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【映画本レビュー】『メロドラマの想像力』河野真理江・著--メロドラマを追求する著者自身がついにはメロドラマそのものになったのかもしれない
33歳で急逝した著者の残した文章を集めた遺稿集。そのためバラバラな文章が並立するのは避けられないのだが、それでも構成によって単著としての統一感は作られている。それだけぶれないひとつの軸を、著者は常に持っていた。 本書は大きく3つの章に分かれ、それぞれ「メロドラマの力」「メロドラマに輝くもの」「メロドラマは拡散する」と題されている。お気づきのとおり、というか本書の題名にもあるとおり、著者の研究テーマは一貫してメロドラマである。第1章では2つのテキストが配置され、まずはメロドラ
【エンタメ日記】『かくしごと』『わたくしどもは。』『ぼざろ総集編』『仁義なきヤクザ映画史』編 2024/06/04~06/09
2024/06/04(火)【映画本】『仁義なきヤクザ映画史』伊藤彰彦・著 国定忠治や清水次郎長に始まり、「反社」と呼ばれるようになった現代に至るまでのヤクザ映画の変遷を追う。まず、ひとつひとつの章が短く、それぞれの章に独立したテーマがあるので、少しづつ読むのに適しているのが良かった。いずれの話も興味深く刺激的で、著者による監督や役者へのインタビューが随所に挟まるので日本映画史が立体的に広がる。 国家もしくは日本社会そのものが都合よく利用してきたヤクザを、必要なくなった途端に
【エンタメ日記】『帰ってきた あぶない刑事』『碁盤斬り』『映画 からかい上手の高木さん』編 2024/05/28~05/31
2024/05/28(火)【邦画新作】『帰ってきた あぶない刑事』 TOHOシネマズ新宿・スクリーン4で鑑賞。平日夜なので客入りは少なかったけど、熱心なファンの方が複数いたらしく、かなりベタなギャグにも小さな笑いが発生していた。 しかし舘ひろしって何なのだろう。本作の舘ひろしは、日本人の心の中に宿る舘ひろしをさらに数割増したかのような、極太の舘ひろしだった。柴田恭兵のほうは年相応のおじいちゃんだったので、その舘ひろしぶりはさらに際立っていたし。たとえば「大人の男の色気」み
【邦画新作】『ハードボイルド・レシピ』ネタバレあり感想レビュー—映画の出来を犠牲にしてでも眉村ちあきのプロデュースに専念する強い意志
眉村ちあきが何者なのかは、いまだよくわかっていない。アイドルなのかシンガーソングライターなのか、大まかなジャンルすらも曖昧だ。まあ、それは単にボクが不勉強なだけなのだが。ただ、なんとなくではあるが、眉村ちあきの側があえて自身の立ち位置を曖昧にしているかのような気配がある。 眉村ちあき初主演の映画『眉村ちあきのすべて(仮)』が、プロデュースの方向性をはっきりと示していたのではないだろうか。密着ドキュメンタリーの体で始まるこの映画は、中盤で眉村ちあきがカメラ目線で語り始めたと思
【邦画新作/アニメ】『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』ネタバレあり感想レビュー—ファンムービーへの急激な路線変更は長寿シリーズにとっては危険な賭けではないか
前作『黒鉄の魚影』でうっすらと感じた予感が、本作『100万ドルの五稜星』で確信に変わった。『名探偵コナン』の劇場版は、まず熱狂的な既存ファンへのアピールを最優先する方針に転換したのである。ここでいう既存ファンとは、必要もないのに「安室」の印鑑を買いに走るような人たちのことで、おこづかいで「週刊少年サンデー」を買っているような小中学生ではない。 コナン劇場版は、何も知らない新参者、特に初見の子供にも配慮された作りなのが美徳とされていたはずである。よく言われる「映画冒頭で必ず設