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【ウマ娘】元ボカロ歌詞屋が『GIRLS' LEGEND U』の歌詞の凄さをひたすら語る、という話。

実はnoteの連日投稿を始めるにあたり、私が整理してしまったタスクの中に「ウマ娘」がある。
元々ソシャゲ初心者で、無課金~微課金を行ったり来たりしつつ、チャンミのたびに大慌てしていたようなトレーナーだったのだが、ここ半年ほどは人権の移り変わりについて行けずに惰性で回していただけだったので、書く時間確保のために現在休止中である。とはいえ、別に嫌いになった訳では全くない。

そして本筋に入る前に書いておくが、私は一時期ボーカロイド曲の歌詞屋を名乗って活動していた。といっても1円も儲けたことはなく、ボカロブームの時期にピアプロ(投稿サイト)で歌詞提供をしていただけである。さっき数えたら公開中の歌詞が落書きを入れて170曲分、応募&採用されてニコ動UPされたのが43曲あったので、コンペの打率としては実質3割弱だろうか。まぁ私の自慢などどうでも良くて、「フーン、歌詞書きね」と思ってもらえれば十分だ。

で。今回何が書きたいかって、ウマ娘の曲ってどれもこれも、めちゃくちゃ歌詞が凄いよね、という話だ。
リアル人間のアイドル界隈の情勢に詳しくないのでアレなのだが、ちょっと待って邦楽の歌詞でここまでやるん!?私の知ってる平成前半のオリコンチャートの歌詞から考えたら、神of神がバーゲンセールされてるんですけどどういうこと!?これが時代なの!?ねぇ人類どこまで進化するの!?
と誰彼構わず食って掛かりたくなる歌詞が、大体全部の曲についている。もうほんと凄いのよマジで(語彙力)。

音楽好きの人々には、しばしば歌詞は軽視される。聞くべきは楽器としての声であって言葉はただの添え物だと、そう考えているバンドマンは多いし、ボカロの作曲者たちもそう考えがちだし、リスナーも半分以上はそうだと思う。
だが小学校から大学まで15年音楽をやって、かつ中学からざっくり四半世紀文字を書き続けてきた私に言わせれば、歌のある曲にとって歌詞はめちゃくちゃに重要なパーツである。もちろん曲あっての歌詞だし、歌詞だけ良くてもダメなのだが、でも歌詞がイマイチだったら、やっぱり曲もイマイチとされてしまうのだ。
「もしもしかめよ~かめさんよ~」のメロディーで「殷・周・秦・漢・三国・晋」を覚えた受験生は多いと思うが、これでもし歌詞が最初から中国王朝だったなら、このメロディーを覚えている人間など、今日び誰もいなかったはずだ。歌詞とは歌に意味を付け、色を付け、世界観を定義し、曲の表現すべきテーマも感情も決めてしまう、めちゃくちゃ責任重大なポジションなのである。

さて、ここまで歌詞を重要視する私が、初見でマジで震えた『GIRLS' LEGEND U』の歌詞が、こちらだ。

春も夏も秋も冬も超え
雨も風も超え雲も闇も超え 勝利へ

ウマ娘『GIRLS' LEGEND U』

これだけ見ても何が凄いのか分からない。そう、「曲先の」歌詞とはそういうものだ。そしてこの歌詞の凄さは、歌詞単体での詩的な良さを十分に持ちつつ曲を損ねない、どころか「曲の良さをより強調する歌詞」としての機能が驚異的なハイレベルだという所にある。「曲の良さ」も色々あるが、リズム、テンポ、疾走感などは、歌詞から見て補強するのが極めて難しい要素で、それらに全振りしたと言っていい尖りまくったこの楽曲で、そこを目いっぱい強調していくこの作詞の手腕はマジで異次元なのだ。

その意味で『GIRLS' LEGEND U』の歌詞は冒頭の「wow wow wow~やっとみんな会えたね」から最後までずっと、ノンストップで凄い所しかないのだが、その中でもこのサビの3+3+2の個所は鬼だ。作詞者を見ると「五十嵐萌(Cygames)」とあるのでサイゲ所属の方なのだろうが、この方は鬼だ間違いない。サイゲには鬼がいる(超誉めてる)。

そもそもこの曲は変態的で(すげー誉めてる)、並みのアーティストなら3曲ぐらいに分割してしまいそうなインパクトの要素を1曲に詰め込んだ、しかも超ハイテンポで音数も多い、めちゃくちゃに作詞しにくい曲である。例えるならばカツ丼とステーキとカレー&ナンが一度に高速の回転寿司レーンに乗って来るような、もうどこからどう取って食えばいいのか、箸かフォークか素手で行くべきかも分からないし、そもそも一食じゃ食い切れない、そういう曲を、整合性を維持して、違和感なく一つのテーマを貫いた歌詞にするだけでもう偉業としか言いようがない。
グランドライブシナリオでは、この歌詞をウマ娘たちが案を出し合って書いていくという話になっていたが、あの小娘集団がレースのためにトレーニングしつつ、歌やダンスのレッスンの片手間にこんなのをちょちょいと書けるなら、土下座して蹄に踏まれて血反吐吐いて死ぬわ。と言いたいぐらいの代物だ。

そもそも多い音数に更に文字数を詰め込んで、軽やかで明るい疾走感を表現しているAメロ。かと思えば突如繊細でしっとりした半テンに始まり、めまぐるしくノリを切り替えてサビへ駆け上がっていく曲調を見事に演出するBメロ。そして息もつかせぬ怒涛のサビ!ここの3+3+3+3+2に「春も夏も秋も冬も超え」を持って来るこのセンス!!
更に更に2番の後、間奏のしっとりとした静かな伴奏から、ボーカルラインだけで大サビの気配を感じさせつつ盛り上がっていき、畳みかける3+3+2の連続で「春夏秋冬」を使った後に「雨・風・雲・闇」ときて、そうだよね悪天候のレースもトレーニングもそうだね一緒に超えてきたよね、そう勝利のために!!とトレーナーの涙腺を直撃してくるわけで!!
もうこれは本当に感動した。ほんとゾクゾクしたし何度聴いてもこの歌詞しかない、この歌詞以外にあり得ない、そんな風に思える歌詞初めて見た。

こういう言葉のハメ方は本当に本当にプロの技で、しかも曲を作る人と歌詞を書く人が別人じゃなきゃ恐らくこうはならない。同一人物でも曲先なら理論上はあり得るんだろうけれども、両方作る人はまずこういう歌詞は書かない。恐らく書けないのだ。両方作る人が歌詞を重視する場合には、ある程度「歌詞を乗せやすい」メロディーが作られるのでこの現象は起きないし、配慮していない曲にリズム重視の歌詞を乗せる場合、整合性や意味はある程度切り捨てられるのが普通で、その結果「ノリはいいけれど意味は大してない」歌詞、あるいは「意味が凄いけどノリはそこそこ」な歌詞になりがちだ。
この曲にも英語部分はあるのだが、サビにはほとんど使われていない。というより、このサビに対してここまでハマる歌詞は、絶対に日本語じゃなければありえない。英詞に比べてダサいと言われる、必ず1文字ごとに母音が入る日本語の発音でなければ、ここまで怒涛の3+3+2のリズムの良さを引き出す歌詞にはならないはずだし、この疾走感は生まれなかった。
本当にそういう所も含めて、この歌詞はマジで凄まじ過ぎるのである。

やー、凄い。もしこの曲が好きなトレーナー諸氏が、歌詞に対して気を払っていなかったなら、是非この私の熱い思いを記憶した状態で聞いて欲しい。ついでに言えば、「3文字+3文字+2文字」の繰り返しで、どんな意味のある文章や文字列を作れるか、ちょっとで良いから考えてみて欲しい。きっとそうすれば凄さが分かる。

他の曲についても書こうと思っていたのだが、気が付いたら3000字を超えていたのでこの辺で。ウマ娘プレイ中の方に少しでも『GIRLS' LEGEND U』の歌詞がいかに凄いのかが伝わっていれば幸いだ。

うーん、休止してはいるものの、元歌詞書きとしてはやっぱり曲だけでも集めておきたい気もするんだよなぁウマ娘……どうしよかなぁ、またやる……か……?




↓並べるのもおこがましいが歌詞屋時代の一曲のニコ動リンクも。当時は自信満々だったが、10年以上たった今はやはり自分の粗が気になる。いつか黒歴史になってしまう日も来るのだろうか……。


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