【ファジサポ日誌】82.2023シーズン ファジアーノ岡山を振り返る
各番記者さんや、ライターさんのシーズン振り返り記事はいずれも素晴らしいもので、目標であったJ2の「頂」に昇り詰めることが出来なかった今シーズンに無念を感じながらも、拝読することで特に気持ちの面を整理することが出来ました。
趣味でレビューしている筆者が改めて振り返られる内容はそれ程無いのかもしれませんが、書くことで1シーズンを記録してきた者として、やはり振り返りは行いたいと思います。せっかく書きますので、筆者独自の切り口で綴ってみたいと思います。
1.目標は適正であったか?
2023シーズン、ファジアーノ岡山の目標はJ2の「頂」でした。
この目標設定と申しますか、「打ち出し方」に筆者は全く異論はありません。
昨シーズン3位クラブですから、対外的にも打ち出す目標は「優勝」になります。これを最初から下方に向けるということになりますと、チーム編成やクラブの財政に並々ならぬ事情が発生したという事になり、その点についての説明責任がクラブに発生してしまいます。
シーズンを終えた今、改めて振り返りますと、J1自動昇格を果たした町田や磐田と比較した場合、戦力の質は上回れていなかったとは思います。
しかし、岡山としてはミッチェル・デューク(町田)、徳元悠平(FC東京)の流出はあったものの、他の主力の残留には成功。新戦力にレンタル加入とはいえ、U-20日本代表に選出された(48)坂本一彩や、水戸のレギュラーCB(43)鈴木喜丈が加わった点などからは、それなりのクラブの本気度は感じられました。つまり、「頂」という目標設定そのものは戦力面で厳しかったとは思いますが、無謀とまではいえなかったと考えます。
では、開幕前の他クラブとの戦力比較から相対的にこの目標を補正した場合、現実的に目指すことが出来た「立ち位置」はどこだったのかについて考えてみたいと思います。
プレーオフ圏内、6位以内に入ったクラブの今シーズンの戦力を振り返ってみます。4位清水はJ1級の戦力を抱えていましたが、3位東京V、5位山形、6位千葉はどうでしょうか?
昇格予想振り返り記事でも触れましたが、東京Vは昨シーズンの「センターライン」がごっそりと抜けました。反面、城福体制2年目の戦術的上積みはあると考えられました。
昨シーズン6位の山形からはビルドアップの起点CB山﨑浩介(鳥栖)や不動のRSB半田陸(G大阪)が流出しました。補強に関しては抜けたポジションをそれなりに実績がある選手たちで埋めましたが、客観的に見て「補充」の域は抜けなかったと思います。
千葉については、小林慶明監督の就任で新体制となりましたが、昨シーズン7ゴールをマークし、新シーズンは前線の軸になることも想定されていた櫻川ソロモンが岡山にレンタル移籍します。大分から(9)呉屋大翔を補強、北信越大学リーグ3年連続得点王の(41)小森飛絢が加入しますが、シーズン前、前線のコマ不足を指摘されていたと記憶しています。
昨シーズンの順位、今シーズンに至る戦力補強の状況から特に山形を基準に考えますと、岡山が現実的に目指すべき立ち位置は6位以内、つまりプレーオフ圏内であったといえます。
つまり「頂」(優勝)はともかく、J1昇格を真剣に目指す体制は確保出来ていたといえるのです。
数字上では第40節までプレーオフ圏内(6位以内)の可能性を残していた点は妥当な成績といえますし、評価できることだと思います。
2.検証①~ブーストはどこで?~
ではそこから、あと一息6位以内に入れなかった要因について考えてみます。6位以内に入ったクラブとの成績推移を比較してみます。
ここで今シーズンの検証に入る前に、来シーズン、岡山が再び「昇格できそうなチーム」になるために何が必要なのか?という視点に立ちますと、まず予算的に限りがあるクラブであるという認識は強く持たなくてはなりません。
単純にチーム人件費を比較した場合、現在の岡山はJ2リーグ中位程度であると考えられます。おそらく大スポンサーでもつかない限りは、現在の予算規模は来シーズンも大きくは変わらないと考えられます。
そうなりますと、来シーズンも今シーズンの町田のような大規模予算を組むクラブが出てきた場合、自動昇格枠を目指すのは至難の業になる訳です。
J1からの降格クラブ(1クラブ)がまだ確定していませんが、現在のJ2では長崎の動向が注目されます。
今年7月にJリーグが発表しました「2022年度クラブ経営情報開示資料(本発表)」の「トップチーム人件費」によりますと、長崎の2022年度は13億5,000万円、新スタジアムが開業する2024シーズンは更に上積んでくる可能性も考えられます。
一方、岡山の2022年度は5億7,900万円で長崎とは2倍以上の差をつけられているのです。
もちろん、人件費どおりの順位になる訳ではありませんが、長崎が来シーズン、今シーズンの町田のような補強を行うことも想定しておかなくてはならず、実際にそうなった場合、自動昇格枠の一角を占めてくる可能性は高まるということです。
繰り返しになりますが、来シーズンへの見込みという点でも、岡山の現実的な立場としては、まずはしっかりプレーオフ圏内(6位以内)に入る戦い方が目標となるのです。
この目標を意識した上で、今シーズンの変遷を振り返らなくてはなりません。
前置きが長くなってしまいましたが、上の表は上位1~6位チームと岡山の勝分敗数、勝点数を14節ごとの3タームに分けたものです。
この14節ごとに分ける考え方はJ2の流れを捉える上で定着した見方といえます。来シーズンのリーグ戦からはリーグ戦は38試合に減りますが、この3タームに分ける考え方は大きくは変わらないと思います。
まず、プレーオフ圏内に入るにあたって、年間通して好調である必要は全くなかったという点を強調したいと思います。
岡山がドロー地獄に陥っていました第1ターム(1~14節)は、青色で示しましたように、上位に入った多くのクラブが苦しんでいました。
実は岡山よりも勝点を伸ばせないクラブが多かったのです。
特に清水と山形はこの間に監督交代も経験、戦術面のやり直しも余儀なくされていました。
では、これらの序盤で苦しんだチームと岡山の最終的な差は何なのか?
それは8勝以上(黄色)、または勝点26以上(桃色)のタームを作れたか否かという点にあります。
つまり、最低1タームでも勝点を集中的に稼ぐことが出来ていれば、プレーオフ圏内に入れた可能性は高かったといえるのです。
岡山の勝点は1ターム目の21が最高、勝利数は5が最高ということで、どこか一つのタームに2~3勝の上積みが欲しかったところです。
では最も上積める可能性が高かったのはどのタームであったのか?
筆者は最後の3ターム目であったと考えますし、3ターム目が最もチャンスがあったと思います。
この2023シーズンの拙レビューを読み返しますと、佐野航大について触れた内容が数多くありました。肯定的な内容もありましたが、彼の左サイドでの手詰まりがチーム全体の攻撃の停滞要因になっていると指摘したものも多かったのです。
書きにくいのですが、特に第2ターム(15~28節)の勝点が伸びなかった要因の一つであると考えています。
しかしながら、佐野の海外移籍の実現は、間違いなく今後のクラブの有力な実績となります。その佐野を育てるためには、代表で離脱していた序盤も含加えて、第1ターム、第2タームは肯定しなくてはならない期間と考えます。
また、この期間はチームが最終ラインからのビルドアップに苦労していた期間でした。自陣で繋ぐことで精いっぱいでなかなかゴールへの道筋もつきませんでしたし、ミスによる手痛い失点もありました。
その苦労が身を結び始めたのが第3タームでありましたし、佐野移籍後の左サイドが活性化し、攻撃の切り口として計算できるところまで連携が高まっていました。
岡山は第31節大分戦から第34節仙台戦まで4連勝をマークします。
この連勝を更に伸ばせなかったことが最終的には響いたと思うのです。
つまり、今シーズン最もポイントになった1試合を挙げるなら、筆者は第35節アウェイの山形戦を挙げます。
チーム史上初の5連勝が懸かっていたこの試合で、まずクラスターが発生してしまったというのが大変痛い出来事でした。
感染源はわかりませんが、ちょうどファンサービスが解禁されたタイミングでした。一方で、岡山市内では多くの学校でインフルエンザが流行していました。もう少し、クラブに用心深さがあっても良かった。当時はチームのいい流れに水を差したくないので、そんなことは呟きませんでしたが、正直なところそう思いました。
この試合での山形のデキはお世辞にも最終盤の勢いには達していなかったと思います。万全のメンバーで臨めていれば異なった結果もあったのかもしれません。
ここでクラブ初の5連勝を達成出来ていれば、その後の戦いに臨む選手の自信もまた異なっていたと思うのです。
この山形に敗れた後の磐田戦で逆転勝利を収めた点は地力がついた証ですが、あの千葉戦に臨むにあたって、5勝1敗の岡山と6連勝中の千葉の対戦となるのか、それとも6連勝中同士の対戦となるのか、サポーターが盛り上げる雰囲気も含めて全然違っていたと思うのです。
おそらくこの山形戦をベストメンバーで臨んでいれば、勝利できた可能性は高まったと思いますし、5連勝を達成していれば、チームの勢いは増し、更にその勝利を上積めた可能性は高かったと思うのです。
今、思い出しても悔しいです。
ベストメンバーで臨めなかった山形戦、それでも勝機はありました。
あの試合の決定機が一つでも決まっていれば…。
3.検証②~櫻川ソロモン~
あえて櫻川ソロモンと書きましたが、先に述べておきたいのは、ここから先は決して彼に対する誹謗中傷ではないということです。
客観的に見て、大きなポイントになった選手であったと思うのです。
前章で述べました第35節の山形戦で(18)櫻川ソロモンは9分、32分、34分と続々と決定機を迎えましたが、決めることが出来ませんでした。特に34分のヘディングシュートは無常にもポストに弾かれます。
そうなんです、今シーズン(18)櫻川のシュートは何度ポストやバーに阻まれたか。
Footballlabさんの「ゴール期待値」ランキングです。
(18)櫻川のゴール期待値は10.414、J2で6位にランキングしています。つまり、10ゴールは決めていてもおかしくなかったということなのです。実際のゴール数は4ですので、その差分は-6.414。このランキングの20選手のうち、マイナス差分が最も大きい選手となっています。
つまり決定力に大きく欠いてしまった訳ですが、彼がもし決めていればという6つの決定機を思い出すと、試合結果が変わっていたのではないかと思えるものも幾つかはあります。
では、なぜ決め切れなかったのか?
まず、本格的なプレッシャー、マークを受ける立場となった経験が乏しかったことが挙げられます。
レンタル元の千葉では2ゴール、3ゴール、7ゴールと年々着実にゴール数を伸ばしていましたが、昇格争いの経験はなく、チームの軸としてプレーした経験も乏しかったと思います。
相手DFやGKから本格的なマークを受けるシーズンとなりましたが、そこを振り払うパワーや、昇格のプレッシャーに打ち克つメンタルを維持出来ていなかったように見えました。
もう一つは、自分の型にこだわり過ぎたことが挙げられると思います。
(18)櫻川は実は足元が上手い選手ですし、一つ一つのプレーが丁寧なのです。それがよく現れていたのが、第5節ホーム甲府戦の一時同点に追いつくゴールであったと思います。狭いスペースを突きながら、相手DFやGKまでをも丁寧に剥がしていく形を得意にしていたと思います。
一方で、この丁寧さが却ってアダになっていたと思います。
つまり自分の型に持ち込む動作が入るために、ボックス内でDFやGKのブロックに遭ってしまう、またシュートチャンス自体を逸してしまうという場面が頻発したのです。
当初、彼の獲得については、ミッチェル・デュークの代役といった側面もあったと思います。2022シーズンの空中戦勝率の2位がデューク、そして3位が(18)櫻川であったからです。
しかし、現場は早い段階でデュークと(18)櫻川の違いは把握していたように思いました。その証にチームはダイヤモンド型中盤にSBが絡む攻撃の新形態を模索していました。
しかし、シーズンに入ると(18)櫻川には前で収める役割を求められることもありました。この役割をこなすことで、彼のプレーの幅も広がったのかもしれませんが、残念ながら木山監督の信頼を勝ち得ることは出来ませんでした。
しかし、第3タームの終盤戦は前線にターゲットがいない点が岡山の攻撃全体の低調を招きました。決してヘディングは得意ではなかったかもしれませんが、こんな時に(18)櫻川がいればと何度となく思いました。
彼が今シーズン苦しんだ経験は、岡山ではないかもしれませんが、必ず活かされる時が来ると思います。サイズ、技術、代表入りも狙える素質であることは間違いないと思います。
4.まとめ
以上、今シーズンのファジアーノ岡山について筆者の視点からまとめてみました。
① 勝利(連勝)ブーストを最終タームに作れそうなチャンスはあったが、モノに出来なかった。
② 櫻川ソロモンの不振がチームの勝敗に直結した。
他にもポイントはあったと思いますが、この2点が大きかったことを改めて強調したいと思います。
さて来シーズンについては、体制が確定しないことには何も言えないのですが、プレーオフ圏内進出に必要と感じる勝利ブーストを構築するためにも、クラブ史上初の5連勝を達成する必要があると思います。
ただ、それにはクラブ全体で勝利に向かうムードが必要で、そのムードがサポーターを盛り上げ、応援の力が選手に還元されるのだと思います。
今シーズン、あらゆる面において続いた悪循環を好循環に変えたいところです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
※敬称略
【自己紹介】
雉球応援人
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。
岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。
一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
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