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しなやかな女性たちの映画『私たちの声』イタリア・インド・アメリカ・日本(2022年)

なんとなく、気になって見てみました。7人の女性の映画監督がつくったオムニバス映画。娯楽映画というわけではないですが、ドキュメンタリー映画や社会派の問題提起みたいなキツさもなくて、ちょうどいい距離感で見ることができました。

最初の「ペプシとキム」は、ジェニファー・ハドソン主演。刑務所でドラッグ依存と多重人格を克服する女性の役。実話に基づいている話で、主人公のモデルは現在、多くの人のセカンドチャレンジをサポートする団体を運営しているとのこと。

主人公が若い頃、男性にひどい目にあわされるというのはよくある話ですが、親が育児放棄でシッターの女性にも性的虐待を受けているというのが現代的です。男性でも女性でも加害者になりうるし、被害者にもなる。

「ペプシとキム」

2話めの「無限の思いやり」は、マーシャ・ゲイ・ハーデンとカーラ・デルビーニュの共演。コロナ禍のロサンゼルスで、ホームレスをサポートして回っている女性医師と看護師の役。高級ホテルが宿泊場所として提供され、NGOやボランティアが巡回。同じコロナ禍でも、日本とはだいぶ違う状況に驚きます。

こちらの女医さんも実在の人物がモデル。サポートされるのは精神疾患を抱えた女性ホームレス。何気ない話なのですが、女医さんも看護師さんも、ちゃんとホームレスの女性に丁寧に対応するので、心に残ります。

「無限の思いやり」

3作めは「帰郷」。アルゼンチンのルシア・プエンソが監督で、エバ・ロンゴリアが主演。故郷を離れていたキャリアウーマンの女性が、自殺した妹の幼い娘をひきとらざるを得なくなる葛藤を描いています。ドイツが舞台の名作『マーサのしあわせレシピ』を思い出す作品でした。

日本からは呉美保監督、杏さん主演。育児と仕事に翻弄されるシングルマザーの多忙な日常をつづった「私の一週間」という短編。ママあるあるの大変さと、わずらわしくもかわいい子どもたちの様子に、おもわず笑顔になってしまいます。

育児がエンドレスな肉体&精神労働だからこそ、こういうほっこりした童話で描いてくれるのがうれしい。子育て真っ最中な時期には、ちょっと綺麗事すぎてひっかかるかもですけどね。杏さん、がんばれ!

「私の一週間」

娘が一番よかったというのが、イタリアの監督の「声なきサイン」。主演はマルゲリータ・ブイ。離婚問題を抱える獣医が、ふと目にした患者の違和感。それは、虐待されていた女性の声にできないSOSだったという話。映画では、服でかくれているところに傷があって、それは子供の虐待でも医者が注意するポイントです。

「声なきサイン」

そして、たしかDV被害のハンドサインがあったはず、と教えたら娘は興味深そうにメモしていました。いいことです。

私はといえば、かわいい女性+不自然な怪我をした犬+大柄な男の登場時点で、中国ドラマ『バーニング・アイス』のヒロインが、自分の愛犬をヤクザの親分が「踢死了」したというセリフが浮かんで、頭から離れませんでした。「踢」なんて中国語、普通はサッカーするとかボールを蹴るにしか使わない言葉だったので、衝撃の度合いが半端なかったんですね。

「シェアライド」は、インドの美容整形の医者として活躍する女性が、トランスジェンダーの女性とタクシーをシェアして出会う話。女性は昼間は警官として働いています。

「シェアライド」

どの女性たちも、困難を抱えつつ、しなやかに生きていて魅力的。私は、最近ちょっと仕事でめげる状況にありましたが、彼女たちを見ていると、自分の悩みなんか大したことないなと思えてきました。主題歌「Applause」もすごくいいです。ソフィア・カーソン素敵。

おもいっきり楽しめるエンタメ映画もいいですが、きつすぎず、ゆったり見れる短編のリアリティ&希望ある映画っていうのも気持ちが落ち着きます。ちょっと物足りないと思う人もいるかもしれませんが、人間いつでも強くいられるわけではないので。がんばっている女性たちをみると、自分もがんばろうと思えます。

邦題:私たちの声(原題:Tell It Like a Woman)
制作:イタリア・インド・アメリカ・日本(112分)


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