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自ら学び変化する人材を企業人事はどう育てるのか|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Part3]

 日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
 わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
 安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。

日本の多くの大人は既に学びを放棄している──。組織開発のプロが語る、従業員、中間管理職、そして人事の転換点とは。
話し手・中原 淳
聞き手/構成・編集部(川崎隆司)

話し手・中原 淳(Jun Nakahara)
立教大学経営学部 教授
専門は人材開発論・組織開発論。東京大学教育学部卒業後、2003年大阪大学で博士号(人間科学)取得。東京大学准教授などを経て、18年より現職。立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。

編集部(以下、──)今後の国際市場の中で、日本企業が業績を上げ、成長していくためには、どのような「人材」を育てていくべきか。

中原 端的に言えば〝自ら学び、自ら変化し続けられる人材〟だ。

 「グローバル人材」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材」など、日本では時流に乗じた流行り言葉によって企業の求める人材像が移り変わってきたが、そういった短期的な視野で人材育成を考えることはもうやめよう、と言いたい。

 「自社の事業を伸ばすために何が必要か」は企業によって千差万別だ。デジタルやAIの知識が本当に必要ならば学べばいいが、なんとなく流行に流されて取り入れようとしても他社との差別化は図られず、事業の成長に直結する人材は育たない。また、肝心の従業員本人がその必要性を感じていなければスキルも身につかない。

 テクノロジーの進展が加速し、顧客や市場のニーズも移ろいやすい現代において、従業員自らがそういった変化を感じ学びながら、必要なスキル・知識をアップデートし続けることこそが、企業の強みとなる時代だ。

──そのような人材を育てるにあたって、企業が直面する課題は何か。

中原 言葉で言うほど簡単ではない。なぜなら、日本の多くの大人が既に学びを放棄しているからだ。2019年にパーソル総合研究所によって実施された「APAC就業実態・成長意識調査」によれば、勤務先以外での学習・自己啓発について「とくに何も行っていない(学んでいない)」と答えた就業者が46.3%と、アジア諸国の中で飛び抜けて高かった(下図参照)。日本における社会人の読書時間の平均が1日、わずか「6分」という調査結果もある。従業員が学びを放棄した先には、個人のキャリアの充実も、企業全体の躍進もない。

日本人の2人に1人は職場外
での学びを放棄している

(出所)パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」を基にウェッジ作成
(注)アジア太平洋地域(APAC)14の国・地域の主要都市における調査モニターを対象としたインターネット定量調査

──なぜこうした状況になったのか。

中原 日本人は自らの……

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