松井和翠

松井和翠

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  • 【ミステリ批評ベスト100】

    日本のミステリ批評のベスト100をカウントダウンで紹介していきます。あくまでも、パーソナルなのものであることをご理解ください。

  • 『本格ミステリ・エターナル300』を読もう

    タイトルの通り

  • 和翠の図書館

  • VS-mystery essay "versus"-

    国内と海外、それぞれのミステリー短編をランダムに並べ、共通する要素で即興的に読み解いていく。全100回を予定。

  • 日本のミステリライター

最近の記事

第89位『20世紀冒険小説読本』井家上隆幸

膨大な情報量を纏って読む者を震撼させる圧巻の〝世界冒険小説史〟 【内容】  戦争と革命、謀略と暗殺、冒険小説とスパイ小説、そして大量のノンフィクションを参照し、作り上げられた驚異の大著。 【ここが凄い!】  《冒険小説読本》と聞くと、冒険小説に関する読み物やMOOK本のようなイメージを抱く方も多いだろう。しかし、本書はそのような軽みとは一切無縁だ。【海外編】【日本編】の全2巻、計90章1000頁、その中で言及された作品数は1000冊を優に超える。さらに1章平均5頁程度なが

    • 第90位『英文学の地下水脈』小森健太朗

      〝天才〟黒岩涙香の翻案を軸に、ミステリ史の空隙を埋める 【内容】  ルイス・キャロル、バーサ・M・クレー、ヒュー・コンウェーといった、これまでミステリとの関りが薄いと思われていた作家又は全く看過されていた作家たちにスポットをあて、彼らが日本のミステリ史に与えた影響を剔抉した画期的評論。 【ここが凄い!】  英国文学が本邦探偵小説界に与えた影響は大きい。しかし、そうした際に名前が挙がるのは、だいたいアーサー・コナン・ドイルやG・K・チェスタトンやアガサ・クリスティーといった

      • 第91位『綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー①~③』綾辻行人・有栖川有栖

        斯界を代表する2人が〝本格愛〟を込めて贈る、読むMystery Radio 【内容】  〝新本格〟の代名詞的存在である2人が古今東西の名作短編ミステリを〝名曲〟に見立てて紹介・解説していく、ディスク・ジョッキー風ミステリ案内。 【ここが凄い!】  綾辻行人と有栖川有栖という90年代のミステリ・シーンを牽引してきた2人が、ディスク・ジョッキーならぬ〝ミステリ・ジョッキー〟となって、数々の名品・佳品・珍品を〝プレーヤー〟にかけていく好企画。採録作もコナン・ドイル「技師の親指」

        • 第92位『推理小説作法』土屋隆夫

          本格推理小説の孤塁を守った第一人者による実践的〝兵法の書〟 【内容】  昭和本格推理小説の牙城を鮎川哲也と共に支えてきた著者による実践的な本格推理小説作法の書。 【ここが凄い!】  まず本書から感じるのは、著者の〝小説〟に対する並々ならぬ拘りである。つまり、「推理小説」も〝小説〟である以上、まず〝物語〟として優れたものでなければならないとする、氏の信念である。本書が第二章「推理小説とはなにか」において、一見推理小説とはかけ離れているように思える古典文学の話から筆を起こすの

        第89位『20世紀冒険小説読本』井家上隆幸

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        • 【ミステリ批評ベスト100】
          13本
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          13本
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          8本
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        • 日本のミステリライター
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        • タツミマサアキ・グレーテストヒッツ
          7本

        記事

          第93位『歌舞伎は花ざかり』小泉喜美子

          歌舞伎を愛し、ミステリを愛した才媛の〝白鳥の歌〟 【内容】  愛してやまない歌舞伎を、まるで一流のミステリ小説を読むように語った小泉喜美子、最後の書き下ろしエッセイ集。 【ここが凄い!】  氏の批評の中から、内容が重複する『やさしく殺して―ミステリーから歌舞伎へ』(鎌倉書房)や才気溢れる時評集『ミステリー歳時記』(晶文社)ではなく本書を選ぶのは、単に遺稿集だからというセンチメンタルな理由からではない。彼女は歌舞伎を〝読む〟際、そのドラマツルギーの中に、明らかにミステリと共

          第93位『歌舞伎は花ざかり』小泉喜美子

          第94位『随筆 黒い手帖』松本清張

          〝巨人〟の発想の原点にして、新たなる〝松本清張論〟への試金石 【内容】  〝社会派推理小説〟の巨人・松本清張が推理小説の魅力を語り、自らの創作ノートを披瀝しつつ、その創作作法について語った貴重な随筆集。 【ここが凄い!】  今日にいたるまで松本清張を語る際の語り口はどうも似たりよったりである。曰く〝社会派〟〝時代の闇〟〝動機の重視〟〝人間を描く〟〝ルサンチマン〟等々。確かにそれらは重要だが、そうした点ばかりで語っていると、見失われてしまうものもあるはずだ。例えば、氏が重要

          第94位『随筆 黒い手帖』松本清張

          第95位『ガン・ロッカーのある書斎』稲見一良

          硝煙の香り漂う書斎から贈る、ハードボイルド〝ガン〟エッセイ 【内容】  狩猟家でもある筆者が、ミステリや冒険小説、果ては映画の中に登場する銃器を俎上に乗せ、その正否や背景、意味、そして性能(口径、機構、威力、精度…)を語る。 【ここが凄い!】  ミステリではお馴染みの銃器。しかし、銃社会に生きていない我々にとっては、数ある凶器の中の一つでしかない。しかし、欧米のミステリ・冒険小説では話が違う。日本よりも生活の中に銃器が密着している為か、銃器に関する書き込みが日本のそれより

          第95位『ガン・ロッカーのある書斎』稲見一良

          第96位『本格力』喜国雅彦・国樹由香

          〝本棚探偵〟がお送りする本当に面白い古典ミステリぶっちゃけトーク 【内容】  長年に渡って本格ミステリを研究している《坂東善博士》と普通の女子高生《りっちゃん》が〈現代でも通用する古典本格ミステリとはなにぞや〉を語り合う異色のブックガイド。 【ここが凄い!】  破天荒な書物である。何しろ、評価の定まった古典本格ミステリたちも、普通の女子高生《りっちゃん》にかかると、《つまらない》《ダメ》《どこが面白いの?》と次々一蹴されていくのだ。甚だしきは《途中で読むのをやめた》! 真

          第96位『本格力』喜国雅彦・国樹由香

          第97位『夜間飛行』青木雨彦

          〝昭和ヒトケタ世代〟が綴るエッセイの姿を借りたハードボイルド論 【内容】  ミステリの行間から垣間見えるほろ苦き人生の味を、軽妙洒脱な文体に乗せて描き出す大人のミステリ・エッセイ。 【ここが凄い!】  私はいつか「ハードボイルドってなんですか?」と聞かれたら、この一冊を差し出そうと思っている。なぜなら、雨さんの洒脱な文体の裏には〝昭和ヒトケタ世代〟が蒙ってきた数々の不遇に由来する韜晦と矜持が隠されているからである。例えば、「男たちの過去」の末尾を見よ。その箇所だけを取り出

          第97位『夜間飛行』青木雨彦

          第98位『闇のカーニバル』中薗英助

          〝文学的想像力の深層スペクトル〟の深化を目指すスパイ小説の論理的バイブル 【内容】  国際政治の裏側で暗躍する者たちの実像と、彼らの葛藤を描き続けてきた第一人者に依るスパイ・ミステリィ論のエッセンス。 【ここが凄い!】  スパイ・ミステリィは、その発生から文学と近い位置にいた。少なくとも、キリスト教圏においては、国家への裏切りはそのまま神への裏切りに均しく、その裏切りを〝彼〟が赦し給うか否かという問こそ、グレアム・グリーンが終生問い続けた文学的主題であった(余談ながらその

          第98位『闇のカーニバル』中薗英助

          第99位『書斎の旅人』宮脇孝雄

          書斎の片隅から英国ミステリの世界を旅する好個のエッセイ 【内容】  ヴィクトリア朝時代から現代に至る香り高きイギリス・ミステリの世界を、豊富なエピソードと鋭い観察眼によって解き明かした、名翻訳家による知的エッセイ。 【ここが凄い!】  確かにイギリス・ミステリは面白い。しかし、その面白さを支えているものが、実はよくわからなかったりする。例えば、クリスティの『そして誰もいなくなった』で、なぜ〝被害者〟たちは孤島にノコノコと集まってきたのか。例えば、なぜ文豪チャールズ・ディケ

          第99位『書斎の旅人』宮脇孝雄

          第100位『本格ミステリ・フラッシュバック』千街晶之/市川尚吾/大川正人/戸田和光/葉山響/真中耕平/横井司

          〝昭和ミステリ再評価〟に先鞭を着けたスーパー・ブックガイド 【内容】  松本清張が『点と線』連載を開始した1957年から、綾辻行人が『十角館の殺人』を引っ提げて斯界に登場した1987年までの30年間、所謂〝本格ミステリ・冬の時代〟に発表された優れた本格ミステリを紹介した驚異のブックガイド。 【ここが凄い!】  「評論」だけが「批評」ではない。例えば「ブックガイド」だって、どの時代の、どの作品を、どれだけ挙げるか、という選択そのもので、一つの「批評」となり得る。その事実をあ

          第100位『本格ミステリ・フラッシュバック』千街晶之/市川尚吾/大川正人/戸田和光/葉山響/真中耕平/横井司

          ミステリ批評ベスト100 ~はじめに~

           オールスターが好きだ。  例えば、プロ野球。ペナントレースはそれほど気にならないのに、なぜかオールスター戦だけは気になる。セ・パのスター選手たちがズラリと居並ぶスターティング・オーダーを見るだけでなぜか興奮してしまうのだ。サッカーやバスケットボールなんかも同じだ。ルールも戦術も選手の名前もわからないのになぜかオールスター戦をやっていると気になる。  だからオールタイムベストも好きだ。  思えば、自覚的にミステリを読み始めた時、その道しるべととしたのは『東西ミステリーベスト

          ミステリ批評ベスト100 ~はじめに~

          『涼宮ハルヒの直観』谷川流

          「局部的リアリズムの誕生」。それでもやはりハルヒはハルヒのままなのだった【72】  なんといっても「鶴屋さんの挑戦」について語らなければならない。ここで問題となっているのは、我々が「後期クイーン的問題」と名づけた主題である。しかし、私は「鶴屋さんの挑戦」で描かれた主題よりも、「鶴屋さんの挑戦」が開いている回路のほうに強い興味を抱いている。例えば、「鶴屋さんの挑戦」はほとんど言語遊戯/言語実験に近い叙述トリックを扱っているが、この方向を突き詰めていけば倉阪鬼一郎の描く“バカミ

          『涼宮ハルヒの直観』谷川流

          文学と探偵小説に関する覚え書Ⅲ

          (承前) 11  探偵小説は、文学と共に歩いてきた。  ※ 12  言葉は歩き出す。  ※ 13  戦前、「探偵小説」は探偵が推理するだけの小説を指してはいなかった。  戦後、「推理小説」はむしろ推理よりも社会の風俗と仕組みとそれらに取り込まれていく個人の軋みを描くことに注力していた。  平成以後の「本格ミステリ」を「正統な格式を持つ推理小説」と捉える人間が果たしてどれだけいるか。  ※ 14  「探偵小説」を、「推理小説」を、「本格ミステリ」を、それぞれ語の分

          文学と探偵小説に関する覚え書Ⅲ

          文学と探偵小説に関する覚え書Ⅱ

          (承前) 6  文学というものは必ずしも《人間を描く》ものではない。確かに《人間を描く》ことを目標とする文学もあり得る。しかし、それは文学の一面であって、全面ではあり得ない。  ※ 7  文学を文学として成立させるものは、実験である。よって、文学と呼び得る小説は、凡て実験小説である。しかし、ここでいう実験小説は、単にタイポグラフィックな小説、言葉遊びに徹したような小説、大量の注釈を挿入した小説といった実験らしさを装った小説を指すのではない。小説という実験室の中で、作者の

          文学と探偵小説に関する覚え書Ⅱ