遠くに飛ばす」のか?は疑問です。

その答えは鳥類

哺乳類と比較してトウガラシの辛味成分・カプサイシンの受容体が少ない鳥類に身を「食べられてあげる」ことで種子を伝播させるそうです。

やはり、5億年も地球上でしぶとく生き残った生物たちは人類の上をゆく生存戦略を持っているようですな。

トウガラシの多様な文化

私は知らなかったのですが、 トウガラシとチョコレートを使ったソース(メキシコ料理のモーレ・ポブラーノ)があるんですね。トウガラシは世界的に食されており、元々は一緒に食べてよいものですが、チョコレートと食べる文化は日本には根付いていないのは興味深いところです。

また、メキシコ料理四川料理もそうですが、ただ辛いだけではなくコクやダシの風味があります。その理由はトウガラシです。使われるトウガラシの種類が異なることもありますが、重層な味によって生み出されているとのことです。四川料理の重要な調味料の泡辣椒は塩水とトウガラシを発酵して作られていることにも驚きでした。

もちろん、本書でも日本のトウガラシ文化に触れられています。そこには、それぞれの風土であったり、生活であったり、文化の中にトウガラシが浸透していることがよくわかります。

激辛イメージとは裏腹な…

この本はその宣伝文句よろしく、科学の面からみたトウガラシと、食文化の面からみたトウガラシが見事に綴られた初歩からのトウガラシともいうべき教養書だと思います。

著者はトウガラシ研究の第一人者ですが、科学者としての明晰な頭脳で切るのでははなく、一人のオジサン目線で語るトーンの本となっています。

トウガラシ研究で辛いこともあるんでしょうが、それを忘れさせるくらいの辛さという刺激に魅了される…そんな優しさにあふれる、けど辛い話だと思いました。(了)

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