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スマホ決済で気づいた「便利」=「満足」とは限らないという話


株式会社エクシングのコピーディレクター、高沼です。

みなさんはキャッシュレス派ですか? それとも現金派ですか?

私は主にPayPayを使っています。

スマホ一つで出かけられる身軽さに感動しつつ、散々ご飯を食べてから「現金払いのみ可」のお店であることに気づいて青ざめたことも…。
(夫に財布を届けてもらいました…)

ちょっぴり恥ずかしい前置きはこのくらいにして、さいきん利用するなかで感じたことを、ライターの目線から書いてみたいと思います。





使いやすい!と思ったPayPay


私がPayPayを使い始めたのは、2019年2月から。

利用開始した当時、感動したのがUIデザインです。
シンプルで、直観的に使いやすかった。
(今ほど機能が多くなかったことも関係しているかもしれません)

決済手段そのものとしてはもちろん、送金方法などを紹介しているWebページの説明がわかりやすい点も好感が持てました。

ユーザーを取りこぼさない意志と細やかな配慮が感じ取れて、「デジタルにあまり強くないひとも利用しやすいだろうな〜」と思ったのを覚えています。

導入店舗が多いのも魅力です。冒頭でも書いたとおり、近所ならスマホ一つで出かけられるようになり、とても便利になりました。


キャンペーン中のPayPayスクラッチくじ


毎日の買いもの、ひいては暮らし全体までをも便利にしてくれるスマホ決済。
ただ、さいきんPayPayを利用していて気になったことが一つあります。

それが、先日(※2024年4月15日まで)キャンペーンとして実施されていた「PayPayスクラッチくじ」。

下記の条件をすべて満たすと、決済完了後、画面上にスクラッチカードが配布されるというものでした。


・本人確認済み
1回につき200円以上支払い
・以下の支払い方法で決済

 (PayPayクレジット / PayPay残高 / PayPayポイントのいずれか)

※キャンペーンはすでに終了しています。
※詳しくはPayPayのキャンペーンサイトをご確認ください。


PayPayの決済完了画面。画面下部にPayPayスクラッチくじが表示されている。
決済後、画面下部にスクラッチカードが表示されます。


決済後、画面の銀色部分をタップすることでスクラッチカードが削られ、結果がわかる仕組みです。

が、これがなかなか当たらない!

条件を満たしていると当選確率がアップするらしいのですが、私は対象外だったのであまり当たりません。

もちろん、くじなんて「当たったらラッキー!」くらいのもの。
ハズレでも仕方ありません。

ただ、PayPayを使っているうちにある気持ちが湧いてきました。

そう、それは…

さいきん、買いものがつまらない…!!


女性がびっくりしているイラスト。(いらすとやより)
買いものだいすきな私が!?と
びっくりしました…。


気づいた当初は、当選確率が低いのが原因かな?と思っていました。
私ったら、当たらないからっていじけてダメな大人だな〜と。

ただ、よく考えると、以前のキャンペーンでもそれほど当選していたわけではありません。

では、なぜ急に買い物がつまらないと感じ始めたのでしょうか。



買いものをつまらなく感じ始めた理由とは?


宝くじで10億円が当たってもすぐ使い切る自信があるほど、買いものを愛する私。
にもかかわらず、こんな気持ちになるとは…。なんともふしぎです。

せっかくなので(?)自分なりに理由を考えてみると、以下の3つの要素が浮かび上がってきました。


① 抽選結果が表示されるタイミング


商業施設などでよくある抽選キャンペーンは、参加券を店舗でもらうか、クレジットカードのWebサイトでエントリーする形式です。

その仕組み上、買いもの直後に結果がわかることはほぼありません。

せっかちな人にとっては煩わしいでしょうし、抽選会場への移動やエントリーの手間もかかります。

けれど、良い面もあることに気づきました。

それは、「買いもの体験」と「抽選結果」が直結しないということです。

結果が出るまでに時間的な猶予が発生しますし、店舗と抽選会場は場所が異なることも多いため、必然的に「買いもの」と「くじ」は別個の体験になるのです。


商業施設などにおける抽選キャンペーンの体験プロセスのイメージ図(筆者作成)。左の円は買いもの体験、右の円は抽選結果。間には矢印がある。矢印の下には「時間・場所の移動」と書いてある。買いものと抽選結果が別個の体験であることを示している。
体験プロセスのイメージ
【商業施設などにおける抽選キャンペーン】


対して、PayPayのキャンペーンは決済後すぐに結果がわかります。

すると、「買いもの体験」と「抽選結果」が直接的に結びつくのです。
(※PayPayスクラッチくじは後から結果を見ることもできますが、仕様的にその場で見る方が多いかと思います)

すこし大げさかもしれませんが、買いもの」を通して得た喜びが、くじの結果次第では消失する気がしました。


PayPayスクラッチくじの体験プロセスのイメージ図。買いものの円と抽選結果の円が重なりあっており、下の「買いもの体験と抽選結果は重なり合う」と書いてある。
体験プロセスのイメージ
【PayPayスクラッチくじ】
(どことなくマ○ターカードのロゴに見えるのはスルーしてください)


最初に書いた通り、PayPayを使い始めた当初はUI / UXデザインの素晴らしさに感動しました。

個人的に、特に便利と感じたのはクーポン画面をいちいち提示しなくて良いこと。事前にクーポンを取得しておけば、決済するだけで自動的に適用されるのです。

ただ、このくじに関しては自動化による「利便性」がやや裏目に出ているように感じました。

ユーザー体験において、忘れてはいけないことが一つあります。
それは、必ずしも「便利」=「満足」とは限らないということです。

決済してすぐにくじがもらえて、その場で結果がわかる。
これは一見、とても良いシステムに思えます。

前述のとおり、商業施設で行うくじと違って、並ぶ手間も時間もかかりません。企業側としても、決済時におトク感を味わせることでユーザーを囲い込めるエコシステムはメリットが大きいでしょう。

けれど、買いものは「体験」です。
単純にモノを手にいれるだけでなく、その瞬間のやり取りや記憶までをも含めた「体験」
であると私は考えます。

欲しかったものを手にするという喜びあふれる体験が、直後に「ハズレ」を告げられることによって、ネガティブな印象になってしまうことに気づかされました。

「終わりよければすべてよし」なんて言葉もあるとおり、体験をどう締めくくり、相手にどんな後味を与えるか、というのはあらゆるコミュニケーションにおいてだいじな要素です。

UXにおいては、どうすれば「便利か」よりも、どうすれば「ユーザーの満足度を高められるか」を優先してデザインすべきと感じました。


② 期待感を高める「削る」エフェクト


とはいえ、PayPayのこうした抽選キャンペーンは今回が初めてではありません。「ペイペイジャンボ」をはじめ、私も何度か参加しています。

しかし、当時はそれほどガッカリ感を抱かなかったおぼえがあります。
(当選確率についても、直近のキャンペーンにおいてはそれほど変わっていないと感じています)

では、なぜ今回に限ってネガティブに感じたのだろう?

振り返ってみると、思い当たる節が一つありました。

それが、今回のキャンペーンに使われていたエフェクトです。
「スクラッチくじ」であるがゆえに、タップして「削る」というユーザー側での動作があるのです。


▼CMのコピーにも「タップで削って」と書かれています。


個人的に、この「一手間」が要因の一つと考えているのですが、問題は「手間」だからではありません。
すこし面倒ではありますが、使うのが嫌になるほどではないからです。

では、何がネックなのか?
個人的には「削る」という行為がもたらす期待感が理由の一つかな、と思いました。

ペイペイジャンボをはじめ、過去に行われていた抽選キャンペーンは自動で結果が表示される仕様でした。

決済後にいわゆる「ガラポン」と呼ばれる箱がまわる、あるいは的に矢が刺さるといったアニメーションは実装されていたものの、ユーザー側でタップするなどの動作は求められず、自動的に結果がわかる仕組みだったと記憶しています。
(※記憶違いがありましたら、たいへん申し訳ありません…)

一方、今回のスクラッチくじは自分で削らないと結果が表示されません。
実際には「タップ」ですが、ユーザー側での動作が必要で、かつ「隠れていたものが明らかになる」という視覚的な効果が実装されています。

結果がわかるまでに、動作的にも視覚的にも間が発生するのです。
すると、なんとなく期待が高まるのが人間というもの。
(私が欲深いだけの可能性も高いですが…)

わずかな一手間ではありますが、ユーザー側でのワンクッションがあることで、ガッカリ感がやや強くなる気がしました。


③ ハズレの際に出る文言


最後にちょっぴり気になったのが、ハズレの際に出てくるテキストです。


PayPayスクラッチくじのスクリーンショット。くじを削ったところに「ざんねん」と書いてる。
ハズレの場合は「ざんねん」と表示されます


せっかく目当てのものを手に入れてウキウキなはずなのに「ざんねん」と出ると、買いもの体験の後味がすこしだけ損なわれる気がしました。

すぐ下に「また挑戦してね」と書かれてはいるものの、しょんぼりした気分になります。

では、どんな言葉なら、たとえハズレでも前向きになれるだろう?

考えてみたものの、なかなか適切な表現が浮かびません。

こういうときにいちばん良いのは、身近な人の意見を聞いてみることです。
試しに、夫に尋ねてみました。

「ハズレであることはきちんと伝えながら、前向きになれる言葉ってあるかな?」

彼から返ってきたのは、意外な答えでした。

ティモンディの高岸さんだよ」

(※念のため簡単にご説明しますと、甲子園の常連校である済美高校・野球部出身としても知られるお笑いコンビ「ティモンディ」。高岸さんは底抜けにポジティブなキャラクターと↓の決め台詞で人気を博しています)



なるほど、と思いました。

「やればできる!」かぁ。

良いワード!と思ったのですが、懸念点が一つ。
「ハズレ」であるという事実がほんのすこし伝わりづらい点です。

ということで、さらに考えまして…

「次がある!」
なんて、どうでしょう?


PayPayスクラッチくじを模した画像(筆者作成)。削ったら「次がある!」と書かれている。
※あくまでもイメージです。


実際は(景品表示法等の関係から)「明確にハズレと伝わる文言でなければNG」といった制約もありそうですが…

せっかくお金を払うなら、楽しい気持ちになれる買いものがいいなぁ!なんて思ったのでした。



〜おわりに〜

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

デザインのお仕事をしていると、あらゆることが学びのタネになると感じます。

素晴らしい体験なら、どこが魅力的だったのか?
イマイチな体験なら、どこがマイナスだったのか?

一つずつ掘り下げてみることで、コミュニケーションや表現のヒントを見つけられるはずです。

そう考えると、「ハズレ」も悪いものではないのかもしれませんね。
(もちろん、ストレートに「当たり」も嬉しいですが…笑)


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