マガジンのカバー画像

colors

6
色から連想された文章を、自由に。 写真と文章をテーマの色でつなぐコラボレーション企画。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
colors ―色と、ことば―

colors ―色と、ことば―

色。

言葉や文章が好きな人にとっては、なんとも厄介で愛しい対象ではないでしょうか。それを表現するならばなんとも単純なものだけれど、さまざまな角度から切り取って、あらゆるエピソードと重ねて語ることができるのだから。

今回、そんな色をテーマとして、言葉を編む皆さまと、写真を撮る皆さまを、noteでつないだコラボレーション企画を行いました。

colorsとは企画「colors」は、KASUMIさん

もっとみる
青より青く。

青より青く。

海を見たいなあ。

夏梅(なつめ)から深夜にメッセージが届いた。僕は急いでレンタカーを手配し、夏梅に予定を確認する。ここから海までどれくらいの距離があるのか、見当もつかないのに。

まだ日が昇りきらない薄明るい田舎道。青紫の住宅街は、ひっそりと静まり返っている。夏梅の家の近くまで迎えに行くと、すっぴんの夏梅がするりと音もなく助手席に座る。

「久しぶり、けんちゃん。元気?」

春ものの薄手のセータ

もっとみる
僕には芸術がわからない。【短編小説】

僕には芸術がわからない。【短編小説】

晴れ渡る水色の空の下、彼女は、雨に打たれながら踊っていた。

___

頻繁に天気雨が降る我が国は、「水色の国」と呼ばれている。「水色」が青空を指しているのか、雨を指しているのかは不明だ。

春から夏の温暖な季節には、一日に幾度も天気雨が降る。サッと5分ほどであがる小雨の時もあれば、ザーッと激しい雨が1時間続く時もある。逆に、数分強い雨がザッと降ることもあるし、1時間以上弱い雨がパラパラと降り続く

もっとみる
いつだって私はわがままで、空の色をかき混ぜる。

いつだって私はわがままで、空の色をかき混ぜる。

忘れられない匂いがある。

それは雨の匂い。それは草の匂い。それは土の匂い。それは汗の匂い。それはスニーカーの匂い。それは髪の匂い。それはボールの匂い。それは太陽の匂い。それは午後の匂い。それはコンクリートの匂い。それは、名前も知らない、花の匂い。

光の粒で水面が濡れる。川は明日へと流れてゆく。ゆらゆら、ゆらゆら。電車が真っ赤な橋を渡る。向こうには街がある。静かで賑やかで暗くて明るいあの街で、き

もっとみる
若葉のころの僕らは

若葉のころの僕らは

風が運ぶ草をかき分ける足音。制服のシャツがつんと引っ張られる感触。声をきかなくても、まぶたが勝手にあいた。

「こーちゃん、いた」

ソーダーの水色が目立つアイスの袋が眼前で揺れる。肩先で切りそろえられた黒髪と、ほんのり赤い頬が見える。チカの背後に悠然と立つ鳥居の向こうに灰色の雲が流れ、気づけば空がすっかり夏の顔をしていた。

「すぐサボるんだから」

眠い4限目の数学を抜け出した俺の隣に、スカー

もっとみる