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和翠の図書館

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記事一覧

文学と探偵小説に関する覚え書Ⅲ

(承前)

11
 探偵小説は、文学と共に歩いてきた。

 ※

12
 言葉は歩き出す。

 ※

13
 戦前、「探偵小説」は探偵が推理するだけの小説を指してはいなかった。
 戦後、「推理小説」はむしろ推理よりも社会の風俗と仕組みとそれらに取り込まれていく個人の軋みを描くことに注力していた。
 平成以後の「本格ミステリ」を「正統な格式を持つ推理小説」と捉える人間が果たしてどれだけいるか。

 

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文学と探偵小説に関する覚え書Ⅱ

(承前)


 文学というものは必ずしも《人間を描く》ものではない。確かに《人間を描く》ことを目標とする文学もあり得る。しかし、それは文学の一面であって、全面ではあり得ない。

 ※


 文学を文学として成立させるものは、実験である。よって、文学と呼び得る小説は、凡て実験小説である。しかし、ここでいう実験小説は、単にタイポグラフィックな小説、言葉遊びに徹したような小説、大量の注釈を挿入した小

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文学と探偵小説に関する覚え書Ⅰ


 「文学」は、少なくとも「文学」を考えるときにのみ現れる幻想ではない。それは確かに存在する。しかし、その定義乃至範囲乃至領域を規定しようとすると、途端にそれらの境界は漠とし始める。

 ※


 文学という漠としたものと探偵小説の関わりについて考えるとき、私がまず想起する言葉は開高健のそれである。

 ※


 開高の言葉に従えば、ポーが『モルグ街の殺人』で行ったことは実験物理学である。そ

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『和翠の図書館Ⅰ』蔵書目録

『和翠の図書館Ⅰ』蔵書目録

【掌篇百撰】
Ⅰ むかし
(今昔物語)「攝津國来小屋寺盗鍾語」
(宇治拾遺物語)「博打の子聟入りの事」
都賀庭鐘「白水翁が賣卜直言奇を示す話」
小泉八雲「はかりごと」
菊池寛「義民甚兵衛」
中島敦「牛人」
小川未明「金の輪」
Ⅱ せつない
坂口安吾「傲慢な眼」
太宰治「葉桜と魔笛」
三橋一夫「夢」
山田風太郎「鳥の死なんとするや」
川端康成「心中」
三浦哲郎「拳銃」
太田忠司「雛の殺人」
山川方夫

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ノンフィクション ~Ⅳ 歴史~ 『渋江抽斎』森鴎外(1)

【ミステリーカット版『渋江抽斎』をつくる】

   一

 『渋江抽斎』をノンフィクションとして読むということ、さらにミステリとして読むことは果たして可能だろうか。
 前者に関しては問題なく可能だろう。『渋江抽斎』は一応〝史伝小説〟という分類になってはいるが、鴎外がこの小説を書くために試みた手法は現代のノンフィクション・ライターが一編のノンフィクションを物すときに用いる手法と何ら変わりがない。例え

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第八巻 掌編百撰

はじめに

 《和翠の図書館》第八巻は「掌編百撰」をお送りする。

 ※

 読んで字の如く「掌編」を「百」作品「撰」集した巻ということになるが、「ショート・ショート」ではなく「掌編」、「選」ではなく「撰」、という字句をそれぞれ採用したのには、多少なりともわけがあるつもりでいる。
 といっても、後者に関しては単純である。いま私の手元にある辞書に拠ると「撰」という一字には「詩文を選び編集する」という

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《和翠の図書館》蔵書目録

《和翠の図書館》蔵書目録

 《和翠の図書館》では「推理小説」及び「探偵小説」に隣接する分野や媒体のミステリ作品を蒐集・収蔵しております。現在、【文学と探偵小説(2室)】【戯曲】【脚本・シナリオ】【ノンフィクション】【子どもたちのために】【漫画】【掌編百撰】【文学の探偵たち】の8分野9室を開室中です(尚、残る1室【さまざまなかたち】は現在準備中です)。
 以下、蔵書目録を公開いたします(*は松井による解説)。

【文学と探偵

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【和翠の図書館】~開館のお知らせ~

 大江健三郎・井上ひさし・向田邦子・手塚治虫・那須正幹・沢木耕太郎・そして星新一・・・。多彩なジャンルから参集した天才たちの饗宴に、ひっそりと咲いたまま忘れ去られた秀篇が花を添える。八巻の〝部屋〟から構成される夢のライブラリ、ここに開館―。

第一巻 文学と探偵小説(上)
第二巻 文学と探偵小説(下)
第三巻 戯曲
第四巻 脚本・シナリオ
第五巻 マンガ
第六巻 こどもたちのために
第七巻 ノンフ

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