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旅路

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儘ならぬ生活と旅
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生活の骸

生活の骸

 実はここ数ヶ月、過去に撮った写真を見ることができずにいた。振り返ってしまったら、そのどうしようもなさに囚われてしまう気がしてならなくて。そうでなくてもずるずるといろんなことを引きずって、あっちこっち右往左往。ようやくハードディスクを差し込んで過去の写真たちと再会を果たしたよ、5ヶ月ぶりに。

 それは小さな記憶を辿る旅。そこにはとても愛しくてやさしい時間が流れていた。もう忘れてしまいたいと願った

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ここもいつかの未来

ここもいつかの未来

 すべてが毒になる日が怖くて仕方がない。

 数ヶ月前の日記の最後にはそう記されていた。ずいぶんと気を病んでいた頃に綴っていた言葉たちを少し見返していた。反省でも後悔でもなく、そしてそれが美化されることもなく、ただそういう日々が確かにあったということをゆっくりと受け入れてきたんだと思う。ほんとうに何もないと思っていた。か細い声のような言葉たちは、悲しいとか寂しいというよりずっと自分に刃を向けていた

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人間失格フラグ

人間失格フラグ

 恥の多い生涯が現在進行形で進んでいるな、とふと思います。好きな場所で迎えた夏も、もう1ヶ月が過ぎて、変わらず灼熱の毎日です。スーツを着たり脱いだりして、自分じゃない人間を見てるような体験をして、ずっと社会に触れてきたはずなのに、関わり方ひとつ変わっただけでこんなにもはみ出せてしまうことをもはや才能のように感じていた今日この頃。希望も光もないけれどやっと藁くらいは掴んだかしら、てな感じです。

 

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夏至の手紙と死と詩

夏至の手紙と死と詩

 手紙を書くとき、書き直す癖をなかなかやめられない。筆跡に表れたじぶんが随分と急かされているようで一度立ち止まった。ぐちゃぐちゃになった近況の要約を丸めて、「深海」とそれだけ書いた。夏至の前日に書いた手紙。いちばん深い場所にいた、死と詩と、そんな話。

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初夏の紫陽花と過去になった街

初夏の紫陽花と過去になった街

 明日は晴れるから絶対に行くなら明日、と念じながら寝たのが日曜の夜で月曜日に早起きをして好きな街に出かけた。少し前に住んでいた場所の最寄駅を通ったとき、あの部屋にはきっと別の人が住んでいるんだろうと思った。振り返ってもなかなかにいい部屋だった。管理人のおばちゃんが住み込みでいて、話し始めたらとまらん感じの気さくなひとだった。ゴミがいつでも出せた。夜どんな時間に帰ってきてもどこかの部屋の明かりがつい

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あたらしい道を歩くための稽古

あたらしい道を歩くための稽古

 昼間に、まだ歩いたことのない道で帰るあそびをした。薄い手提げ袋には、財布とノートと一冊の本。音のない商店街、立ち入り禁止の草むら、家に張り付いた枯れた蔦。皮膚が直に熱を受ける感触があって、空と地面を交互に見てたら、日焼け止め塗ってくるの忘れたことを思い出した。

 歩いていると、何かの条件反射のように思い出すことばかりある。歩きながら当時やたらと聴いていた音楽が流れると、そのとき自分を通してみた

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Now playing

Now playing

 「今、どんな景色が見えますか?」

 この問いの前に立ち、もしかしたらいま、言葉でしか掬えないものの輪郭を掠めたかもしれない、その気配を感じられたかもしれない。

 写真を見なくても思いだせる景色があります。それは瞬間の連なり。目だけでは見なかったものたち。いつだったか「すべてこの星の出来事」と書きました。それを目の当たりにした時にいてもたってもいられなくなった時のこと。どうにかしてそれに触れた

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夜のための灯火として

夜のための灯火として

 ほんの少しの風通しの旅を終えて、そしてこれからの活動について。

旅のこと 自分の内側にお入りなさい、と好きな詩人が言っていたこと。どこにも居場所がない気がしてと泣いたら、おりたいとこに居ればいい、ともだちが言ってくれたこと。行き帰りの高速バスで、ひとりの部屋で、すこし賑やかなファミレスで、雑踏の中で、考えたこと。握りしめてきたことばのこと。温かくて柔らかい、手渡されたことばのこと。死にたいこと

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曇りのち夜

曇りのち夜

 しばらく月も星も見えない夜が続いて、私はあんなにも夜の美しさを愛していたはずなのに朧げな記憶に蓋をしてしまった気がしている。大好きな景色があった、ほんとうは今だって目を瞑れば鮮明に思い出せる。どんなに深い夜でも遠くに光る街が、走るトラックの音が、深夜にふらふら歩いていくコンビニが、帰り道の点滅信号が、まるで夜を揺蕩う切符のようにあったことを。まっくら闇のなかで、自分の輪郭や夜との境界線があやふや

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帰路

帰路

 いつからカメラが重たくなったのか。見えてる景色の色彩が少し薄くなったのか。手を伸ばせば届くあちこちに散乱する言葉に手を伸ばせなくなったのか。なんでだっけって思いながら、なぜか洗濯機の上にある鏡に問いかける。誰しもその人だけの心の領分があるということ、踏み荒らされたくない場所。痩せた地と狭くて暗い部屋。臆病で、想像の中でさえ自分に刃を突き立てられないで、消え入りそうな細い息をしていた。

 ただい

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