思考力と言語化力。日本人選手が世界で活躍するために必要なもの【中村憲剛×守田英正|特別対談・後編】
2022年4月より、「WHITE BOARD SPORTS」でスタートする中村憲剛プロジェクト。オンライン講習会「KENGOメソッド」&オンラインサロン「憲剛塾」のサービスを基軸に、中村が培ってきたサッカー観を参加者に共有していくと共に、技術・戦術論から指導論まで中村自身もアップデートしていく場となる。
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そのオープニングコンテンツとして実現した、「中村憲剛×守田英正」対談。
「よく考え」、「よく言葉にする」ことを大切にしている二人である。
中村は現役時代から誰よりもサッカーを深く思考し、それをインタビューなどでアウトプットする作業を繰り返してきた。その出力はメディアやファンに向けてだけではなく、より密度の高い内容でチームメイトたちにも届けていたという。技術から戦術まで、自分の知見と経験を周囲に落とし込んでいくことを、使命感と共に実行していた。
そして、それを耳にし、血肉にしてきた選手の一人が、守田である。彼もまた、元々サッカーを感覚的にプレーするよりも、頭を巡らせては表現するタイプの選手だった。そんな素地のあったMFが、中村とのコミュニケーションを経て、さらに「考える選手」へと成長していった。今、日本代表のメディア対応でも、彼ほどチームの現状やサッカースタイルを明確に言葉にしようとする選手はいない。
一般的に、アングロサクソン系や黒人系よりも、日本人はパワーや強度といったフィジカル要素が劣ると見られている。一方、守田はヨーロッパに渡り、「真面目さこそが日本人の特長」と断言する。この「真面目さ」というフレーズを彼らのセッションからさらに読み解いていくと、浮かび上がってきたのは「思考力」と「言語化力」。サッカーでもロジカルシンキング全盛の時代に、日本人こそが武器にすべきものと、両者は主張する。
共鳴し合う二人の対談。最終回は、日本人選手が活躍するために不可欠なこの2つの要素「思考力」と「言語化力」について、意見を交わす。
前編:考えてなかった守田、考え始めた守田
中編:ポジショナルプレーの本質は「怖くても"止まる"」こと
インタビュー=林遼平
写真=守田英正提供、ホワイトボードスポーツ編集部
考えてプレーすることが、海外でも武器になる?
守田 憲剛さんに一つ質問なんですけど、憲剛さんが日本代表でプレーしていたときもそうそうたるメンバーだったと思います。時代が違うので単純には比べられないとは思いますけど、その当時のチームの強さ、総合力と比べて今の代表チームを比較するとどうなのかな、違いはあるのかなというのが気になります。
中村 先に言っておくけど、これはちょっと話が長くなるかもしれない(笑)。トータル的な能力、総合力という点では今のほうがあると思う。能力はみんな高いし、今の時代に即した選手が集まっていて、代表というチームが個性だけでは生き残れない場所になっている印象がある。インテンシティー(強度)もあって、インテリジェンスもテクニックも持ち合わせていないといけない。僕らの時代はヤットさん(遠藤保仁)や俊さん(中村俊輔)、(小野)伸二さんに僕のような、俗に言う「司令塔タイプ」が多かった。そこは時代や環境の影響があると思う。
もちろん守備は求められてはいたけど、当時は世界的にも今ほどの強度を求められていなかったし、求められていてもおそらく今の選手たちほどは出せるようなタイプでもなかったことは自覚しています。そういう意味では、今は世界的なトレンドに即したメンバーが多いから、強度の高さは感じる。ただ、アイデアや想像力、パス1本で違いを生み出すという観点から言うと、僕らの時代のほうがそういう選手は多かったと思う。それもさっき話したように、時代なのかなと。
特に育成年代に対しての意識の高まり、それに伴う環境や内容の進化、その成熟を感じる。僕らの育成のときと、今の育成はかなり変わってきている。それは当然といえば当然で、僕らが高校生くらいまではパソコンはあったけどインターネットの普及もまだまだだったし、携帯電話も今のようにスマートフォンやタブレットではなく、あくまで「電話をかけるためのもの」だった。指先一つで世界の情報を秒でキャッチできるような環境ではなかったから(笑)。
だから、当時は情報が溢れている現代と違って、選手も指導者もまだ知識や確立したビジョンをそこまで持ち合わせていなかった。用意されているものを習うより、まず自分たちで積極的に考えてなにかを生み出す選手が多かったと思う。そういう環境下だったからこそ、それぞれの想像力や創造性が養われて、いわゆる「ファンタジスタ」と言われる選手たちが自然発生していたと思っている。
守田 なるほど。時代の変化と、選手のプレースタイルの変化がリンクしているということですね。
中村 まさにそう。僕らの世代に比べると今の代表の選手は、育成年代からかなり「指導」されてサッカーを「学んで」きているから、ずば抜けた個性を持ち合わせていたり一芸に秀でていたりというより、みんな攻撃と守備どちらもきちんとできるイメージがすごく強い。これは、どちらが良い、悪いの話ではなくて、時代で求められているものと環境の整備によるものだと思っている。
今は中盤の選手でも、モドリッチやデ・ブライネのように創造性のある決定的なパスも出せて、相手を見て緻密なゲームコントロールもできる選手が、たくさん走れてタフに戦うようになってきている。つまり、「なにか一つ武器があってそれでいい」ではなくて、「なんでもできるうえに個性がないといけない」時代。日本代表もその流れに即して、攻守ハイブリッド型の選手が3人(守田、田中碧、遠藤航)揃っていると思っていて、トレンドに合ってきている。そういう意味では、僕らの時代とは求められる、比べる項目が違うのかなと思う。
守田 「今のトレンドの選手」という言葉は、自分も海外に来て、そういう選手が活躍するのがよくわかるようになりました。
中村 やっぱり日本とは全然違うと言っていたよね。
守田 声を大にして語れないのは、ヨーロッパには僕がいるクラブ、リーグよりもっと上のレベルがあり、今はまだポルトガルしか見られていないから自分のなかに基準がないためです。違うリーグに行ったときに、その差がよりわかると思っていて、今は日本と海外の違いが見えているように思えてもこれがノーマルかどうかはわからないですね。ポルトガルリーグのレベルは、誤解を恐れずに言えば、頭を使うプレーよりもフィジカルを前面に押し出すプレー傾向が強いです。そこは、選手個々がもっと上のレベルのリーグに行くためのアピール大会みたいな場にもなっているので、仕方ないですが。
中村 でも、そのなかで今や守田はチームの中心じゃない?
守田 そういう国だからこそ、自分みたいに考えながらプレーする選手が生きるとは思っています。
中村 なるほど。逆にね。
守田 ここでは自分が珍しいタイプなので、そこが認められています。逆転の発想ですよね。こっちでは「考えてプレーすること」がむしろ武器になるということかもしれません。そこは今後も質を上げていくことが大事だと思っています。
欧州では、緻密で真面目な日本人選手は「異質な存在」
中村 僕からも少し聞きたいんだけど、海外では日本人のなにが武器になる?
守田 その質問への答えだと、「真面目さ」ですかね。海外の選手は、サッカー的な意味で本当に真面目ではないんですよ(笑)。日本人の真面目さが当たり前だと思っていたら、感覚が全然違います。日本にいたときなら当たり前のことで武器ではなかったことが、海外に行くといきなり特長になったりします。例えば、日本に来るブラジルの選手は得点に結びつくプレーを連続してできるのですごいですけど、プレーのなかでは「そこは無理矢理シュートを打たないでやり直そうよ」と思うときもありますよね。その逆バージョンです(笑)。
中村 そこにいるだけで、すでに異質ということか。
守田 ヨーロッパでは、日本人選手はただでさえ異質なところがあると思います。あと自分が海外で生き延びるのに大事だと感じたのは、「外国では外国人であること」です。僕は日本にいるときや普段は全くやるタイプではないですけど、こっちではダンスをしたり、歌を歌ったりしないといけない場面があります。そうしてでもコミュニケーションを取らないといけなくて、そこで人間性が磨かれていきます。また、それがメディアに取り上げてもらえるきっかけにもなります。日本にいるときは考えていなかったですけど、ポルトガルはなにもしないと想像以上に周りから見てもらえないです。だから、意識が変わったというか、行動力がついたと思います。
中村 これを読む子どもや学生、若い選手のなかには、海外で活躍したいと考えている人もいると思う。今回、僕が作った講習会の動画には「止める」「蹴る」「見る」「立つ」という4つのテーマがあるけど、将来海外に挑戦するうえで、これらを身につけていったほうがいいのかな? もしくは、そういったことをそれほど知らなくても、例えば足が速いなど一芸に秀でているだけでも活躍できる世界なんだろうか?
守田 むしろそっち(足が速いだけ)のほうがわかりやすいということで、初めは受け入れられるかもしれないですね。
中村 「初めは」か。ということは、やっぱり日本ほど緻密さが必要なかったり、磨かれることもないということ?
守田 緻密さが磨かれることも、日本ほどはないと思います。だから、日本で憲剛さんのメソッドやいろいろなものを理解したうえで、海外に行ったほうが初めから爆発的な活躍ができると思います。ただ、年齢のことを考えたとき、1つ歳をとるだけで、こっちでは選手の価値が本当にすごく下がってしまいます。自分ももう27歳で日本だと中堅ですけど、こっちではベテランです。そこは難しいですね。
中村 今は若くして渡欧する選手が多い。個人的な疑問なんだけど、守田がフロンターレで3年間吸収したものを、例えばすでに高校卒業の時点でもっていたら海外でやれるもの?
守田 今のこの頭の理解や知識があって、自分が高卒であれば、絶対にすぐに海外に行きたいですね。
中村 ベーシックな考え方は、欧州では育成年代から落とし込まれると聞いている。もちろんそれは地域、国によると思うけど、例えば戦術的な話でも「あれ?これ、理解していないのかな?」という選手もいるの?
守田 正直、います。
中村 なるほどね。それでもプレーできるという現実があるということなんだ。それもまた当然と言えば当然か。監督が求めるか求めないかというサッカー観によるところがあったりするのかな?
守田 そうですね。いまポルトガルのジル・ヴィセンテというクラブに藤本寛也(東京ヴェルディから期限付き移籍中)がいるんですけど、彼がいるチームはポルトガルの中では結構いいサッカーをするほうで、割とうまい選手が揃っていて、やりたいこともはっきりしています。そういうチームは途中から出てくる選手も求められていることを理解しているので、バランスを崩さず安定して結果を出せています。ただ、他のチームもそうですけど、僕のチームもやりたいことが決まっていないし、そこも難しいポイントだと思います。
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「憲剛さんは“土台”を先に話してくれる。それを見習いたい」(守田)
──ここまでお二人の話を聞いていて言語化力の高さが顕著ですが、改めて言語化することの大事さをどのように感じているでしょうか?
守田 “なにかを口にする”ということはそれについて知っていないといけないですし、発言に伴って責任感が生まれると思っています。また、言うことで自分も整理ができる。僕もまだまだうまく伝えられないですけど、思っていること、描いていることを発することは本当に大事だと思います。細かいことを相手にどう言ったら伝わるかなど、そういう工夫や気遣いはいろいろなことにつながっていきます。これは忖度抜きに言いますけど、言語化に関しては本当に憲剛さん以上の人は現れないと思います。
中村 最後にすごい褒め言葉を(笑)。
守田 言葉のボキャブラリーがどうこうというよりも、憲剛さんは明確なイメージを描かせてくれるんです。そこまでの絵を描かせて伝える能力。相手の配置も見えてくるし、自分でもわかるようになる。そこの伝える力は、憲剛さんに比べると僕はまだ足りないと思います。
中村 僕がその境地に達したのは35歳を過ぎてからだから。それを守田が今できているのはすごくうらやましい。最初にフロンターレに来たときはなにをしゃべっていいかわからなかったかもしれないけど、わかってくるとどんどんしゃべるようになったし、「共通言語」が浸透してその人数が増えていったことで一気に自分たちのスタイルが好転するようになっていった。守田のサッカー理解が深まっていく成長の幅、割合はすごく高かった。吸収力は若い選手が成長するために必須だし、あとは傾聴力と実践力。ただ聞くだけではなく、聞いたことを自分にどう落とし込んでいくか。守田は当時からその能力がとても高かったし、それは今日話していてもすごく感じた。出会った頃からすると、感慨深いね。
守田 何回も憲剛さんを褒める形になるんですけど(笑)、今回のオンライン講習会の映像を見てすごいなと思ったのが、全部、順序がいいんですよ。これを憲剛さんにすごく言いたかったです。フロンターレで一緒にプレーしているときから憲剛さんは“土台”を先にしゃべってくれるからわかりやすいんです。それによって話は少し長いですけど(笑)、よりわかりやすく入ってくる。自分は先に言いたいことを言っちゃうので、そこは見習わなければいけないなと思います。
中村 話が長いのはすまん(苦笑)。でもそれはみんなに良くなってほしかったし、伝える時間自体はたくさんあったからね。それでみんなが成長してチームにタイトルをもたらしてくれた。その後は、さらに成長して、海外で活躍してくれている。それはそれぞれの努力の結果、賜物だと思うし、そこに少しでも役立ったなら幸いです。今回の講習会動画に関しても、人によって悩みや課題は違うから、うまく使ってほしいなと思っています。これがすべてではないけど、押さえておくとサッカーを進めるうえでいいんじゃないかなと、守田の話を聞いていても改めて思いました。守田たちに長年伝えてきたことをこの動画に凝縮したので、一人でも多くの人たちに役立てばうれしいですね。
守田、今回は楽しい対談本当にありがとう。代表戦、応援しています!
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