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ことりっぷな外国語チャレンジ。『ことばの白地図を歩く』奈倉友里

この本は、迷っている人におすすめです。例えば、大学には行きたいけど、何を勉強したらいいのかわからない人。大学には入ったけど、自分のやりたいことが見つからない人。そして、大学は卒業したけど、何かまた別のことを勉強して自分の方向性を変えてみたい人、などなど。

今井先生の『英語独習法』とは真逆ですが、勉強っていうのは目的が明確な場合と、そうでない場合があります。目的がはっきりしていれば、回り道をするのはアホらしい。でも、目的がゆるっとふわっとしていたら、ゆるふわなりにスタートしないと、いつまでたっても始まりません。

というわけで、この本はいきなり印刷機との出会いから始まります。そして旅をして、印刷機との別れで幕を閉じます。残念ながら、印刷機が外国語の勉強の案内をしてくれるわけではありません。

印刷機が選んでくれた案内人は、ロシア語が好きな奈倉さん。このご時世、中国語の次くらいに第二外国語で逆風が吹いていそうな言語をチョイスしているところに、創元社さんの気概を感じました。応援したいです。

もちろん、この本は1つのモデルケースなので、ロシア語の部分はフィンランド語でも、スウェーデン語でも、ポーランド語に入れ替えても大丈夫。奈倉先生を真似て、ちょっと気になる、興味をもてそうな言語を探せばいい。そして、ここがやっぱり肝心なのですが、選んだらとりあえずの目標をたてること。

検定試験でもいいし、小説を原著でよむでもいい。旅行するためでもいい。全く目標がないと、語学学習は迷路にはまり込んで、妖怪あきらめに食われてしまいます。趣味の範囲で無理なくやるのもいいです。そして、その言語の映画やドラマ、歌なんかを楽しむだけでも素敵です。

ガイドの奈倉先生が小説を書いたり、翻訳をしたりもする方なので、この本には先生が好きなロシア文学の話や、外国語を翻訳するときの入門みたいな話も登場します。言語は文化を基礎にできているので、文化についての話も出てきます。それほどの文量はないので、興味がなければ読み飛ばすことも可。

でも、専門知識や時事問題に詳しい人がじっくり読んだら、さりげない一文に強烈な批判の文章や、厳選された専門的な表現も隠されていることがわかります。読者が気づかなくてもいいし、気づいて気になった部分を個別に深掘りして読んでもいい。こういう奈倉先生の文書はシンプルで贅沢。

コンパクトな体裁に、かわいいイラスト。若い人から大人まで、幅広く読めます。何も知らないで手に取ったとき、何年か勉強して読み返したときで、かなり感想が違うはず。でも、まずは何かをさがしたい人の手に届きますように。





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