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小説|駄菓子屋とそろばんの嘘

 町に残る駄菓子屋の店主は、二十年も前に夫が他界してから一日と休まず営業を続けてきました。指がうまく動かなくなってからは店主に代わり客がそろばんで勘定を弾くようになります。店主は町のおばあちゃんでした。

 忙しない年末、駄菓子屋の売上が盗られます。この町の人ではない客が、そろばんを弾いて勘定を払うふりをして、金を盗んだものと思われました。店主は笑って許します。「食うにも困るほど金がなかったのかもしれん」

 町の人々は知っていました。店主は年の瀬に駄菓子屋のわずかなもうけで黒豆を買うのです。夫の好物を仏壇に供えるために。「今年は我慢してな。来年はあたしもそっちにいるかもしれんが」と店主は仏壇に笑いかけます。

 店主をおばあちゃんと呼んで慕う町の人々は、いつにもまして駄菓子屋へ足繁く通います。できるだけ多くの駄菓子を買いました。そして客はみんなそろばんを弾きまちがえて、できるだけ多くのお釣りを残していきました。






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ショートショート No.319

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