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小説|バー・ハリネズミ
年の瀬。ひとりで泣くのも嫌で、彼女はバーへ向かいます。歩きなれない繁華街の暗く細い路地を抜けた先で、間接照明に浮かび上がる看板を見つけました。筆記体で書かれた文字を訳すなら「バー・ハリネズミ」。
真鍮の丸ノブを彼女は回しました。薄暗い店内に照らされたバックバーで煌めくリキュールのボトルを背に、バーテンダーはハリネズミとは思えない器用な手つきでグラスを磨いていました。彼女はスコッチを頼みます。
話を聞いてもらっているうちに、彼女の口から「さびしい」という言葉が涙と一緒にこぼれました。穏やかなジャズの曲が響く中で一呼吸をおいて、バーテンダーは彼女を抱きしめるような温かい声で語りかけます。
「私もさびしくてバーを開きました。ご覧の通りトゲがありますから、誰を抱きしめることもできません。私の生来の孤独に意味があるとするならば、それは今ここであなたのさびしさに誰より近く寄り添えるということ」
ショートショート No.318
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