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小説|初めて、始めました
元旦。彼女は初めて通る海岸沿いの道を自転車で駆け抜けました。潮風に手が凍ります。朝が弱い彼女は、初日の出を一度も見たことがありません。何かを変えたくて彼女はハンドルを握ります。「手伝うぜ」と喋る自転車。
初めて彼女は自転車の声を聞きました。ペダルを漕ぐたび、自転車は語りかけてきます。「毎日毎日さ」「同じことの」「繰り返しで」「このまま」「死んで」「たまるか」「って思ったんだろう」「分かるぜ」「相棒」
彼女は思い出します。初めて自転車に乗れた日のことを。嬉しくて、行くあてもなく街中を走ったあの日。ただ風を切って走る時間が幸せに思えて、ほかに何も要らなかったのに、いつのまにか慣れてしまった自転車の運転。
「でもな」「新しいことも」「いつか」「色褪せるから」「俺は」「毎日」「繰り返される」「同じことを」「初めて」「やるつもりで」「進みたい」と自転車。彼女の瞳に映るのは、初めて見る、何度も見てきたはずの太陽。
ショートショート No.322
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