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mizuki | 目端に映る短編小説
2022年11月17日 18:46
車の中はやけに蒸し暑かった。残暑の季節に、珍しく雨が降っていたからだろう。あるいは深夜をとっくに過ぎてしまっていたからかもしれない。田舎はこういう時に車が無かったら本当に不便なんだろうなと思う。緊急時には、もう移動手段が車以外にないのだから。大体、普段の生活でもそうだ。 車のフロントガラスは、幾度となく大粒の雨に打ちのめされていた。弾くワイパーを嘲笑するように、天井から大量の水がなだれ込み、
2022年9月30日 02:49
割烹着の店主からお釣りをもらって先生は暖簾をくぐった。私もその後ろに続くと、雲の切間から碧い空が広がっていた。夏空は、もっと風をよこせと急かしているようだ。太陽の下の雲は忙しなく動き、アスファルトは沸騰寸前の薬缶のようで、絶えず陽炎を揺らしていた。 「珈琲が好きなら、一つ、この近くにとても美味しいcafeがあるんですよ。」と先生は言った。「よろしかったら、どうですか?」 「私でよろしければ