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中国共産党の独裁に逆らった男の話。『「暗黒・中国」からの脱出』顔伯鈞・安田峰俊


出張の往復で一気に読了。おもしろ過ぎます。
それは、多分抄訳された安田さんが言うように、もともとの顔さんの文章に知識とユーモアがあり、なおかつ経験したことが半端無くすごいからなんだと思います。そして、著者の安田さんとの偶然の出会い。科学反応です。

顔は党のエリート教育を受けてから、地方幹部の秘書となった経歴の持ち主であるため、ものごとを論理的かつ簡潔に説明することがズバ抜けて上手かった。すなわち、「○○の時期の状況は3つのフェイズに分かれています。第1のフェイズにおけるポイントは4点あります。そのひとつめについて、一言で表現すれば『△△△』ということです――」といった、論理の樹形図がすぐに頭に浮かぶような話し方をするのである。中国共産党の内部で、忙しい上司に、秘書が状況報告をおこなう際はこういった説明の技術が求められるらしい。

安田峰俊:謎の共産党エリート、2万キロを逃亡す~『「暗黒・中国」からの脱出』刊行に寄せて

もともとエリートだし、大学の先生もしていたような顔さんが、なぜ2万キロも逃亡しなければならなかったのかは、本当に習近平政権の暗部のような中国言論取り締まり事情にある。大して大物でもない穏健な活動家をどうしてここまで!?と思わずにはいられない。

けれど、中国のいいところは、そういう人たちを「義侠心」で助ける人たちの存在。日本だとなかなか無いけれど、中国はちょっとした縁や義理をものすごく大事にする人たちがいて、しかもそれがイスラム系のおじさんだとか、元ネオナチのニートの兄ちゃんとか。

辺境に行けば、ミャンマーで活躍しちゃう軍人とか、チベット族とか。公安の執拗な追跡とは裏腹に、とにかくカオスで雑多な迫害される(もしくは逃亡したい)人たちが協力しあって逃げる。解放軍のチェックだって甘くなって、会話に飢えた彼らは食料さえ支援してくれたりする。21世紀とは思えないけど、21世紀のお話。

そして、安田峰俊さんの取材力と気遣いのすごさは、その後の続編インタビューでわかります。不審に思ったことも、インタビューされる人間の安全が確保された段階で、再度インタビューしています。掲載されているのは、安田さんの『もっとさいはての中国』。こちらもおすすめです。


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