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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#短編小説

鏡の私は電子チワワを拾う

 鏡の中の私が犬を拾ってきた。  デジタルデータでも捨て犬になることがあるらしい。  窓のように大きな鏡の中で鏡の私はチワワを抱っこしている。 「データが初期化されて帰る家がないみたいなの」  と鏡の私は言う。  現実の私は怪訝な顔をした。 「変なデータとかじゃないの?」 「ウイルスチェックは異常なしだった」  鏡の私は私と全く同じ怪訝な顔をしていた。  同じ服を着てメイクも表情も同じ。だって鏡だから。  だけど身体の動きだけは現実の私から切り離されて、鏡の中の私は彼

【かがみの私】

【かがみの私】カガガ丸|幸せみぃちゅけた 2022年6月22日22:43 エッセイですみません。 でもテーマ「かがみ」ということでどうしても書きたいがあふれてしまいました。 私の旧姓は「加賀」なんですが、下の名前が「み〇〇」なんです。それで大学生の時のあだ名が「かがみん」だったんです。ちょうどそんな名前のキャラクターが登場するアニメが流行った頃で友人がふざけて呼んでそれが広まった形です。 前置きが長くなっちゃいましたね。 みんなは「かがみん」って呼ぶんですけど、ちょ

短編小説 | 水鏡

 かつて、水にうつった自分の姿を見て、惚れてしまったナルシスという人物がいたという。 「おお、なんて美しいのだ。わたしはあなたのことを愛してしまいました」 そして、そのまま、水の中に入っていって死んでしまったという。 「それって神話だろ。そんな奴は実際にはいないだろう」 「いや、それがそうでもないらしいんだよ。とある統計によれば、少なくても今までに158人が、ナルシスと同じ死に方をしたらしいぜ。ぼくの知っている秘密の蓮池で」 「とある統計ってどこの統計だよ?だいたい、その蓮

映し鏡【ショートショート】#夏ピリカ応募作品

「…なんだ?」 乗っていたエレベーターが突然停止した。 「クソッ、ふざけんな!」 非常ボタンを押しても何も反応が無い。 その日、海老原正男は派遣アルバイトで、ビル警備の夜間勤務中だった。 警備と言っても23時には全ての階の従業員が退勤し、仕事と言えば清掃業者の受け入れくらいだ。後は寝てたって怒られやしない。 それなのに、今夜に限ってこの仕打ちだ。薄暗い個室に一人。生憎なことに携帯の電波も届かない。外と繋がりは今、ゼロだ。 「なんなんだ、くそったれ!」 腹が立って後ろ

嘘つき鏡【#夏ピリカグランプリ】

蝉しぐれが焼けた肌にジリジリと突き刺さるような夏の日。 お盆を控えた私達はお墓参りのついでに、家主を失った田舎の祖母の家まで来ていた。 半年前、祖母が亡くなった。 祖母の葬儀の後、祖母が一人暮らしていた家を誰が処分するのかということを、親族間で揉めに揉め、半年間放置されていたのだが、とうとううちが引き取ることになり、現在に至る。 家主がいなくなった家は老朽化が早まると聞いていたが、かなりの荒れ果てようで、滴る汗を拭いながら、祖母の遺品や形見分けだけをおこなう。 特殊清

【ショートショート】スマートミラー【#夏ピリカ応募】

低い鼻、一重の瞼、メリハリのない身体。容姿へのコンプレックスから、自己肯定感が低かった由香を変えたのはスマートミラーだった。2万円で買った最初のスマートミラーは、アルミ製台座に直径20cmの丸型AIモニターが付いた卓上型。音声認識による鏡像加工機能が搭載されている。 「瞼を二重に」 「鼻を0.5cm高く」 「少しだけ色白に」 鏡像加工を微調整しながら、正面を向いたり、少し横を向いたり、頬を膨らませたり、表情を作った。 (かわいいじゃん 私) 鏡像とのにらめっこで満

「子供の瞳の輝きの由来」#夏ピリカ応募作

 鏡原は太古より鏡が捨てられた土地の名である。捨てられた鏡同士は繋がり、交接し、増殖した。  鏡の製法は大別すると三種類ある。硝酸銀を用いた化学反応により作る現行方式。青銅を研磨して銅鏡とした古代のやり方。生物の瞳と聖水と魔術により作られる錬鏡術と呼ばれる製法は、術師がいなくなったために廃れてしまった。  錬鏡術の失敗作の廃棄場所、それが鏡原の起源である。生物要素が強すぎて人の手に負えなくなった鏡が、映した者を取り込んでしまったり、自ら動き回って子孫を残したりするようにな

太陽と月のエチュード|夏ピリカグランプリ応募作|

『ハルのピアノが大好きよ。私はいつだってあなたの一番のファンなんだから』   鏡の中でハルに顔を寄せ、お母さんは笑った。肩を抱いてくれた手のひらが、じんわりと温かかった。   念願の音楽大学に合格した日、お母さんは飲酒運転の車にはねられて死んだ。 鏡に映った自分の泣き顔を、ハルは力任せに叩き割った。 以来、ハルのピアノから感情が消えた。   音大生となったハルは、機械になったようにピアノを弾いた。無表情で次々と難曲を弾きこなす姿は、他の学生たちを遠ざけた。 試験が迫った日

ツケ払い、ニャー【短編創作】

「で、払ってくれる?あの女の借金1,000万円」 突然の取り立てに、父親は困惑していた。 昼過ぎの休憩時間。 さっきまで、スマホで好きなお笑いコンビのネタを観ながら笑っていたのに、今は怒りに体を震わせている。 「こんな小さな定食屋に、そんな額を払えるわけがないだろ!」 父親は抗うが、借金取りは首を横に振る。 「保証人の欄にサインと印鑑がある。これ、あなたのだよね?」 見せられた書類を奪い取った父親の顔は、みるみる青ざめていく。隣にいた母親は泣き崩れた。 「また」だ。

父の幽霊|酒の短編11

鏡の中、ひと月前に死んだ父が映っていた。 深酒をした真夜中。湧きあがる尿意に始末をつけ、手洗いの鏡を見たときのことだ。 自分の姿を見間違えたのではない。その後ろにいるのだから、幽霊の類だろう。酔いと血縁のせいか、不思議と怖さはない。 晩年は色々あり、ひとり別に暮らしていた父。私や実家の母たちも含め、年に一、二度会うぐらい。行き来は少なかった。 「部屋の片付けを、あと黒猫……」 心残りでもあったのか、そんなことを言い残し父は消えた。 気づくと朝。夢だと思うけれど、ど

運命が変わるなんてことがあるのか

婚約者に捨てられた、ボロ雑巾のように捨てられた。よりによって、あんな女に彼を奪われるなんて。あの女のどこがいいの私の何が劣るの? 私がああいう女に負けるなんて、最愛の人を奪われるなんて、嘘だ信じられない!私の心はズタズタだ。惨めだ、もう生きていたくない、死んでしまいたい。 胸の内に煮えたぎる悲しみと敗北感を抱いて帰宅した。靴も脱がずに玄関で泣き崩れた。 何時間が経っただろうか。私はやっと立ち上がった。泣き顔を何とかしたくて顔を洗う。顔を上げて鏡を見ると、そこに私の顔は無かっ

マイナンバーミラー【掌編小説】

僕らに与えられた鏡の破片。 それは、長い時間をかけて川底で円磨された小石のように、歴史とアイデンティティを感じさせる。 円形や角がとれた多角形など同じものは一つとしてなく、ジグソーパズルのピースのように、それぞれ役割と繋がりをもつ。 鏡の破片(通称マイミラー)は、出生の届出と引き換えに交付されるのだが、実際には、ICチップ内蔵のマイナンバーミラーカードに情報が書き込まれ、現物は日本銀行の貸金庫に収納する。引き出しは自由だが、紛失や破損をしても再発行はできない。 マイナ

猫のミラー 【夏ピリカ】

愛嬌はないけど、好きだよ あんたのこと。 * 「やだよ。猫、苦手だし。預かるなんて無理」 「しょうがないでしょ頼まれたんだから。それに一日だけだし何とかなるでしょ」 昔から母の自分勝手な所が嫌いだ。 私の気持ちなんていつもお構いなし。 「今日の昼には連れてくるって。あんたよろしくね。どうせ家にいるんでしょ?お母さん今日ちょっと用あるから」 「あとあんた、髪ぼさぼさ。鏡見てみなさい」 その言葉だけは無視した。 自分で引き受けておいて母は本当に出かけて行った。 直後

私の声を聞いて

 ーー聞こえますか? 私の声が聞こえますか?  あぁ、今日も、何も映らない。笑っていても、泣いていても、鏡には人形のような無表情だけが映る。私は本当に笑っているのかしら? 泣いているのかしら? それさえもう、わからなくなった。  いつからだろう。本当に悔しいときに「何も感じないの?」って言われてから、かな。私には、私の表情は見えなくなった。きっと、周りから見てもそうなのだろう。  それでも、何も違和感なく友だちと接している様子が、かえって頭を混乱させている。笑えているの