暑い夏に見る中国ドラマ『バーニング・アイス』(無証之罪)2017年。
中国ドラマ『バッド・キッズ』、『ロング・ナイト』と続いた紫金陳原作の三部作ドラマ。最後は『バーニング・アイス』です。
ドラマを見始めたときの最初の感想は、久しぶりの北の文化~!でした。最近は、『家族の名において』とか『破氷行動』とか、南が舞台のドラマ率高かったので。核家族とか、一族が出てこないで、親分子分関係の組織が出てくるとか新鮮でした。雪のちらつく東北は、マイナス20度とか30度とかの世界ですけど、夏にドラマで見るなら悪くないです。
さて、物語の舞台は、中国の東北地方の架空の都市(撮影はハルビン)。雪だるのそばに死体が置かれるという、謎の連続殺人事件が起こっています。殺されるのは犯罪歴がある人ばかりですが、共通点はなし。雪だるまに添えられているのは、「私を捕まえてください」という張り紙と、フィルターのないタバコ、そして骨。
警察では、難事件を解決するために、過去に失敗して交番勤務させられていた厳良刑事がやってきます。優秀だけど問題児で、証拠不十分なのにつっぱしって捜査したり、被疑者を連行して尋問したり。でも、彼の行動力のおかげ(?)で、一人の容疑者が浮かび上がります。それは、厳良刑事が過去に一緒に仕事をした駱聞検視官でした。
このドラマは、犯人がわかりやすく最初に出てきて、その人が捕まるかどうかにハラハラするストーリーになっています。同時に、証拠を残さず逃げ続ける悪人に、イライラさせられる物語でもあります。犯人の過去と、厳良刑事の過去がちょっとづつ明らかになっていくなかで、連続殺人事件の背景がうかびあがってくる仕掛けです。
雪だるま連続殺人事件と平行して、駱聞が偶然助けたカップルが事件にまきこまれます。不可抗力で、被害者だけど、じゃあ証拠を隠滅すれば罪から逃れられるのか。難しいテーマです。
鄧家佳さんが演じる朱慧茹はすごく透明感ある美人で、お兄さんや駱聞を心配するやさしい女性なのに運が悪い。だから、つい幸せになって欲しい、逮捕されないで欲しいと思ってしまいます。朱慧茹を好きな郭羽は、事件を利用して彼女を手に入れようとするクズです。彼のような人には、罪を逃れて欲しくないのが人情。
紫金陳さんの原作『悪童たち』とドラマの『バッド・キッズ』は要所を残してかなり改編されていました。多分、この『バーニングアイス』の原作もドラマとはかなり違うはず。でも、原作とドラマどちらにも共通するのは、犯罪とは無縁だった人間が、追い詰められて殺人犯と知り合い、関わる中でその技術を手に入れてしまった結果、自分でも犯罪を犯す物語です。
『ロング・ナイト』も、一見すると地方起業家の犯罪と地方警察の犯罪隠蔽がメインテーマっぽいですが、よくよく考えると検察官と元検視官、そして元刑事たちがどうしようもない状況に迫られて、弁護士や新聞記者も巻き込んで地下鉄爆弾騒ぎ(=犯罪)を起こす話でした。
そう考えると、『バーニング・アイス』では冷血でずる賢い殺人犯をどう捕まえるかが山場ではなく、若くて血気盛んすぎる厳良刑事が追い詰められて、警察として法律に従い、殺人犯を逮捕する道をあきらめて、犯人を殺してしまうのじゃないか(=第二の駱聞になるかも)というところが、ラストの山場になっていた理由もわかります。
最初は『バーニング・アイス』を厳良刑事の三部作ドラマと思っていたので、つっこみどころがありすぎて困りました。21世紀の関外の警察よりも、千年以上前の唐の都を舞台にした『長安二十四時』の靖安司のほうが優秀っぽくて。
残念だったのは、『ロング・ナイト』と同じく厳良刑事役で廖凡さんを見れる期待が外れたこと。『バッド・キッズ』で犯人役がすごかった秦昊さんが、今回の厳良刑事で驚きました。『バーニング・アイス』では、厳良刑事がそこそこ若くて、無鉄砲で自分の直感的推理に従って突っ走る役なので、廖凡さんのイメージは合わなかったのかもしれません。残念。
余談ですが、ドラマで出てきた謎の骨は、東北地方のシャーマンが使う占いの道具でした。そんな中国のシャーマンに関するドキュメンタリーが、もうじき日本で見れます。東京は8月。大阪は9月から。絶対見に行きたいです。
このドラマでは、駱聞役の姚櫓さんがよかったです。頭が良くて、経験豊富で、包容力があって、悪人になりきれない駱聞にぴったり。あと、地味にたくましくて(?)、夫が死んだ後にセイセイしたとばかりに自分のシマをとりまとめてる華姐(張澍さん)が憎めなくて、わりと好き。
紫金陳さんの小説はいくつか翻訳がありますが、『バーニング・アイス』や『ロング・ナイト』がなくて残念。でも、せっかくだからお盆休みあたりに読んでみようかな?
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