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第95位『ガン・ロッカーのある書斎』稲見一良

硝煙の香り漂う書斎から贈る、ハードボイルド〝ガン〟エッセイ

【内容】
 狩猟家でもある筆者が、ミステリや冒険小説、果ては映画の中に登場する銃器を俎上に乗せ、その正否や背景、意味、そして性能(口径、機構、威力、精度…)を語る。

【ここが凄い!】
 ミステリではお馴染みの銃器。しかし、銃社会に生きていない我々にとっては、数ある凶器の中の一つでしかない。しかし、欧米のミステリ・冒険小説では話が違う。日本よりも生活の中に銃器が密着している為か、銃器に関する書き込みが日本のそれよりも具体性に富むことは勿論、銃器そのものが物語や人物造型に密着しているのだ。氏は、そうした観点からチャンドラーやマクリーンに苦言を呈し、逆にヒギンズやライアルを称揚する。その言には経験者ならではの〝重み〟を感じざるを得ない。

【読みドコロ!】
 僅か50頁足らずの表題エッセイが本書のエッセンス。例えば、銃器のエキスパートの著者にかかると名匠ディック・フランシスの銃描写でさえ、《やはり、調べて書いたものなのだ。自ら馴染んだ世界じゃないのだ》ということを見破られてしまう。プロフェッショナルは大変なものだ。

【次に読むのは?】
 同時代に活躍したハードボイルド作家のエッセイとして原尞の『ミステリオーソ』(文庫化の際に『ミステリオーソ』『ハードボイルド』に増補分冊)を併せて読みたい。作品のタイプは違うが、狷介の裏に隠された優しさは共通している。

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