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中村憲剛が明かすポジショナルプレーの本質は「怖くても"止まる"」こと。【中村憲剛×守田英正|特別対談・中編】

 2022年4月より、「WHITE BOARD SPORTS」でスタートする中村憲剛プロジェクト。オンライン講習会「KENGOメソッド」&オンラインサロン「憲剛塾」のサービスを基軸に、中村が培ってきたサッカー観を参加者に共有していくと共に、技術・戦術論から指導論まで中村自身もアップデートしていく場となる。

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 そのオープニングコンテンツとして実現した、「中村憲剛×守田英正」対談。

 いまや日本代表に欠かせないキーマンにまで成長した守田。彼が日本代表の中盤に定着して以降、チームのパフォーマンスは非常に安定している。敵のシステムやプレッシングの型にかかわらず、柔軟かつ機動的なポジショニングを選択しては、相手の間隙を縫ってボールを引き出しさばいていく彼のプレーが、安定感の基盤となっている。

 中村は、川崎フロンターレの後輩である守田や田中碧が加わった後の日本代表のサッカーについて、「相手を壊すために動いている」と表現した。

 かつて、「自分たちのサッカー」という言葉が独り歩きし、相手の出方にあまり気を配ることなく自らのやり方だけを試合にぶつけては、敗北を喫した代表チームもあった。時代は移ろい、「敵の動きを見て把握した上で、自分たちの立ち位置を取る」(守田)サッカーが、現代フットボールの主流となっている。いわゆる、「ポジショナルプレー」と呼ばれる概念は、2008年に誕生した“ペップバルサ”が体現し始めてから約10年を経て、ようやく日本にも根付き始めている。

 中村も守田も、「相手を見てサッカーをする」ことはもはや不可欠という観点で、意を同じくする。日本代表の地殻変動は、まさに守田ら「ポジショナルプレー」の使い手によって起こされている。

 では実際に、守田は中村から具体的に「立ち位置」の重要性をどう吸収し、現在に生かしているのか。二人がそのやり取りをあらためて振り返る。

前編:考えてなかった守田、考え始めた守田

※後編は23日公開予定!

インタビュー=林遼平
写真=守田英正提供、ホワイトボードスポーツ編集部

「止まる」重要性が「立ち位置」の理解につながる

──お二人に共通したポジションとしてボランチが挙げられますが、憲剛さんはボランチでプレーする守田選手によくどんな話をしていたのでしょうか?

中村 まず、守田だけでなくボランチの選手たちみんなに共通して伝えていたことは、「止まる」ことの重要性ですね。「動きすぎるな」というのは守田にも最初の頃によく言っていました。

守田 言われていましたね。

中村 誤解がないようにしたいですが、動きながらプレーすることも90分のなかでは当然あるので、「止まる」ことがすべてではないということは、先に伝えさせてください。そのうえで話しますが、みんなに共通していたのは、ボールを受けるために動き過ぎるところでした。その概念を取り払うところからスタートした感じです。どちらかというと動きながらどうにかしたいタイプの選手が多く、動きながらプレーすることは速度が生じるため、動く速度が速ければ速いほどミスも起きやすく、結果的にいろんな選手が試合でミスをしてしまっていました。

 例えば、トップ下に僕がいて、ボランチの守田が近くにいるときに、そこで止まってくれていると相手の注意が守田に向かうので、こっちがボールを受けやすい場面が何回もありました。だから「そこで止まってろ」と。最初は何を言っているかわからないと思うんですよね。360度周りに敵がいながら、「止まれ」と言われたら怖いですから。

守田 まさに、理解できていないときは怖かったですね。怖いと何もできなくなるんです。ただ、止まっているほうが相手は嫌で、ボールを持っていなくてもそこに立っているだけで相手にとって脅威なんだと理解してからは、サッカーがおもしろくなってきました。その思考が、現代フットボールでいう「立ち位置」につながると思います。ボランチは特に、ボールを持っていないときに、相手がどんな守備をしてきて、その矢印(圧力をかけてくる方向)をどう剥がすかを考えます。相手がクローズに中央を締めて守りたいと考えているときに、あえてそっちに行きながらかいくぐるなど、相手の思考を読みながらそれを逆手にとる感覚は、そこで養われた感じがします。

中村 みんな自分が受けるために動くようなところがあって、もちろんそれが正解の場合もあるんだけど、真ん中に立ってくれるだけで周りが楽にボールを受けられるときもある。例えば、守田がそこで止まって立っていることで相手の意識が守田にいくので、その分、周りがフリーになるよと。そんなことを一緒にやりながら伝えていました。もちろん、守田はそこからボールを前に運べるし、テクニックもあるからいいんですよね。

守田 もともとボールを触るのが好きだったんですけど、大学では守備ができないと試合に出られませんでした。それにボールを持つプレーが好きなのに、なかなかゴールやアシストといった数字に関わるところができませんでした。そこで、日本ではまず守備を極めていったほうが上に行くためには伸びしろがあると思ったんです。加えて、ボールをもっと扱えないといけないことを、プロに入ってフロンターレが教えてくれました。それで僕の選手としての特徴が決まっていきました。

中村 でも、ここまで総合型の選手になれるとは思っていなかった。今の日本代表でインサイドハーフでプレーしていることもそうだけど。

守田 いや、あれはできていないですよ(笑)。どっちかと言うと今でも僕はアンカーが向いていると思っていますけど、誰を基盤としてチームを作るかを考えたときに、今は自分よりも(遠藤)航くんが適任だと思います。そのなかで僕は、インサイドハーフで自分を表現しようとやっているところです。

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「全員“目を揃えた”サッカーを、日本代表で実現したい」(守田)

──あらためて川崎フロンターレ出身の守田選手と田中碧選手によって日本代表が大きく変わっていきましたが、憲剛さんはどのように見ているのでしょうか?

中村 僕もフロンターレ出身で難しい立場なので大きな声では言えないですけど、オーストラリア戦で二人がインサイドハーフに入ってから、日本はそれまでと違うエッセンスが入ったスタイルになったと思っています。要するに、より相手を見てサッカーをするようになりました。それまでは相手を見ることより、自分たちがやりたいことに主眼が置かれているイメージがありました。相手を見てはいるけど、割合的にそこまで高くはないというか。

 ただ、守田と碧の2人が入ってその割合が変わった気がします。何より意図的に「相手を壊すために動く」ことを意識するようになったなと。もちろんまだ周りと合わないもどかしさはあると思うし、[4-2-3-1]から[4-3-3]の作りの違いもあるけど、相手を見てどうやるかという部分はかなり変わったと思います。そういう意味で今の日本を下支えしているのは守田、碧と遠藤航の中盤3人なのかなという見立てです。

守田 「相手を見る」ことに対しては自信があります。碧と僕にはそれができるという自負もあります。それがうまくオーストラリア戦からできているなと思いますけど、あとはどこを基準にするかだとも思っています。突き詰めることはまだまだ本当にたくさんあって、ただ、だからと言って自分が思っていることを実現できたら試合に必ず勝てるわけでもありません。メンバーのカラーもあるし、それを生かすことがチームとしては大前提です。そのうえで自分たちの特長を出せるように、いいとこ取りを目指しています。それが今はできていますけど、W杯本大会に向けてどうすべきかはまだ探り探りで、答えが出ていないという感じです。

中村 端的にいうと、選手間の「目が揃っていない」からかな。

守田 はい(苦笑)。それが一番わかりやすい答えだと思います。

中村 そういう意味では、時間が足りないという言い方が正しいですかね。目を揃えたいけど、代表チームはそれをトレーニングで共有できる時間が今のレギュレーションだとほとんど作れません。なので、なかなか上積みが出てこないところがある。1週間みっちりトレーニングをしたら違いが出てくるのではないかなと思います。「フリーの定義」の話ではないですけど、今試合を観ていても、選手間で「そこでボールが出てくるのか」とか、「そこで受けるのか」など感覚の違いを感じるときがあります。

 例えばセンターバックに(板倉)滉と(谷口)彰悟が入ったときのボールの付け方やタイミングはちょっと違っていて、それは(吉田)麻也と冨安(健洋)もできないわけではないけど、守田や碧は彼らとは一緒にやってきた時間の長さもあるので、「フリーの定義」の感覚は共有されているし、その分うまく回せたところはあると思います。“目が揃う”と“ボールが回る”という事象が起きるのは、偶然ではありません。選手間で普段のベースがあるということは、よりボールを動かせることにつながる。だから、意外と言っていいか分かりませんが、W杯前に1カ月ほどキャンプをして目を合わせる作業を積み重ねていけば、今の選手たちのレベルを考えてもいい感じになると思っています。

──「相手を見て、立ち位置を見てサッカーをする」という話を守田選手もよくされていますが、日本代表で全員の目が揃っている状況でプレーをすることは可能なのでしょうか?

守田 今、日本のサッカーファンの多くが、「フロンターレがそのまま世界とやったら勝てるのか」という話をしていますよね。「フロンターレのほうが代表より強いのでは」なんていう声も聞こえてきたりもします。もちろん代表とクラブチームは別物で、そこは永遠に比較することはできない両チームではあるんですけど、きっとみなさんが気になっていることは、「全員が同じ方向を向いているなかで、強豪と対戦してどれだけできるか」ということなんだと思います。それは僕自身も楽しみな部分です。今の代表で、選手みんなの目線が揃った状態でどれだけできるかが楽しみなんです。それを目指していきたい。いわゆる「目を揃える」ことは、どの選手、どのポジションでもできたほうがいいですから。

 ただ、一方でそこを選手個々が学ぶのはけっこう難しいことでもあります。育成年代を含め、いろいろなクラブやカテゴリーで別々のサッカーや考え方を学んできてから代表に集まって戦うことを考えると、多くのサッカー観が入り交じるなかで「目を揃える」には時間がかかります。ただ、僕はそういうことを例えば憲剛さんが今回の講習会動画の活動などを通じて伝えていくことで、日本人のサッカー観全体の底上げにつながり、海外との差別化にもつながるのではないかと思います

──日本人が今後そういった概念に触れていくかどうかによって、今後への伸びシロや期待も変わってきますね。

守田 今、海外のビッグクラブにいる選手たちはなぜ当たり前に「ポジショナルプレー」ができるのか。それこそ、そういうものに若いうちから触れてきたかどうか。日本でも、強いチームにはそのプレー感覚をわかっている選手が多いと思います。

中村 「ポジショナルプレー」の概念は昨今のトレンドだと思います。マンチェスター・シティもそうですが、各国リーグで優勝争いをする世界トップレベルのチームはボールを持って支配できる。ただ、そういうチームがある一方で、意外とそれをやらないチームもヨーロッパでは多いことも事実としてあると思います。つまり、それほど欧州全土で実践されているわけではない。なので、海外のチームでやっている日本人選手もすべてが理解できているとは限らないと思っています。

 つい最近まで日本にいた守田と碧が代表でそういうプレーができているのは、国内にいながらもポジショナルな概念に触れてきたからで、ヨーロッパでプレーする選手でもポジショナルプレーに呼応できないのは単純にそれを志向するクラブにいないから、つまりそれに触れてきていないからかなと。ここの部分ではある意味“逆転現象”が起きているなと思います。だから、守田には先導役として頑張ってほしいです。

守田 もちろん、そういう気持ちはあります。以前、「フロンターレの選手が代表であまり活躍できない」、とか「うまく適応できない」と聞いていたときは悔しかったので。正直、海外でプレーして、代表で活躍して、自分たちはできるんだという姿を見せたい思いがあるので頑張っていきたいです。




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