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歴史ミステリーは実話が最高に闇深い。『真夜中の北京』ポール・フレンチ


舞台は1937年の中国。日中戦争開始直前の北京の雰囲気がよくわかる本です。前に読んだ『上海狂想曲』でも戦前の中国にやってくる民間の日本人は、大企業から派遣された人々でなかったら、日本で食い詰めて流れてきた人たち……云々とありましたが、それはヨーロッパやアメリカでも同じ。本国ではイマイチの外国人たちがやってきて、特権にあぐらをかいて、とぐろを巻いているような中国の都市の雰囲気がよく伝わってきます。

そういえば、大昔、聞いたことがあります。イギリスで活躍するのがエリートなら、植民地のインドにやってくるのはイギリス本国では番頭レベルの人で、さらに中国にやってくるのはそれ以下の人…みたいな話。

さて、この物語は実話です。ある日、北京で若いイギリス人の娘が殺されます。しかも切り刻まれて発見されます。内蔵なんかは無くなっています。犯人探しのミステリーとしても怖いのに、実話というとなお怖さが増します。百年近く前のことなので、祟りだとか迷信的な噂も飛び交って、事件は迷宮入りしてしまいます。

作者のポール・フレンチは上海在住の中国近現代史研究者でエコノミストでアナリスト。歴史調査に基づいた著作が多数あります。フレンチは、1930年代に書かれた有名なエドガー・スノーの『中国の赤い星』の中にも記載がある少女の猟奇殺人事件について、7年かけて中国とイギリスの資料を集め、丹念に読み解いて、この本を書きました。

中国の近現代史の歴史といえば、登場人物の中では日本人がかなりの確率で悪役ですが、ここではまだ日中戦争前なので、そういう雰囲気は多くありません。むしろ、イギリス関連の資料を中心に書かれただけに、自国でうだつのあがらない輩が海外でたむろって、好き放題やってる外国人、特に特権をカサにきた人々の理不尽さが目立ちます。

そして、そういう外国人の中でも階層があって、力のある人々と、虐げられたり食い物にされたりする人々が出てきます。どの国でもそうだと思いますが、海外で騙すのも騙されるのも同国人、助けてくれるのが外国人ってよく聞きます。これは言葉の問題でもあるんですが。

というわけで、歴史とミステリの両方を堪能できる本書はおすすめです。アメリカのエドガー賞、イギリスのゴールド・ダガー賞受賞作品。






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