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第100位『本格ミステリ・フラッシュバック』千街晶之/市川尚吾/大川正人/戸田和光/葉山響/真中耕平/横井司

〝昭和ミステリ再評価〟に先鞭を着けたスーパー・ブックガイド

【内容】
 松本清張が『点と線』連載を開始した1957年から、綾辻行人が『十角館の殺人』を引っ提げて斯界に登場した1987年までの30年間、所謂〝本格ミステリ・冬の時代〟に発表された優れた本格ミステリを紹介した驚異のブックガイド。

【ここが凄い!】
 「評論」だけが「批評」ではない。例えば「ブックガイド」だって、どの時代の、どの作品を、どれだけ挙げるか、という選択そのもので、一つの「批評」となり得る。その事実をあらためて教えてくれた一冊が本書だ。ミステリ評論家として実績抜群の千街・横井に両氏に、ネット・サイトや同人誌でその名を知られていた5人が加わり、実に140作家453作品もの本格ミステリが俎上に載せられることとなった。個別の作品レビューは勿論のことだが、詳細な作家紹介はそのまま〝昭和ミステリ作家事典〟といっても通用するほど。本書が上梓されて以降、都筑道夫・梶龍雄・中町信・小泉喜美子といった作家たちの再評価が進み、橋本治『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』(ホーム社)や塚本邦雄『十二神将変』(河出文庫)といった幻の名作たちが復刊したことを考えると、業界に与えた影響は相当大きなものだったはず。まさに、一生使えるミステリガイドといえよう。

【読みドコロ!】
 レビューにせよ、実作品にせよ、当然気になる作家・作品から読んでいくのが常套だが、レビュワーに注目して拾っていくのも面白い。ちなみに私のお気に入りは、国産ミステリ書評サイト『UNCHARTED SPACE』の元管理人・真中耕平氏。鮎川哲也『人それを情死と呼ぶ』(光文社文庫)、笹沢左保『霧に溶ける』(祥伝社文庫)、多岐川恭『異教の帆』(講談社大衆文学館)、『光の廃墟』(文春文庫)といった傑作たちを、氏のサイトで知ることが出来た私にとっては感謝しても感謝しきれない評者なのである。

【次に読むのは?】
 年代に絞った本格ミステリ・ブックガイドといえば、探偵小説研究会が纏めている『本格ミステリ・クロニクル300』(原書房)、『本格ミステリ・ディケイド300』(原書房)、『本格ミステリ・エターナル300』(行舟文化)がある。これに本書と『本格ミステリ・ベスト100:1975-1994』(東京創元社)を加えれば、本格ミステリの約70年の歴史はフォローできることになる。

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