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初夏の紫陽花と過去になった街

 明日は晴れるから絶対に行くなら明日、と念じながら寝たのが日曜の夜で月曜日に早起きをして好きな街に出かけた。少し前に住んでいた場所の最寄駅を通ったとき、あの部屋にはきっと別の人が住んでいるんだろうと思った。振り返ってもなかなかにいい部屋だった。管理人のおばちゃんが住み込みでいて、話し始めたらとまらん感じの気さくなひとだった。ゴミがいつでも出せた。夜どんな時間に帰ってきてもどこかの部屋の明かりがついていた。あの部屋のベランダが写真のはじまりだった。それぞれの暮らしがある。どんな生活をしていたっていい。特別な場所にならなくたっていいから、たまにいい月が見えてうれしいこととか、眠れない日の街の明かりに少し安心することとか、そんなことを思う日があればいいな。わたしを守ってくれた場所、始まりの場所、愛した夜の星。拝啓、そんなことは与り知らぬ、あの部屋の住人様、あなたのための夜があの場所で守られますように。

 

 京都ではもう紫陽花が咲いていました。今住んでいる場所はまだ咲いていないから、今年になって初めて紫陽花に出会う。五条の紫陽花を今年もみつけられてよかった。初夏の詩の紫陽花たち。青いのばかりが咲いていたな。

 朝、おはようと一緒に送ったメッセージの返信には、スタンプと「前に進む!」とそれだけ返ってきた。なけなしの勇気に手を添えてもらってやっと少しだけ進めたのかもしれない。

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