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安藤隆人「ドーハの歓喜 2022世界への挑戦、その先の景色」

安藤隆人「ドーハの歓喜 2022世界への挑戦、その先の景色」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BVWD9V8X/
 昨年11月のカタール🇶🇦サッカーワールドカップのルポである。著者はフリーランスのサッカージャーナリスト。単身カタールに乗り込んで28試合を観戦して取材に臨んだ。この大会は日本🇯🇵が死の組Eグループを勝ち抜いて、日本中が沸いた。だからある意味で、日本選手の誰がいつどの試合でどういう活躍をしたか、みんな知っている。そこで日本チームの活躍をトレースする快感はもちろんある。しかし書籍として真価を問われるのは、いかに読者が知らない世界を提供できるかである。われわれがテレビ桟敷で観ていた以外を、いかに盛り込めるかであった。半分は仕方がないと思う。ワールドカップを語るのに、われわれがテレビで観てきたことを執筆せざるを得ない。しかしこの著者のプライオリティは、選手が高校時代から取材を続けてきたことだ。浅野拓磨、堂安律、三苫薫、南野拓実ら、中心選手たちの10代の過去とA代表となった現在までの歴史が追える。その足跡に彼らの信念や苦悩といった素顔を見ることができる。
 七人兄弟の三番目で、名門校に入れてくれた家族への感謝を忘れない浅野拓磨。キリンカップでシュートせずにパスミスして炎上した2016年キリンカップ。試合後の励ましてくれた内田篤人のメールで再起した。自らを「逆境大好き人間」と称する堂安律。2014年U16で韓国🇰🇷イ・スンウに圧倒されてU17ワールドカップ出場権を逃した屈辱。その体験は2017年U20ワールドカップの大活躍で花開いた。クラブでのトップ昇格を断って筑波大学に進んだ三笘。自分に自信がなくて『逃げた』という斬鬼の念。一方で体育学、運動生理学、栄養学など多岐に渡る学問で、サッカー⚽️を見つめ直す機会を大切にした。そして決勝リーグでクロアチア戦🇭🇷PKの一番手に立候補した南野拓実。PKの失敗は本人の人格を破壊するくらいの衝撃を与える。しかも彼にとってPKの失敗は、2019年のAFC U- 選手権で北朝鮮戦で五番目に蹴って外して敗れて、U20ワールドカップの出場権を失って以来の天才の悲劇だった。個人的にはインタビューで取り上げられていなかった久保建英について読んでみたかった。将来を嘱望されながら思った結果を出せず、チームへの唯一の不協和音と感じていたから。
 ここで取り上げられている選手は誰もが天才である。そして才能だけに溺れない努力を積んでいる。スランプや好不調の波にも、メンタル面で乗り越えてきている。また何よりも人生設計がしっかりしていて、自分をコントロールする能力に長けている。今の日本代表選手のレベルは中田英寿がセリエAに入ったことに驚いていた時代の比ではない。代表選手のみならず、選に漏れた選手にも国際級の選手が粒揃いだ。もちろんメッシやエムバベ級の選手はまだ出てきていない。だからこそベスト8の壁は破れていないのだろう。しかしそれも手の届くところに来ている。ワールドカップ初出場に興奮した1997年。しかし今では出場すら当たり前になっている。そしてブンデスリーグやプレミアムリーグで日本人選手が毎日のようにゴールをあげている。これを隔世の感と言わずして何と言おう。1993年に三浦和良や森保一たちがワールドカップ初出場を逃したドーハ。29年後の同じ場所で実力を示したことが、日本のサッカー界と個々の選手の努力と研鑽の証である。


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