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冬ピリカグランプリ

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✨「冬ピリカグランプリ」✨ 《お題:あかり》《文字数:800~1200文字》《投稿期間:12/28~1/3》《投稿方法:タグ「#冬ピリカ応募」を付ける》《ピリカの告知投稿http… もっと読む
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#短編小説

町の明かり(後日談 ~真二サイド~)

(1190字です。 元作品は、 本記事の最後の方にあります。 この小説をお読み下さるだけでも、 話の内容の分かるように、 努めてみましたけれども、 元作品をお読みいただいてから、 今作をお読み下さりますと、 より楽しめるかもしれません。 つる拝) (以下本文) 町の明かりは、夜になると灯る 真二は、 帰りの電車に揺られながら、 車窓から見える町の明かりの 通り過ぎゆくのを 見つめる。 リサイクルショップで 声を掛けてきた女の人。 季節は、あの寒かった頃よりも、

ショートショート「不思議な灯り~いぬい探偵事務所にて」

 街外れにある雑居ビルの階段を、翔くんは、とぼとぼと昇っていた。 「そんなの、大したことじゃないだろ」 「誰か、懐中電灯で遊んでたんでしょ」  両親はそう言って、ろくに聞いてくれなかったけれど。  でも、絶対に変なんだよ。  自分が見たものが、どうしても気になる翔くんは、他の大人に話そうと考えたのだ。  Googleで調べたら、このビルには、探偵がいるという。その人なら、小学五年生の話を聞いてくれるかもしれない。 「あっ、ここだ」  2階のドアに〔いぬい探偵事務所〕という看

雑文「冬ピリカグランプリ、特賞いただきました」

 初めて降りる駅で用事に向かう朝、スマホの通知が鳴った。noteらしい。誰かコメントでもつけてくれたのか、と思ってポケットに手を突っ込む。  冬ピリカグランプリ。  ピリカさんが企画された、「あかり」をテーマにした1200字の短編小説を募集したグランプリだ。誰でも参加できる企画だったので、僕も短編小説を応募していたのだ。その「受賞者発表!!」の記事で、僕の記事がリンクされている。これはもしや。  ドキドキする心を、時計の表示が止める。用事の時間だ。どんな内容なのか、本当に

小説|撫でられてたまるか

 今夜もお前のギターで唄うよ。もう使わねえんだろう。猫には弾けねえとお前は俺に言ったな。ところがどうだ。弾けなくなったのはお前だろうが。お前が会社で人に頭を下げているとき、俺は駅前でギターを弾くんだ。  お前の歌が好きだったのさ。路上で唄っているお前の歌を聴きもしねえで素通りする馬鹿どもの面を引っ掻いてやりたかった。良い曲だっただろう。良い声だったじゃねえか。何でそう簡単に夢をあきらめちまうんだよ。  ギターなんか捨てて愛嬌を振りまいて住宅地をぶらぶらすれば、たしかにいく

小説|暴言の爆心地に

 聞くに堪えない轟音。彼女の静かな街の中心に鉛色の暴言が落ちました。彼女が幼い頃によく遊んだ公園も、通っていた学校も、住み慣れた実家も、暴言が焼き尽くします。気づけば焼け野原の真ん中に彼女はいました。  体に傷はなくとも彼女は立ち上がれません。暴言を落とした飛行機は何もなかったかのように飛び去ります。天井のない廃屋で、彼女は月も星もない夜を迎えました。また暴言が落ちる夢を見るのが怖くて眠れません。  朝日は雨雲に隠されます。雨に濡れた彼女に傘を貸したのは、いつの日か公園で

2022今年の抱負

あけましておめでとうございます!えぴさんです。 昨年(2021年)の大晦日は正直 「えっ、明けるの!?」の感が強く、 何となく年越しの雰囲気も薄かったのですが…。 明けたら明けたで何だかんだお正月、 元日感が出ていました。 おお、2022年が来たな、のような。 あなたはどんな年の越し方をしましたでしょうか? 年を越す瞬間にジャンプして、 年越しの瞬間は地球にいなかったよという人。 大切な人と、 もしくは大切な人を想って年を越したよという人。 仕事が忙しく、 いつの

小説|初めて、始めました

 元旦。彼女は初めて通る海岸沿いの道を自転車で駆け抜けました。潮風に手が凍ります。朝が弱い彼女は、初日の出を一度も見たことがありません。何かを変えたくて彼女はハンドルを握ります。「手伝うぜ」と喋る自転車。  初めて彼女は自転車の声を聞きました。ペダルを漕ぐたび、自転車は語りかけてきます。「毎日毎日さ」「同じことの」「繰り返しで」「このまま」「死んで」「たまるか」「って思ったんだろう」「分かるぜ」「相棒」  彼女は思い出します。初めて自転車に乗れた日のことを。嬉しくて、行く

小説|終わりのとなり

 大晦日。コタツに入り、テレビを見て笑ったあと、彼は泣きました。笑い泣きではありません。世間の休みに乗じて職を失ったことへの不安を小さく感じている自分が情けなく思えたのです。コタツのミカンに落ちる涙。  心が疲れて会社を辞めて、結婚を考えていた彼女にも振られ、彼は何かが終わった気がしました。これまでは仕事ばかりで趣味もなく、休日は彼女と会うばかりだったので友だちもいません。再びミカンに涙がこぼれます。 「冷てえ」と声がして彼は涙を拭きます。部屋には彼ひとり。「拭けよ」と彼

小説|この星の回し手

 いつも混む路地に人影はなく、彼は年末の夜気を吸い込み、白いため息に変えます。人々が冬休みを楽しむさなか、彼は残業に身を減らして帰る道中でした。見慣れない煉瓦造りの古い建物の前を通ったのは深夜一時のこと。  地下へ続く石段を彼は下ります。店なのか民家なのかも分からないまま、得体の知れない引力が彼に錆びた鉄扉を開けさせました。洋風の外観からは思い及ばない十畳ばかりの座敷。中央の囲炉裏に向かう老人の曲がった背。 「まあ座れや」と嗄れた声に導かれて彼は老人の隣へ正座します。天井

小説|駄菓子屋とそろばんの嘘

 町に残る駄菓子屋の店主は、二十年も前に夫が他界してから一日と休まず営業を続けてきました。指がうまく動かなくなってからは店主に代わり客がそろばんで勘定を弾くようになります。店主は町のおばあちゃんでした。  忙しない年末、駄菓子屋の売上が盗られます。この町の人ではない客が、そろばんを弾いて勘定を払うふりをして、金を盗んだものと思われました。店主は笑って許します。「食うにも困るほど金がなかったのかもしれん」  町の人々は知っていました。店主は年の瀬に駄菓子屋のわずかなもうけで

小説|バー・ハリネズミ

 年の瀬。ひとりで泣くのも嫌で、彼女はバーへ向かいます。歩きなれない繁華街の暗く細い路地を抜けた先で、間接照明に浮かび上がる看板を見つけました。筆記体で書かれた文字を訳すなら「バー・ハリネズミ」。  真鍮の丸ノブを彼女は回しました。薄暗い店内に照らされたバックバーで煌めくリキュールのボトルを背に、バーテンダーはハリネズミとは思えない器用な手つきでグラスを磨いていました。彼女はスコッチを頼みます。  話を聞いてもらっているうちに、彼女の口から「さびしい」という言葉が涙と一緒

小説|飛び立つ絵本

 娘が生まれた朝。新しい太陽へ向けて飛び立つハトの群れを病室の窓から彼は見ます。娘の明日を照らすような景色でした。妻も同じ空を見たのか、微笑んでいたのを彼は忘れられません。妻を失って何年が経とうとも。  娘は母親の顔をあまり覚えていません。思い出せるのは、声だけでした。絵本を読んでくれる温かい言葉の響きを胸に、娘は父とふたりきりの生活を歩みます。そうして今日、娘は都内の大学へ進学するために家を出ます。  早朝。娘は最後の荷物を鞄に詰め込みました。家から駅へ続く歩道を娘が見

小説|ゼンマイ降る夜

 ゼンマイを巻くと歩くロボットのおもちゃを彼は大切にしていました。けれど、ある日の夜のこと。幼かった彼はゼンマイを巻きすぎて親友を壊してしまいます。いっぱいゼンマイを巻けば、たくさん一緒に歩けると思っただけなのに。  ことあるごとに彼は自分のゼンマイも巻きすぎました。鉄棒の練習をしすぎて、手がまめだらけになりました。寝る間も惜しんで机に向かい、試験当日に熱を出しました。社会に出てからは休みなく働いて、ついに彼は心を壊してしまいます。  ある夜。警報機の赤い音を聞きながら彼

小説|雪男は麓の町へ

 雪山から麓の町へ雪男が下りてきました。時計台広場にある長椅子に座りつづけて、はや一か月。雪男はパンも食べず水も飲まず、ただただ町に雪を降らせます。町の人々はみな雪男を怖がりました。ひとりの少女を除いて。  以前、少女は雪男と会ったことがあります。戦争にとられた父に代わり、病に伏す母に舐めさせようと山で蜂蜜を採った帰り道でした。猟銃で撃たれたか、木陰で動けずにいる雪男のそばに、少女は蜂蜜を置いて去りました。  ほどなくして少女は母を病で失います。墓前に供える蜂蜜を山中に求