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いろんな国から見た中国。『中国vs.世界 呑まれる国、抗らう国』安田峰俊

ときどき、You Tubeで中国CCTVニュースを見ているのですが、国内だけでなく、いろんな国のニュースを見ることができます。日本のNHKも、その他の民放も、基本的に日本のニュースばっかり。そして、各局同じ内容ばかり。そして、ちょっとアメリカの情報。すごく狭い世界です。だから、中国共産党の専制国家で、言論の自由がない国のTVの方が、海外の話題が豊富という不思議。

中国は、普通の日本人が思う以上に、世界中の国と友好関係を結んでいます。特にアフリカ、そして中南米、東欧。もちろん、中国からの豊富な援助が目当ての国が多いのですが、それにしても日本とは桁違いに数が多いし、人の移動も多い。そんな状況をわかりやすく取材して、まとめたのが本書です。

取材対象は、まずイスラエル。それから、ナイジェリア。カザフスタンにエチオピア、オーストラリア、セントビンセント及びグレナディーン諸島。セルビア、カナダ、ドイツ、パキスタン、スリナム。各国それぞれに事情があり、中国とのおつきあいの仕方があります。

個人的に一番興味深かったのは、イスラエルです。中国には、歴史的に「開封のユダヤ人」と呼ばれる人々がいて、17世紀ごろまではそれなりに宗教と家を守ってきたけれど、その後の戦乱と革命の中で消滅しかけていたところ、1948年のイスラエル建国後によって、シオニスト財団が世界中のユダヤ人の末裔にアプローチするようになり、中国のユダヤ人にも働きかけを行ったとのこと。

第二次世界大戦中には、上海の租界までユダヤ人が逃亡してきたという歴史もあるので、中国が対外的に開放政策をとっている時代はイスラエルとの宗教を介した交流も良好だったけれど、習近平政権になって以降、ユダヤの宗教的なアイデンティティは危険視され、コミュニティセンターも閉鎖されたそうです。それでも、技術大国で人口の少ないイスラエルと、経済力にまさる中国の関係はそれなりにWin-Win。おもしろいです。

著者の安田さんは、過去にも中国のアフリカへの援助の話はいろいろ取材をしています。『もっとさいはての中国』では現地取材をして書かれていますが、今はコロナで海外取材ができません。そのかわり、京都精華大学のアフリカ人学長ウスビ・サコさんへのインタビューを実現するなど、きっちりしたお仕事は相変わらずです。

そして、意外におもしろかったのはドイツと中国のお話。日本と中国が戦争をしていた時代、ドイツが中国に武器を売っていた話は、それなりに有名だと思いますが、EUの中で人権大国みたいな顔をしているドイツが、現在も実ははかなり中国に甘いという話をきっちりまとめています。ニュース記事に加えて、ちゃんと日本語に堪能なドイツ人のインテリジェンスにも取材しているのもいいです。

個人的に一番情報が偏っているのは、ドイツに限らず、海外在住の日本人だったりします。なにせ、現地の言語に習熟するには長年の努力と知識、的確なアドバイスをくれるインテリの友人が必要なのですが、そういう日本人はかなり少なくて、彼らは基本日本語かせいぜい英語で生活し、自分の半径5mをその国の全てと勘違いして、出羽守してしまうので。

NHKスペシャルみたいな番組ではときどき言及されるけれど、以外に知られていない、EU諸国の中国経済への依存。そして、うっかり反旗を翻すカタチになってしまったオーストラリアの今後。本書のつづきも、楽しみです。



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