第97位『夜間飛行』青木雨彦
〝昭和ヒトケタ世代〟が綴るエッセイの姿を借りたハードボイルド論
【内容】
ミステリの行間から垣間見えるほろ苦き人生の味を、軽妙洒脱な文体に乗せて描き出す大人のミステリ・エッセイ。
【ここが凄い!】
私はいつか「ハードボイルドってなんですか?」と聞かれたら、この一冊を差し出そうと思っている。なぜなら、雨さんの洒脱な文体の裏には〝昭和ヒトケタ世代〟が蒙ってきた数々の不遇に由来する韜晦と矜持が隠されているからである。例えば、「男たちの過去」の末尾を見よ。その箇所だけを取り出せば、チャンドラーの一場面といっても通用するだろう。ここに収められた四十本のコラムを読めば、時代風俗は風化してもその精神は風化しないということがよくわかるはずだ。ただ一つ、残念なのは「ハードボイルドってなんですか?」という質問をしてくださる人がいないことで――。
【読みドコロ!】
こうしたコラム・エッセイは律儀に冒頭から読む必要はない(勿論、律儀に読んだって構わない)。目次を眺めて気を惹かれたものから読む。または巻末の索引を眺め、好きな作品のことが書いてあるものから読む。ちなみに私の印象に残っているのは前述した「男たちの過去」及び「カッコわるさの子守唄」「ある父離れ」の三篇である。
【次に読むのは?】
都筑道夫「彼らは殴り合うだけではない」(『都筑道夫 ポケミス全解説』)や大沢在昌「私にとってのハードボイルド」(『かくカク遊ブ、書く遊ぶ』)を読んでおくと本書の〝ハードボイルド性〟の一端に触れることができるはず。ちなみに氏は、姉妹編『課外授業』で日本推理作家協会賞(評論・その他部門)を受賞した。
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