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【ファジサポ日誌】83.我慢と反撃~J1昇格プレーオフ準決勝 東京ヴェルディvsジェフ千葉~

J1昇格を熱望するJ2サポにとって、J1昇格プレーオフは熱狂の場であると同時に、特にプレーオフ進出を逃したクラブのサポにとっては自分たちに足りなかったものを振り返る貴重な鍛錬の場でもある。

プレーオフに参加しているチームの内、勝ち上がったチームを除いては来シーズンも同じリーグ(J2)を戦うという現実に時に慄きつつも、やはり見ておいて損はないという戦いが毎年繰り広げられているのだ。

これは昨シーズンのJ1参入プレーオフ決定戦の拙レビュー。
推しクラブ(ファジアーノ岡山)は1回戦であえなく敗退したが、やはり他のゲームも観ていて学びがあった。記事では熊本の確固たる「スタイル」に着目し、岡山にも「スタイル」が必要であることを主張した。

今シーズンの岡山は10位と振るわなかったが、自分たちの攻撃スタイルの基盤を一定のレベルまで形づくることは出来たと思う。

プレーオフからの発見が、推しチームの成長を感じていく起点となる。
これはサポーターとしての喜びのひとつである。

ということで、今年もプレーオフをレビューしようと思う。

前日には清水-山形のカードも開催されたが、この試合(東京V-千葉)からレビューすることにも岡山サポ目線での理由がある。

今シーズン、岡山が上位進出を逃したきっかけとなった試合を一つ挙げるのであれば、筆者はクラブ史上初の5連勝が懸かりながらも、感染症により多くの主力が欠場を余儀なくされた第35節の山形戦と以前に述べたが、その後ジュビロ磐田に勝利しチームの勢いが蘇った直後の第37節千葉戦での大敗を挙げた方も多かった。

この試合から6戦未勝利でシーズンを終えたこと、そして「サッカーの中身」という点ではこの試合が大きな分岐点になったことについて異論はなく、岡山に大きなインパクトを残した千葉の戦いぶり、そして岡山がどのように振る舞うべきであったのか?という観点から東京Vの戦いぶりを振り返ることは、また新たな岡山の戦いの「起点」になると思うのである。

1.試合結果&スタートメンバー

レビュー全体の書き方については、来シーズンに向けて改良を加えたいと考えていますが、ひとまずは今シーズンの形で進めて参ります。

J1昇格プレーオフ1回戦 東京Vvs千葉 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

前日の清水-山形も、レギュレーションにより勝利を求められた山形が序盤に攻勢を掛けますが、決め切ることが出来ませんでした。

そして、この試合も勝利を求められる千葉が、序盤からハイプレスを敢行します。レギュレーションの影響もありますが、千葉にとっては本来の自分たちの形で戦っていたともいえます。
東京V陣内でサッカーをしながら決定機をつくりますが、東京V(1)マテウスのビッグセーブもあり、決め切れませんでした。

この猛攻を耐えた東京Vに自信がみなぎったことは明らかで、徐々に攻撃の時間をつくり出します。そして、得意のサイドで起点をつくる攻撃から2得点。特に2点目は千葉に精神的ダメージを植え付けたように見えました。

それでも後半、改めて千葉は鋭いプレスから自分たちの形を作り直しますが、若干攻め急いだことで、2点のリードがある東京Vに冷静に対応されます。終盤、東京Vの運動量が落ちたタイミングで1点を返しますが、その後は決定力を欠きタイムアップ。東京Vが決勝戦に駒を進めました。

続いてメンバーです。

J1昇格プレーオフ1回戦 東京Vvs千葉 スターティングイレブン

両チームとも現時点でのベストメンバーを組んできたと思いますが、東京Vは2トップの一角に(27)山田剛綺を先発で起用してきました。
(39)染野唯月と明確に2トップを組むことで、千葉のCB陣にしっかりと圧力をかけるねらいがあったと思います。スカウティングを反映させたものかもしれません。

2.レビュー

一言で述べますなら、強みと強みがぶつかる好ゲームでした。

(1)序盤~千葉の集大成~


千葉は第37節の岡山戦で7連勝を達成後、リーグ最終盤に若干その勢いに陰りが見えました。
シーズン終盤に勢いを失ったチームは、昨シーズンの岡山がそうであったようにプレーオフでは苦労するイメージがありますが、今シーズンはJ1チームとの対戦が無い分、リーグ戦終了からプレーオフまで1週空きました。

この期間での修正が十分にみてとれる立ち上がりでした。
3分CH(4)田口泰士のゴールへ向かうFKをOFM(8)風間宏矢が合わせ、ネットを揺らしますがオフサイド判定、18分CH(4)田口泰士からのロングパスを受けた(16)田中がクロス、CF(9)呉屋大翔がフリーで合わせますが、東京V(1)マテウスのセーブに遭います。

この序盤の20分、特に最初の10分間はほぼ千葉が東京V陣内でボールを保持しており、東京Vが自陣でボールを奪っても再びハイプレス、またはプレスバックで奪い返す繰り返しであったといえます。
今シーズン、千葉が取り組んできたサッカーのエッセンスが詰まっていました。

J2上位6チームと岡山のボール奪取順位・敵陣ポゼッション数値
~Football labより引用~

簡単な表ですが、Football labさんのボール奪取順位、敵陣ポゼッション数値です。各指標の定義については、Football labさんをご参照いただきたいと思います。

千葉の特異な数値傾向がみえます。
一言でインテンシティ(プレーの強度や激しさ、集中力)が高いサッカーと述べても、千葉の場合はボール奪取に長けて、かつ敵陣で保持するサッカー、つまり「相手コート」でのサッカーを完成させてきたことがよくわかります。

今シーズン前半戦の千葉は順位的には低迷していましたし、序盤に関してはそこまでハイプレスの印象はありませんでした。インテンシティの高さもあまり感じられませんでした。

一方で、岡山が対戦した第6節などで感じたのはボール「保持」へのこだわりでした。(4)田口という人材があってこその保持なのですが、千葉の第1節~第21節(リーグ前半戦)の平均ボール保持率は51.5%と50%を超えているのです。

ちょうど後半戦に差し掛かる、今治から(77)ドゥドゥが加入した7月から千葉は上昇気流に乗りますが、ちょうどこの頃から千葉のインテンシティの高さが注目され始めたと思います。
大きく千葉のサッカーが変わった時期なのですが、実はシーズン通してのボール保持率は52.7%と大きく変わってはいないのです。

つまり、今シーズンの千葉のサッカーの根底には「主導権を握るサッカー」という大きな目的があり、42試合という長丁場を限られた戦力で戦うためにも徐々に「インテンシティ」を高めていったという長期的なチームづくりがみてとれるのです。

一時は降格圏も見えていた中、焦らずブレずにシーズン終盤を見通した戦術浸透を展開した小林慶行監督の手腕はもっと全国的に脚光を浴びてもよいのではないかと筆者は感じています。

(2)東京V~受ける哲学~

そんな千葉の1年分のエッセンスが凝縮された序盤の猛攻を東京Vは耐え凌いでいたのですが、このチームの場合は城福体制に代わったこの2年で相手の攻撃を「受ける」文化がしっかり根付いていました。

立ち上がり、難しい形になっていた。失点してしまうかもしれないシーンはあったが、そこを乗り越えることができた。自分たちは無失点でいかなければいけないという思いがあった。あのときに失点しなかったのが、今回のゲームのポイントになったと思う。チーム内でも押し込まれているのはみんなが感じていたと思うが、失点しないというような雰囲気もあった。客観的に考えると危ないシーンもあり、反省しないといけない場面もあった。ただ、チームとしてそこまで悪い雰囲気ではなかったと思う。

東京Ⅴ(13)林尚輝の試合後コメント~Jリーグ公式HPより~

試合の入りから25分くらいまでは、千葉の圧力に押されてしまった。そうした時間があることを想定していたが、われわれは若いチームとして、そこでの判断は学ばないといけないところが多い。相手の力を利用するようなサッカーができなかったことは反省点。マテウスのビッグセーブがありチームとしてしのいで、自分たちのペースになったところで2点を奪うことができた。それがすごくアドバンテージになった。

東京V城福浩監督の試合後コメント~Jリーグ公式HPより~

CB(13)林尚輝、城福浩監督の試合後コメントからは、千葉の今シーズンの戦いぶりやプレーオフのレギュレーションから、序盤から千葉が前から圧力を強めてくることを想定はしていながらも、押されていた心理が伝わってきます。

しかし、ただ圧倒されるだけではなく、「何となく凌げそう」と感じられる経験であったり、チームを救えるGKがいることが千葉の軍門に下った他チームとの大きな違いであったのかもしれません。

「受ける」とは何か?ということを考えた時に、決して相手から圧力を受けている現状に対して、完全に心理的に優位に立つ必要はないということを教えてくれています。つまり、相手の圧力に脅威を感じながらも、「何となく凌げそう」という心の余裕が必要なのだと思いました。

では(13)林らが感じた心の余裕はどこから生まれていたのでしょうか?

筆者はこの第39節の対戦にあったのではないか?と推測しています。

この試合で東京Vは、実は千葉のハイプレスに屈しており前半で2失点を喫します。更に後半(77)ドゥドゥにPKを献上、試合を決められるピンチを迎えますが、これを(1)マテウスがビッグセーブ、ここから流れを変え一気に3得点を上げ、大逆転したというゲームでした。

この勝利という結果を得た成功体験と、二度三度と千葉の圧力に屈してしまった失敗経験が、選手の千葉に対する経験値となり、心の余裕に繋がったのではないかと思うのです。

--後半の失点前の時間について。
2-0の状況で、ある意味前回対戦と逆の立場。ひっくり返せたぶん、ひっくり返される可能性はゼロではないとみんなで話していた。そうさせない強い意志を持って入ったが、受けてしまうシーンが数多くあった。1失点したら変わってしまう、と口酸っぱくやっていた。あの場面で失点して、難しくしてしまったと思う。

--最後は守り抜いた。
1点を決められたら変わると分かっていた。みんなが厳しく、ハードワークをやれたと思う。

東京Ⅴ(13)林尚輝の試合後コメント~Jリーグ公式HPより~

再び(13)林のコメントを引用しましたが、やはりこの試合での経験を、形を変えながら自分たちにへのベクトルに転換できています。
この柔軟な考え方が東京Vの勝因のひとつであると思いますし、千葉に下ってしまった岡山に不足していた点なのかもしれません。

前半 東京Vのビルドアップ例

圧力を受ける立場としては、当然その突破口を見出せるかどうかで、受け続ける気力も湧く訳ですが、東京Vにはその点の工夫もみることができました。
20分前後、流れが若干東京Vに傾き始めた時間のビルドアップです。
東京V両CBに千葉がプレスの構えを見せながら、東京V両ボランチへのパスコースを消しています。
両SBも千葉にマークされています。
こうなると通常は縦へロングボールを蹴るだけになるのですが、このシチュエーションで東京Vは両SHがアンカーのようなポジションまで下りてきてボールを受けていました。特にRSH(47)中原輝は千葉とギャップをつくろうと左に流れてみたりと千葉をの守備に混乱を与えていました。

マイボールになった際に前へ蹴る以外のボールの出口が与えられている。これは「受ける」時間が永遠に続く訳ではないという希望をもたらすという意味でも、「我慢」するにあたって重要な要素なのです。

東京V34分の先制点は、LSB(2)深澤大輝が中に入りビルドアップに関与、2トップの(39)染野と(27)山田が縦関係になり、前線へボールを送り(47)中原が右から中央へ。左でLSH(8)齋藤功佑が時間をつくっている間にCH(7)森田晃樹や(47)中原がニアゾーンへ。
(47)中原のシュートはスペシャルでしたが、ボール運びの各局面において、各選手が自身のポジションに拘らず「ギャップ」を作ろうとしている点が素晴らしかったと思います。

東京Vの追加点は得意のサイド攻撃からでしたが、(47)中原がハーフウェイで千葉CH(10)見木友哉からボールを奪い、素早く左サイドの(8)齋藤に展開、ここですぐにクロスを上げるのではなく(7)森田らが走り込む時間をつくった点で勝負ありでした。

(3)その他雑感

後半3得点を必要とした千葉でしたので、急ぐ必要はあった訳ですが、急いだ分、相手陣内でのポゼッションという自分たちの強みを捨ててしまった点はあったのかもしれません。来シーズンに向けて自陣からの速攻については改善の余地があるようにみえました。

また、東京Vのクロージングについては大きな課題が残ったと思います。
上述しましたように、東京V各選手はハードワークによりギャップをつくる分、豊富な運動量が要求されます。

70分以降に運動量が落ちた点は必然なのですが、ここで十分な手当てが行えていませんでした。この時間帯に、東京Vに必要であったのは前で収められる選手、中央でボールを受けられる選手であったと思いますが、ベンチメンバーにはサイドプレーヤーや最終ラインの選手が多かったと思います。
最終的に交代枠を余してしまいましたが、状況に合った選手がいなかったということだと思います。

決勝戦の相手は清水ですが、後半オープンになればなる程、清水の攻撃は手をつけられなくなります。後半70分以降の攻防が決勝戦のポイントになるかもしれません。

3.まとめ

以上、簡単にプレーオフ1回戦東京V-千葉をまとめてみましたが、この試合のМVPを挙げるなら、スーパーセーブを連発した(1)マテウスもさることながら、個人的には(47)中原を挙げたいと思います。
この(47)中原、夏のマーケットでC大阪から加入しましたが、今や前任のバスケスバイロン以上の力量を魅せているように思います。
この(47)中原、そして千葉の(77)ドゥドゥも夏の移籍組でした。
上位のチームは夏の移籍組が戦力補充以上の効果をチームにもたらしている。この点もしっかり覚えておきたいです。

岡山サポ目線としては、試合序盤に千葉の圧力に晒された経験から、東京Vとの違いをみていました。跳ね返す自信などのメンタル面の充実は当然必要なのですが、やはり自陣マイボールの出口がしっかり用意されているか否か、この点は磨くべき部分であると感じました。

そして、チームを勝たせられるGKの必要性。これに関しては、岡山の(1)堀田大暉もよくチームの危機を救ってくれていますが、更に劣勢を覆す、チーム全体の流れを変えるというレベルまで到達してもらうためには、彼の競争相手となりそうなGKの補強も必要なのかもしれません。

やや脱線しましたが、城福、小林両監督が長いシーズン中、徐々にスタジアムに「帰ってきた」サポーターに言及していた点が印象的でした。
ナイスゲームに感謝したいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦中。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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