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小説|終わりのとなり

 大晦日。コタツに入り、テレビを見て笑ったあと、彼は泣きました。笑い泣きではありません。世間の休みに乗じて職を失ったことへの不安を小さく感じている自分が情けなく思えたのです。コタツのミカンに落ちる涙。

 心が疲れて会社を辞めて、結婚を考えていた彼女にも振られ、彼は何かが終わった気がしました。これまでは仕事ばかりで趣味もなく、休日は彼女と会うばかりだったので友だちもいません。再びミカンに涙がこぼれます。

「冷てえ」と声がして彼は涙を拭きます。部屋には彼ひとり。「拭けよ」と彼に喋りかけてくるのはミカンでした。彼は慌てて袖でミカンについた涙を拭います。「違うだろ。自分の涙を拭けよ」とミカンは言いました。

 彼はミカンに話を聞いてもらいます。止まらない涙。「もう終わりだ」と彼。「ああ、終わりだ」とミカンは言い、こう続けます。「たしかに今日で今年は終わり。明日は来年の始まり。いいか。終わりのとなりは始まりだ」






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ショートショート No.321

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