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ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

たまたまSNSで宣伝見つけて、家族で見に行きました。久しぶりの大阪十三の第七藝術劇場は、別の映画の監督さんの舞台挨拶があったせいか、エレベーターフロアに人だかりで身動きとれないほど。『夢見る給食』のオオタヴィン監督の舞台挨拶だったそうです。

『夢見る給食』公式サイト

そういえば、日本のだし文化と、素材を生かした料理のすばらしさを撮ったドキュメンタリー映画『千年の一滴』もこの映画館で見たんでしたっけ。

さて、この『◯月◯日、区長になる女』は、実際に2022年6月、東京都杉並区で行われた区長選挙のドキュメンタリー映画。と聞くと、お硬い真面目な映画を想像するのに、いきなり出てくるのはペヤンヌマキ監督の家の猫です。そして、次は亀。いきなり、肩の力が抜けて、ネコ好き心が刺激されます。しかも、猫は家猫のわりに、かなり愛想悪いタイプ。好きです♥

さて、ペヤンヌ監督はある日、近所の診療所に貼ってあるチラシを見て、自分のアパートが高速道路の延長計画区域になっていて、立ち退きを迫られることを知ります。でも、広報とかタウンミーティングとかで聞いたことありません。

実際、高速道路の延長計画は杉並区のあちこちにあって、長年実現しない「幽霊計画」になっているので、みんな道路計画や立ち退きに鈍感になっている状態。だから、区役所もなるたけ住民を刺激しないように、計画を進めている模様。監督は、自分で調べて地元のことに改めて驚きます。

杉並区は公園も多くて緑があり、小さな商店も多くて住みやすい、住宅地域だとか。私には土地勘がないのでピンときませんが、小さな商店が多いということは、高齢化も進んでいるでしょうから(そもそも、日本で高齢化が進んでいない場所はないはず)、立ち退きは死活問題です。

そこで、区役所に行っても埒が明かないので、区議会を傍聴しにいったら、会議中にもかかわらず寝ているか、スマホ見ている中年男性の区長。欠席が目立つ議場では議論なんて全然されていない。誰に反対を訴えたらいいのか右往左往した監督は、やがて道路拡張に反対する会を見つけて、そこに参加し、カメラを回し始めます。

何度も署名を集めたところで、とりあげてくれない区議会なので、区長選挙になんとか地元の声を代弁してくれる候補を探す人々。ようやく候補者が見つかって、選挙を盛り上げて……いけるかと想いきや、地域社会にはこれまで培ってきた(といえば聞こえはいいけど)面倒くさいことが山積み。

その、どうしようもない杉並区の人たちの面倒臭さや、選挙の大変さを、ペヤンヌ監督は深刻に描きません。劇作家らしく、まるでファミリームービーのように、地に足の付いた視点で追い続けます。なんせ、候補者女性が一番若くて、周りを囲むのは70才以上のお姉様たち。出てくる男性も高齢者ばかりで、サポートはしているものの地域の担い手はお姉様たちなんです。

私は年齢的に候補者に近いので(本当か?)、映画を見ていて、大昔の保育所で巻き込まれた保護者会のめんどうくささとか、昔住んでいた団地の自治会のめんどうくささを思い出しちゃって、「あちゃー、ここも同じか!」と声をあげたくなること、しばし。

だけど、劇作家ペヤンヌ監督のちからがここで生きています。どこまでも、人と人とのつながりやぶつかり、日々の暮らしの延長で、選挙も撮影してくれるので、ほっこりしたり、共感したり、「ある、ある。だよねー。どうしようもないけど」って思わせてくれます。

そして、やっぱり海外で苦労してきた人は強い。あの、面倒くさいお姉様百人(?)相手にめげなかったことだけで私は尊敬します。途中で投げ出しても、そこまでやっただけで尊敬する。でも、地元の人間では壊せない、古くからのしがらみってあるんだなと実感しました。「空気を読まない」も、決断だし、度胸だし、才能です。

個人的には、立候補者のお母さんの一言がいいです。ずっと海外で活動して、やっと帰ってきたと思ったら地元の神奈川じゃない、杉並区で苦労してる娘に対して、他愛もない日常会話しかしないところがすごい。私の母親なら、「もうやめろ」とか「どうせダメなんだから」とか絶対小言しかいわない。

候補者の娘さんが少し離れているところで、ペヤンヌ監督が「心配じゃないんですか?」ってお母さんに聞くんですけど、お母さんはにっこり笑って「あの娘なら大丈夫」って。私の母親としての理想像はこれですね。

あと、みんなの活動に参加するけど、大した支援もできなそうだけど、他のお姉様たちのように文句もいわず、ただただ、いろんな活動の参加人数を1人増やすために、デモに参加したり、事務所に応援に来るお姉様がおられました。

ペヤンヌ監督に年齢を聞かれて、こっそり「実は、卒寿(90才)なの」と照れながらいうときのかわいさったら! 私がもし、この年まで生きていられたら、若い人の活動はこんなふうに応援したいです。何も言わずにこにこ、手だけを動かして応援。理想だ。

選挙をめぐるシスターフッドのドラマ……もとい、杉並区選挙のドキュメンタリー映画の最後をしめるのも、やっぱりペヤンヌ監督の家の猫と亀。どうでもいいような、毎日かわらない日常の中に選挙があって、変わらない日々を守るには、みんながちょっとづつ、だけどずっと政治に関わっていかないといけないってドラマでした。

杉並区のドラマだし、東京が舞台とは思えないほどローカルだったし、でも実態はジェンダーの問題でもあったし、やたら猫が映ったし。そして、これが実話なのがいいですね。一緒に見た娘は、「ちょうど大学のレポートテーマにぴったり」と喜んで帰っていきました。

ラストに小泉今日子の歌声が聞けたの、個人的にはかなりのご褒美。

題名:◯月◯日、区長になる女
監督:ペヤンヌマキ
プロデューサー:松尾雅人
音楽:黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子) 、向島ゆり子、ブランシャー明日香
制作:日本(110分)2024年

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