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「アポカリキシ・クエイク」#4

【承前】

「DOSSOI!!」

谷松の猛烈なぶちかまし! 目の覚めるような一撃だった。敵は血反吐を噴いて真後ろに吹き飛び、壁に人型の穴を開けた。敷金が!

「かはァッ!」

敵は壁を突き破って、隣の部屋に。埃がもうもうと煙を上げる。人が入ってなくてよかった。

「や……やった! でも」
ここは捨てろ。やつらに捕捉された。次々来るぞ」
「え、え」

谷松が『ドヒョウ・フィールド』を解き、もとの小柄な老人に戻る。長くは使えないようだ。

「ぐうゥ……逃サヌ」

敵が、混血者(ネフィリキシ)が立ち上がり、向かってくる!
「た……谷松さん!」
「心配いらん。こいつはもう殺した。今ので核(コア)を破壊したからな」

「がぼあッ!?」

敵が再び血反吐を吐き、うずくまる。見る間に全身が白くなり、灰か塩のようになって、崩れ去る。火と硫黄の臭いが漂う。
「こ、これはなんです!?」
『塩の柱』だ。知らんか。相撲で塩を撒くのは清めのためだが、こいつらの塩は穢れの塩、ソドム・ソルトだ」

"主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、
これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民と、その地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた。
しかしロトの妻はうしろを顧みたので塩の柱になった。"
―――創世記19:24-26

「獣と人はすべて土と塵から生じた。だが、天使や悪魔は火と煙から生じた。混血者は火と塵……地下の溶岩と硫黄から生まれ、になる。こいつはまだ下っ端だ。ワシでも倒せる程度にはな。君にもこれぐらいにはなってもらわんと困る」
「え、あの」
「逃げるぞ。荷物をまとめろ。カードや通帳やスマホはもう使えん。財布と着替えだけでいい」
「ええええええ!?」

谷松は窓から外へ飛び出す。言われるまま荷物をまとめ、一応カードと通帳とスマホを持って、書き置きをして、外へ。……ぼくの愛車が、めちゃめちゃに壊されていた。さっきのやつがやったのだ。中古だけど、いい車だったのに。

「え、あ」
「遅かったな。スマホは壊せ。GPSを辿って追ってくる」
「あ、ああ、あああああーーーあああ!!
ぼくは半狂乱になり、泣きながらスマホを愛車の残骸に叩きつけ、破壊した。

こうして、ぼくの日常は壊れた。決定的に。

「……適合者を見つけたか。谷松め」

東京、両国の地下。報告者に背を向けたまま、女は呟く。長身で豊満、筋肉質。金髪を髷めいて結い上げている。
「混血者一体を破壊した後、車を奪って甲州街道方面へ逃走しました。追跡部隊が向かっています。現在位置は八王子」
キュクロプスと、飛翔型混血者を向かわせろ。いくらでも使い潰して構わん」

どくん。どくん。どくん。どくん。

心音が響く。ちゃんこ鍋のように煮え立つ穴の上に、巨大な軍配が立つ。そこに―――磔にされた、巨大な力士がいる。
名は……「陣幕久五郎」

『黙示録の四力士』計画。妨げはさせぬ」

【序章・終わり】

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