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「天安門事件」から香港デモへ『八九六四』完全版、安田峰俊

夕遊


ゴルバチョフのペレストロイカがあって、ベルリンの壁が崩れて、社会主義の国は多くが別の体制をとるようになりました。けれど、中国は中華人民共和国のまま、中国共産党の体制が続いています。1989年の6月4日におきた天安門事件について、40才以上の日本人は山ほどTVや新聞のニュースを見たせいで、大体知っていますが、若い人は知りません。

中国でもそれは同じで、若い人は天安門事件なんて知りません。そして、知っていても話しません。なぜなら、中国では天安門事件はタブーで、「なかったこと」になっているから。でも、中国の人と親しくなると、以前はよく聞かれました。「お前は、六四を知ってる?」 そして「あのとき、天安門広場にいたんだ」なんて告白してくれる友人もいます。

そんなわけで、安田さんのこの本も出版されてすぐ読みました。そして、今回は完全版を入手。インタビューというのは、事件からそれなりに時間がたって、でも当事者がそれなりに元気なうちでないとできない仕事です。人間には過去よりも大事な未来があるし、目の前の生活もあります。今だから言えることや、今でも言えないことなど、人それぞれ。

この本に出てくる60人以上の人たちは、本当に千差万別です。天安門事件のときにリーダーだった人。下っ端だった人。警察の側だった人。亡命してその後も、民主化運動などに関わった人。中国で社会運動にがんばった人。全く関係ない生活を送った人。日本に逃れた人。後からネットで天安門事件のことを知って興味を持った人、などなど。

登場人物たちの人生は、天安門事件で大きく変わった人もいるし、変わらない人もいます。でも、経済成長をしていい暮らしができるようになった中国。改革をした元社会主義の東ヨーロッパやロシアの政治や経済があまり豊かでないのを横目で見ている若い人たちは、中国の方がまだましだと考えています。

すごく興味深いのは、あのとき天安門事件に関わらなければよかった、そうすれば人生がもっと楽しかった、どうせ中国は変わらないと考える人達がたくさんいる中で、過去のリーダーだった王丹やウアルカイシたちは、多くの戦友や後輩たちへの義務を果たそうとして台湾で取材に応じ、天安門事件について語り続けている対比です。彼らの失敗が、台湾の民主化にも影響しているという話もおもしろいですし。

余談ですが、確か日本の元公安関係の人が、中国で天安門事件の武力行使を批判して、強化盾や警棒を勧めたというインタビューをみたことがありますので、社会運動っていうものは当事者が予想するより、はるかに国境を越えた横のつながりがありそうです。もちろん、強化盾だって警棒だって、戦車や鉄砲よりマシというだけで、相手に血を流させることのできる武器だし、弾圧の道具です。

安田さんのインタビューで貴重なのは、他の取材者たちのように「天安門事件に直接関わった人」ついて聞くだけではなく、事件のまわりにいた人たちにもインタビューして深みを持たせてくれることです。そして、天安門事件のリーダーたちにインタビューする場合も、今の生活や、今の彼らを取り巻く台湾、中国、アメリカでの生活もちゃんと聞いて、彼らと現実の今の社会にインタビューの内容をフィットさせてくれているところだと思います。

なにより、中国の歴史や日本の社会運動に詳しいけれど、その専門用語をそのまま使わずに、普通の読者が読みやすい文章で、わかりやすい表現でインタビューを重ね、読み物としてもストレスのない、余韻ののこるものになっているところが秀逸です。今の中国に興味がある人は、とりあえず読んで損のない内容ですし、興味がある人にはかなりおもしろい内容になっています。ぜひ!


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